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ep.0 目覚め前(アルバート視点)
5 ルーリー
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翼のないアルバートは一階まで階段で降りると、背負っていた武器と荷物を下ろし、聖騎士の短いマントを外した。衣装をコートハンガーにかけると、マントだけでなく神子さまの紋様の上着もブーツもベルトやズボンも脱いで、休暇の時に愛用している質素な服に着替える。
聖騎士の正装は汚れやほつれがないか確認して、小さなものなら自分で修繕しなければならない。破れても少しの金額を支払えば新しく支給されるが、まだ聖騎士になったばかりのアルバートには何度も請求は出来なかった。金銭面で実家に頼りたくないというのも大きい。
疲れていたので衣装の修繕や部屋の掃除は後回しだ。アルバートは綺麗好きだったが、昨日はほぼ徹夜だったので眠気のほうが勝った。武器を枕元に置き、自分用のベッドに潜り込む。
ほとんどのエルトリア国民には入眠前に唱える祈りの言葉があった。
それは『神子さま、はやく目を覚ましてください。そして私たちをお守りください』というものだ。アルバートも子供の頃は毎日唱えていた。『お守りください』の後に、ちょっとした願い事を添える日もあった。
『はやく父上に認められますように』とか『母上の病気を治してください』と言っていた時期もあった。いつから言わなくなったのだろう。だが、灯台に行き、サデの話を聞いた今日、アルバートは両手を胸で交差させた。
「神子さま……」
言葉に詰まって少し考える。ロジェに言ったように、神子など本心では少しも敬ってはいない。だが、国境の灯台守のように神子を心から信じている人々がたくさんいることは確かだ。
「神子さまを信じている人たちのためにも、早くお目覚めください」
半ばため息混じりに祈ると、それ以上は何も考えず眠りについた。
***
アルバートが目を覚ましたのは昼近くなってからだ。熟睡していたが、ゼフィーの鳴き声で目を覚ました。
ゼフィーの部屋とアルバートの居住スペースは分けられているが、ゼフィーが本気を出せば区分けなどやすやすと突破できる。でもゼフィーはちゃんとわきまえていて、アルバートの部屋とゼフィーの部屋の間にある窓から顔を出して鳴いているだけだった。お腹が空いたらしい。
「おはよう、ゼフィー。朝から元気だな……いや、もう昼か」
人間用の玄関を開けるとゼフィーもついて来た。近くの川へ水を汲みに行く。アルバートが水を汲んでいる間、ゼフィーも水を飲み、水浴びもする。
「しっかり拭かないと部屋が水浸しになりそうだな……」
水を汲んだ後は、家に戻ってグリフォンの食事作りだ。グリフォンの食事は肉や魚にかたよらない事と、神子さまの聖水を一滴混ぜることを忘れてはならない。魔法の闇の地で生まれたグリフォンは、神子さまの魔法の聖水を定期的に与えなければしだいに凶暴化して人間の手に負えなくなる。
ご飯を食べると、ゼフィーは外に遊びに行った。近くを飛びまわって、気が済めば帰ってくる。
ゼフィーがいない間にアルバートはグリフォンの居住スペースの掃除をした。床の羽毛や獣毛を掃き清めて、食器類を洗う。
それが終わってようやくひと息ついた。休暇中は村の市場に買い出しに出かける程度にして、あとは家でのんびり過ごそうと思っていた。アルバートは料理が好きなので、果樹園に実る果物で何か料理を作ろうか考える。
お茶を飲み、窓の外を眺めていると少し離れた隣家から籠を下げた女性がこちらに歩いて来るのが見えた。手を振っている。ルーリーだ。
ルーリーはアルバートより三歳年上の幼馴染で、昔ヘニング家に勤めていた庭師の娘だ。子供の頃、庭で遊んでいて友達になった。
