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ep.0 目覚め前(アルバート視点)
4 帰宅
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「神子さまは男なんだろ? 何で結婚相手が聖騎士の男なんだ。村の女性でもいいし、それこそ神官でいいじゃないか。大神殿には神子に一生を捧げている神官が大勢いる。全員男だし、若いやつだっているだろ」
「声がでかい」
ロジェが周囲を見まわしたので、アルバートも慌てて声のトーンを落とした。幸い店内では酔っぱらった客が多く、演奏や騒がしい声に紛れて誰も聖騎士二人の会話に注意を向けていなかった。
「文献を読まなかったのか? 神子さまはもともと幼馴染の男と親密で、彼のことをお好きだったのではないかと言われている。聖騎士団を作り初代隊長になられた方だ。だから歴代のお相手は聖騎士から選ばれるんだ」
「初代隊長の話なら俺でも知ってる」
聖騎士団を作った隊長は、聖騎士たちの師匠のような存在だ。八百年前に神子さまを守るために騎士団を創設し、その後神子さまを守って亡くなったという。今でも聖騎士団本部に記念碑と彼の遺品が保管されている。
「でも確か初代隊長には妻子がいたんだろ。神子さまが好きだったとか、後世の人間が勝手に付け加えたんじゃないのか。本人が眠ってるから聞きようがない」
「アルバートは聖騎士には珍しいくらい、神子さまへの敬意が足りないな」
「神子さまといっても、どうせ骨と皮のミイラか、しわくちゃの爺さんだろ。存在するのかどうかも怪しい」
「おい、それは降格処分になりそうな発言だぞ。お偉いさんの前でそんなこと言うなよ」
「わかってるよ。俺も一応ヘニング家の人間だから、本音と建前は使い分ける」
ロジェはため息を吐いた。
「そんなこと言ってたら、神子さまの結婚相手に選ばれるぞ。聖騎士は多数存在するが、条件に当てはまる男は少ない」
「ロジェ先輩は?」
「俺は没落貴族の息子だからな。名門と争う力なんてないよ」
「争うのか」
「当然だ。一族から神子の伴侶が現れれば、絶大な権力を手にできる」
「権力とか、そういう話は嫌いだ」
「お前はそうだろうな」
それから夜明け近くまでロジェと酒を飲んで語ったはずなのに、アルバートは神子の結婚の話が気になって心から楽しめなかった。やっとの思いで家を出て、ようやく聖騎士になれたばかりだ。これ以上実家の権力闘争に巻き込まれたくなかった。
***
アルバートが個人で借りている家は、ナラミテの街より王都に近い場所にあった。神子さまの結界は王都の大神殿を中心に張られているので、王都に近づくほど豊かで平和な景色が広がる。
アルバートは、夜明け頃ゼフィーの背に乗って自分の家に帰ってきた。任務をこなせば最低でも三日は休暇がもらえる。
眼下に広がるのどかな景色が陽の光のもとに明るく映し出される。美しい農園と川、その先には果樹園もある。
この景色を見るとアルバートはほっとする。借りた家には休暇の間しか帰れないが、アルバートの好きなものしか置かれていない。無関心なのに厳しい父親も、冷たい継母も、見下してくる腹違いの兄もいない。自分一人で過ごせる快適な場所だ。
ゼフィーも家の場所がわかっているので、アルバートが何も言わなくても自宅を見つけて高度を下げた。アルバートが借りた家は、小さくて古い家だ。それを任務の報酬で少しずつ改築していった。今は家の半分がゼフィー専用の居住スペースになっている。
ゼフィーが家の屋上に作られた平らな場所に降り立つと、アルバートもゼフィーから降りて屋上にある扉を開ける。屋上の扉はかんぬきがかけてあるだけだが、空を飛ぶ生き物でなければここからは侵入できないし、この古い家に窃盗目的で入る者もいないだろうと、防犯対策はほとんどしていなかった。
扉を入った先は吹き抜けと一階に降りる階段があり、階段の隣には日用品の収められた屋根裏倉庫がある。ゼフィーは軽々と吹き抜けを飛び降りて、一階の自分専用の部屋に入っていった。部屋といっても家具は食事用の食器と三角形の屋根のついた大型ベッドがあるだけだ。匂いを消す効果のある乾燥植物が詰められた布製のベッドはゼフィーのお気に入りだ。そこに身体を横たえてくつろぐ姿を見て、アルバートは可愛いと思うのだった。
