転生したら神子さまと呼ばれています

カム

文字の大きさ
85 / 112
ep6.王族と神子

6 サデの王様

しおりを挟む
 王様は長いストレートの髪をしていた。サデの人特有の黒灰色の髪。年はおそらく二十代後半か三十代。テントの奥の長椅子にもたれるようにして座っている。俺は五十代から六十代の王様にしか会ったことがないから、若い王様って新鮮だ。ゆったりした服を着て座っているけど、多分背が高くて痩せてると思う。冠のようなものは何もなく、耳に金色の飾りを付けている。

 でも、王様にはそれとは別に大きな特徴があった。
 顔の上半分が黒いマスクで覆われて口元しか見えないのだ。
 そして服の下から伸びる黒い鎖。さらに両手は棘と鎖だらけだ。顔を隠している黒いマスクがよく見ると大量の鎖だと気づいて悲鳴が溢れそうになった。
 どうしてこんな状態で放ってるんだ?

「あ、あの……」

「エルトリアの神子だね。出迎えもできなくて申し訳ないが、病で思うように身体が動かないのだ。イルケデニアスは暗くて、目の悪い私にはよく見えないが、美しい顔立ちをしているとか」

 見えないのは当然だ。鎖が巻き付いているんだから。

「私はサデの王イザークだ。知っていると思うが、サデの神子は失われ、国も闇に呑まれようとしている。神子よ、私を助けてもらえないだろうか。病で動くこともままならない。神官たちは痛みを和らげることはできるが、病の進行は止められぬのだ」

 まるで前世の病院にいた俺みたいだ。前世の俺でも同じことを願っただろうな。

「エルトリアの佐伯要です。サデのことは聞いています。俺にできることがあれば力になります。でも、俺はすぐにエルトリアに戻らなければならないので、本格的な治療はエルトリアの大神殿では駄目ですか?」

 俺が言うと王は笑った。

「それはありがたい申し出だが、私はイルケデニアスから動くことはできない。私がエルトリアに滞在すれば命を落とすだろう。エルトリアの王はサデの領地を狙っているからな。
 ここで私と会い、治療したことも内密にしてもらいたい。約束してもらえぬならここから出すことはできぬ。だが、私を治してくれるなら君たちを安全にエルトリアまで送り届けよう」

 物腰も柔らかで笑みを浮かべていても、王様はやっぱり王様なんだな。
 俺はちらっとアルバートを振り返った。アルバートはあまり良い顔をしていない。俺も脅されるのは好きじゃないけど、呪術に苦しむ人を放っておけない。

「分かりました。治せるかどうかわからないけど診てみます」

***

 座っている王様の顔の鎖に触れてみる。この呪いは強力だ。キツく何重にも巻き付いているからきっと子供の頃からの物だと思えた。痛いだろうな……。
 ゆっくりと撫でるように鎖に触れると、ポロポロと外側が崩れた。これ、けっこう大変な作業だ。かなり魔力を使うのに、一番外側の部分しか浄化できない。これを創った人はかなり実力がある。ルドやネリじゃない。

「イザーク王、サデの神子には病を診てもらわなかったのですか?」

 アルバートが俺のそばで治療の様子を見ながら話しかける。

「君は神子さまの聖騎士かな。神官のようには感じないが」

「申し遅れました。私は神子さまの伴侶でアルバート=ヘニングと言います」

「神子が結婚して目覚めたという話はヴィカから聞いた。八百年の眠りから目覚めさせるとは、神子は君のことがよほど気に入ったのだろう」

「そうですね。お気に召していただけたようで安堵しました」

 アルバートは真顔でそんなこと言ってる。聞いていて恥ずかしくなった。俺がアルバートを好きすぎて目覚めたみたいじゃないか。まあ、本当に好きだけど……。

「君の質問の答えだが、サデの神子は……ある時期を境に魔法を使わなくなったのだ」

「えっ?」
「使わなくなった?」

「サデの神子は数年前から神殿にこもるようになり、回復の魔法も防御結界の魔法も一切使用しなくなった。国は荒れ、新しい神子を推す一派と反対派が争いを続けた。そして数ヶ月前に神子は神殿から飛び降りて亡くなった。サデの滅亡はそれが原因だ。神子は何があっても死んではならない。脆弱な神子などいない方がマシというものだ」

 忌々しそうに王様が語る内容が怖すぎて手が震えた。サデの神子さまに何があったのか俺には分からないけど、きっとみんなが思う以上に苦しかったのだと思う。それに、飛び降りたのだって呪いや暗殺かもしれない。

「その点、エルトリアの神子は八百年も国を守り続けている。神子の鑑だな。羨ましいことだ」

 鎖があるのに、じっと見られているような気がして居心地が悪い。早く治してしまってここから出たい。
しおりを挟む
感想 244

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

処理中です...