転生したら神子さまと呼ばれています

カム

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ep.4 呪術師

7 おもち逃走

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「あの、トイレに行きたいんだけど……」

 ネリが鳥籠を燃やして出ていってからルドと二人になったので話しかけてみる。多分この人の方が冷静で強いけど、今のところ丁寧な態度だしそんなに危害は加えられないと思う。綺麗好きな人っぽいからここでしろとか言われないはず。

 ルドは焦げた鳥籠を眺めてしばらく俺を見た。逃げ出そうとしてるのバレてるかな。ここで逃げられなくても建物の間取りや地理くらい頭に入れておきたい。

 ルドは俺について来た神官を呼んだ。鳥籠の鍵を開け、扉の結界を解く。手の鎖を引っ張られて鳥籠の外に出た。ずっと座っていたから足が痺れてふらつく。おもちが鳴かないかヒヤヒヤした。

「かなめ様、逃げようなどと思わないことです。逃げれば神官の命が失われますよ」

 神官に鎖を引かれて歩く。俺の間取りを把握する作戦は失敗に終わった。なぜかというと、トイレはすぐ近くにあったから。天幕だらけで外の様子は全然見えないし、トイレにいる間は外で神官が見張ってる。

「これからどうしよう……」

 トイレの椅子に座って頭を悩ませても、逃げる方法が思い浮かばない。このまま呪術師たちの言いなりになって暴風避けになるしかないんだろうか。人質に取られて大神殿やエルトリアの人たちが辛い目にあったりするのは嫌だ。八百年前の記憶の中の神官たちはみんな冷たかったけど、目を覚ましてから出会ったエリンやシリン、司祭さまや大司教のおじいちゃんはみんな優しくしてくれた。
 それにアルバート、ヨルグや聖騎士たちも……。

「みんな無事かな」
「ピィ」

 無意識に声に出したら、おもちが袖の隙間から顔を覗かせた。

「おもち……見つかったら呪術に使われるから隠れて」
「ピィ」
「でも、お前がいてくれて良かった」

 頬ずりすると、おもちは翼をふるわせた。それから俺の服についていた宝石をくちばしでむしり取るとそのままごくんと飲んでしまった。

「えっ⁉︎」
「かなめ様、まだでしょうか」
「あっ、もう出ます」

 外にいた神官に不審に思われないように慌てて返事をしたけど、おもち宝石なんか食べて大丈夫なのかな。
 俺の心配をよそに、おもちは吐き出しもせずにふわっと飛び上がった。捕まえようとしたら神官が入って来た。

「かなめ様、何をしているのですか」
「あの、ええと……お腹が痛くて」
「では薬を用意いたします」

 神官が入って来て有無を言わさず鎖を引っ張る。おもちが気になるけど存在がばれるのはまずい。一度だけ振り返ると、おもちは天井近くにあった燭台にとまってこっちを見下ろしていた。

 再び鳥籠に入れられて鍵を閉められる。ルドが戻って来て魔法の結界を新しく張り直した。ルドの呪術は強力だとネリが言っていたけど、前世でよく使ってた食品用ラップみたいで、多分強度もそれくらい。八百年もたって魔法が進化していてもおかしくないのに、それほどでもないのかな。
 でも二重の鍵は割と厄介だ。物理的な鍵は素手では開けられないし、魔法の結界は破ればすぐに見つかってしまう。

「かなめ様は腹痛を訴えておいでとか。薬は用意いたしますが、しばらく食事は抜かれたほうがよろしいでしょう」
「俺が死んだら困るんじゃないの?」
「そうしたら別の神子を連れてくるまでです」
「サデの神子を殺したみたいに?」

 ルドは冷たく笑った。

「そうです。代わりはいくらでもいる。それに神子が全て失われても、呪術があれば魔法の暴風などとるにたりません」

 たいした強度もなさそうだけど……と言うのはやめておいた。

***

 それから神官が一度薬を運んできた以外は誰も鳥籠にやって来なかった。瓶に入った水だけもらえたから薬は捨てて水を飲んで過ごす。なんだか俺ってこういうのばっかりだ。前世で入院している時も絶食とかよくあったし、トイレもお願いしないと行けなかったから、慣れているといえば慣れてるんだけど、健康で歩き回れるのに閉じ込められるってもう呪われてるとしか思えない。

「……」

 なんだろう、呪いっていう言葉がすごく腑に落ちた。八百年も眠っていたのも、誰かに眠らされていたのかも。前世のことは夢だったのかもしれないし。でも誰かに呪われてるって考えると余計気が滅入るからやめよう。
 
 おもち、見つかってないかな。
 焦げたクッションにもたれていると、ふいに耳元で声がした。

『……エルトリアの神子の様子はどうだ』

 びっくりして起き上がったけど誰もいない。でも声は聞こえる。初めて聞く声だ。低くて歳をとった男の声みたいだ。

『今のところ大人しくしています。魔力はあるようですが、なんの呪文も使っていません。目覚めたばかりで過去の記憶を失っているというのは本当のようです』

 これはルドの声だ。相変わらず姿は見えないけど声は聞こえる。これ、きっとおもちの能力だ。
 
 
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