「声がでかい」
ロジェが周囲を見まわしたので、アルバートも慌てて声のトーンを落とした。幸い店内では酔っぱらった客が多く、演奏や騒がしい声に紛れて誰も聖騎士二人の会話に注意を向けていなかった。
「文献を読まなかったのか? 神子さまはもともと幼馴染の男と親密で、彼のことをお好きだったのではないかと言われている。聖騎士団を作り初代隊長になられた方だ。だから歴代のお相手は聖騎士から選ばれるんだ」
「初代隊長の話なら俺でも知ってる」
聖騎士団を作った隊長は、聖騎士たちの師匠のような存在だ。八百年前に神子さまを守るために騎士団を創設し、その後神子さまを守って亡くなったという。今でも聖騎士団本部に記念碑と彼の遺品が保管されている。
「でも確か初代隊長には妻子がいたんだろ。神子さまが好きだったとか、後世の人間が勝手に付け加えたんじゃないのか。本人が眠ってるから聞きようがない」
「アルバートは聖騎士には珍しいくらい、神子さまへの敬意が足りないな」
「神子さまといっても、どうせ骨と皮のミイラか、しわくちゃの爺さんだろ。存在するのかどうかも怪しい」
「おい、それは降格処分になりそうな発言だぞ。お偉いさんの前でそんなこと言うなよ」
「わかってるよ。俺も一応ヘニング家の人間だから、本音と建前は使い分ける」
ロジェはため息を吐いた。
「そんなこと言ってたら、神子さまの結婚相手に選ばれるぞ。聖騎士は多数存在するが、条件に当てはまる男は少ない」
「ロジェ先輩は?」
「俺は没落貴族の息子だからな。名門と争う力なんてないよ」
「争うのか」
「当然だ。一族から神子の伴侶が現れれば、絶大な権力を手にできる」
「権力とか、そういう話は嫌いだ」
「お前はそうだろうな」
それから夜明け近くまでロジェと酒を飲んで語ったはずなのに、アルバートは神子の結婚の話が気になって心から楽しめなかった。やっとの思いで家を出て、ようやく聖騎士になれたばかりだ。これ以上実家の権力闘争に巻き込まれたくなかった。
***
アルバートが個人で借りている家は、ナラミテの街より王都に近い場所にあった。神子さまの結界は王都の大神殿を中心に張られているので、王都に近づくほど豊かで平和な景色が広がる。
アルバートは、夜明け頃ゼフィーの背に乗って自分の家に帰ってきた。任務をこなせば最低でも三日は休暇がもらえる。
眼下に広がるのどかな景色が陽の光のもとに明るく映し出される。美しい農園と川、その先には果樹園もある。
この景色を見るとアルバートはほっとする。借りた家には休暇の間しか帰れないが、アルバートの好きなものしか置かれていない。無関心なのに厳しい父親も、冷たい継母も、見下してくる腹違いの兄もいない。自分一人で過ごせる快適な場所だ。
ゼフィーも家の場所がわかっているので、アルバートが何も言わなくても自宅を見つけて高度を下げた。アルバートが借りた家は、小さくて古い家だ。それを任務の報酬で少しずつ改築していった。今は家の半分がゼフィー専用の居住スペースになっている。
ゼフィーが家の屋上に作られた平らな場所に降り立つと、アルバートもゼフィーから降りて屋上にある扉を開ける。屋上の扉はかんぬきがかけてあるだけだが、空を飛ぶ生き物でなければここからは侵入できないし、この古い家に窃盗目的で入る者もいないだろうと、防犯対策はほとんどしていなかった。
扉を入った先は吹き抜けと一階に降りる階段があり、階段の隣には日用品の収められた屋根裏倉庫がある。ゼフィーは軽々と吹き抜けを飛び降りて、一階の自分専用の部屋に入っていった。部屋といっても家具は食事用の食器と三角形の屋根のついた大型ベッドがあるだけだ。匂いを消す効果のある乾燥植物が詰められた布製のベッドはゼフィーのお気に入りだ。そこに身体を横たえてくつろぐ姿を見て、アルバートは可愛いと思うのだった。
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