あの頃は兄のワイアットも他の召使いの子供もみんな仲良く遊んでいたと思う。十歳をこえたあたりからそれぞれ身分を意識するようになり、仲良く対等な関係は終わりを告げた。だが、アルバートとルーリーはその後も仲が良く、この地域に家を安く借りられたのもルーリー家の紹介があったからだ。
アルバートにとってルーリーは家族のような存在だった。
聖騎士の正装は汚れやほつれがないか確認して、小さなものなら自分で修繕しなければならない。破れても少しの金額を支払えば新しく支給されるが、まだ聖騎士になったばかりのアルバートには何度も請求は出来なかった。金銭面で実家に頼りたくないというのも大きい。
疲れていたので衣装の修繕や部屋の掃除は後回しだ。アルバートは綺麗好きだったが、昨日はほぼ徹夜だったので眠気のほうが勝った。武器を枕元に置き、自分用のベッドに潜り込む。
ほとんどのエルトリア国民には入眠前に唱える祈りの言葉があった。
それは『神子さま、はやく目を覚ましてください。そして私たちをお守りください』というものだ。アルバートも子供の頃は毎日唱えていた。『お守りください』の後に、ちょっとした願い事を添える日もあった。
『はやく父上に認められますように』とか『母上の病気を治してください』と言っていた時期もあった。いつから言わなくなったのだろう。だが、灯台に行き、サデの話を聞いた今日、アルバートは両手を胸で交差させた。
「神子さま……」
言葉に詰まって少し考える。ロジェに言ったように、神子など本心では少しも敬ってはいない。だが、国境の灯台守のように神子を心から信じている人々がたくさんいることは確かだ。
「神子さまを信じている人たちのためにも、早くお目覚めください」
半ばため息混じりに祈ると、それ以上は何も考えず眠りについた。
***
アルバートが目を覚ましたのは昼近くなってからだ。熟睡していたが、ゼフィーの鳴き声で目を覚ました。
ゼフィーの部屋とアルバートの居住スペースは分けられているが、ゼフィーが本気を出せば区分けなどやすやすと突破できる。でもゼフィーはちゃんとわきまえていて、アルバートの部屋とゼフィーの部屋の間にある窓から顔を出して鳴いているだけだった。お腹が空いたらしい。
「おはよう、ゼフィー。朝から元気だな……いや、もう昼か」
人間用の玄関を開けるとゼフィーもついて来た。近くの川へ水を汲みに行く。アルバートが水を汲んでいる間、ゼフィーも水を飲み、水浴びもする。
「しっかり拭かないと部屋が水浸しになりそうだな……」
水を汲んだ後は、家に戻ってグリフォンの食事作りだ。グリフォンの食事は肉や魚にかたよらない事と、神子さまの聖水を一滴混ぜることを忘れてはならない。魔法の闇の地で生まれたグリフォンは、神子さまの魔法の聖水を定期的に与えなければしだいに凶暴化して人間の手に負えなくなる。
ご飯を食べると、ゼフィーは外に遊びに行った。近くを飛びまわって、気が済めば帰ってくる。
ゼフィーがいない間にアルバートはグリフォンの居住スペースの掃除をした。床の羽毛や獣毛を掃き清めて、食器類を洗う。
それが終わってようやくひと息ついた。休暇中は村の市場に買い出しに出かける程度にして、あとは家でのんびり過ごそうと思っていた。アルバートは料理が好きなので、果樹園に実る果物で何か料理を作ろうか考える。
お茶を飲み、窓の外を眺めていると少し離れた隣家から籠を下げた女性がこちらに歩いて来るのが見えた。手を振っている。ルーリーだ。
ルーリーはアルバートより三歳年上の幼馴染で、昔ヘニング家に勤めていた庭師の娘だ。子供の頃、庭で遊んでいて友達になった。
あの頃は兄のワイアットも他の召使いの子供もみんな仲良く遊んでいたと思う。十歳をこえたあたりからそれぞれ身分を意識するようになり、仲良く対等な関係は終わりを告げた。だが、アルバートとルーリーはその後も仲が良く、この地域に家を安く借りられたのもルーリー家の紹介があったからだ。
アルバートにとってルーリーは家族のような存在だった。
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