転生したら神子さまと呼ばれています

カム

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ep.4 呪術師

8 糸の魔法

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 早く逃げて欲しいのに、おもちはこの建物の中で迷子になってるのかな。また捕まって今度も爆弾にされたら助けられるかわからない。

『……呪文が使えないのなら役に立たないではないか』
『ご心配なく。いくらでも方法はございます』
『サデの神子のように、ルドが魅了の魔法でもかければ良いのよ』

 これはネリの声だ。魅了の魔法……そんなのがあると厄介だな。サデの神子、会ったことはないけど可哀想に。

『やめてくれないか。魅了の魔法など使った覚えはないんだが』
『よく言うよ』
『確かに、サデの神子はルドヴィルに心酔していたようだ。お前の魔力と見た目ならエルトリアの神子も操れるかもしれんな』
『主の命令であれば』

 冗談じゃない。俺が好きなのは幼なじみのアルだけだ……。
 だけど頭に思い浮かべたのは聖騎士のアルバートの方だった。八百年の眠りから目覚めた時、俺の顔を覗き込んでいた結婚相手。アルとは髪の色も瞳の色も同じだ。そばかすがあって日に焼けた幼なじみのアルに比べて、聖騎士のアルバートは肌が綺麗で髪もサラサラしてる。アルの瞳や表情は好奇心に溢れているのに、アルバートの目つきは鋭いし表情はかたい。でも二人はよく似てる。アルが成長したら、きっとアルバートみたいな顔になったんじゃないかなと思えた。

「やっぱりどっちのアルも好きだなぁ……」

 どっちが、とは言えないけど、どっちのアルも俺の大切な人だ。会いたい。幼なじみのアルにはもう会えないけど……。

 メソメソしていると、主と呼ばれた呪術師の男が衝撃的なことを話し始めた。

『……ネリ、それで囮の方は潰せたのか?』
『王都に辺境の魔物が出るとは思ってない腑抜けばかりだからね。聖騎士と言っても、本当に油断ならないのは第七部隊のジャック=ワイスと第一部隊のレイ=トレアムくらいよ』
『では殺したんだろうな』
『隊長クラスはネリには荷が重いのでは?』
『馬鹿にするんじゃないよ。八百年も平和な国でのうのうと生きてきた奴らに負けるわけないでしょ。それにサデの魔物もセットでばら撒いてやったんだ。聖騎士たちにもかなりの深手を負わせてやったわ』
『殺さないと回復される』
『ふん、あっちには神子がいないのよ』

 ジャック隊長やレイ隊長が……?
 怖すぎて手が震えた。俺は襲われたのは自分たちの馬車だけだと思ってたけど、まさか囮の馬車も襲われていたなんて。アルバートやエリンや俺の代役をしていた神官はどうなったんだろう。

『エルトリアの王がどう対応するか見ものだな。神子が攫われた情報はまだ流れていないが、いつまでも国民に隠しておけないだろう。我々の要求をのむしかあるまい』

 なんて事するんだろう。自分たちの欲望のためだけに多くの人を傷つけて。許せない。
 みんなには無事でいて欲しい。俺が逃げられたらみんなを回復させてあげるのに。

『神子はサデに移動させますか?』
『いや、ここなら聖騎士たちにも気づかれまい。ルドヴィルは神子に注意しておけ。死なれるな。魔法も使わせるな。ネリは聖騎士の動向を探れ』
『畏まりました』
『分かったわ』

 その後、呪術師たちの声は聞こえなくなった。おもちが移動したみたいだ。しばらく耳を澄ませても何も聞こえない。おもちが無事に脱出したと信じて焦げたクッションに横になった。

***

 浅い眠りを繰り返して時間だけが過ぎていった。鎖のある神官は鳥籠の外で俺を見張っているけど、呪術師たちはあれから一度も来なかった。ルドは結界が破られていないから安心してるんだろうな。
 神官は何度か短くなった蝋燭を変え、飲み水を運んで来た。話しかけてもほとんど何も話さない。きっと何も話すなと命令されているのだろう。八百年前の夢も見られなかった。眠れないしすることもないので魔法について考えてみることにした。

 ルドに襲われた時、俺は糸のような魔法を彼にくっつけたはずだ。ルド本人にも呪術師にも気づかれていなかったけど、確かにそれをやった。あれはおそらく八百年前に俺が作り出したオリジナルの魔法だと思う。

 鳥籠の前の椅子に座って俺を見張っている神官を盗み見る。うとうとして眠りかけている。指先から魔法を出すイメージで言葉をつぶやくと、するりと魔法の糸が鳥籠を抜け神官まで伸びた。食品ラップみたいな結界に針の先くらいの穴が空いてヒヤリとしたけど、気づかれなかったみたいだ。魔法の糸は神官の靴に絡みついた。
 これくらいはっきりした糸だと気づかれるかも。そう思っただけで糸は限りなく細くなり、ほとんど見えなくなった。

「やった……」

 小声で呟く。足だけでなく、手首にも糸を絡ませたらいざという時に動きを止められる。呪術のように命令すれば鍵を開けさせることもできるかも。

 その時、建物の近くで大きな何かが爆発するような音が響いた。天井からパラパラと小さな石のかけらや砂埃が落ちてくる。びっくりしてクッションを抱きしめた。爆発音は何度も続き、蝋燭の火が揺れる。何があったんだろう。
 




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