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ep6.王族と神子
6 サデの王様
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王様は長いストレートの髪をしていた。サデの人特有の黒灰色の髪。年はおそらく二十代後半か三十代。テントの奥の長椅子にもたれるようにして座っている。俺は五十代から六十代の王様にしか会ったことがないから、若い王様って新鮮だ。ゆったりした服を着て座っているけど、多分背が高くて痩せてると思う。冠のようなものは何もなく、耳に金色の飾りを付けている。
でも、王様にはそれとは別に大きな特徴があった。
顔の上半分が黒いマスクで覆われて口元しか見えないのだ。
そして服の下から伸びる黒い鎖。さらに両手は棘と鎖だらけだ。顔を隠している黒いマスクがよく見ると大量の鎖だと気づいて悲鳴が溢れそうになった。
どうしてこんな状態で放ってるんだ?
「あ、あの……」
「エルトリアの神子だね。出迎えもできなくて申し訳ないが、病で思うように身体が動かないのだ。イルケデニアスは暗くて、目の悪い私にはよく見えないが、美しい顔立ちをしているとか」
見えないのは当然だ。鎖が巻き付いているんだから。
「私はサデの王イザークだ。知っていると思うが、サデの神子は失われ、国も闇に呑まれようとしている。神子よ、私を助けてもらえないだろうか。病で動くこともままならない。神官たちは痛みを和らげることはできるが、病の進行は止められぬのだ」
まるで前世の病院にいた俺みたいだ。前世の俺でも同じことを願っただろうな。
「エルトリアの佐伯要です。サデのことは聞いています。俺にできることがあれば力になります。でも、俺はすぐにエルトリアに戻らなければならないので、本格的な治療はエルトリアの大神殿では駄目ですか?」
俺が言うと王は笑った。
「それはありがたい申し出だが、私はイルケデニアスから動くことはできない。私がエルトリアに滞在すれば命を落とすだろう。エルトリアの王はサデの領地を狙っているからな。
ここで私と会い、治療したことも内密にしてもらいたい。約束してもらえぬならここから出すことはできぬ。だが、私を治してくれるなら君たちを安全にエルトリアまで送り届けよう」
物腰も柔らかで笑みを浮かべていても、王様はやっぱり王様なんだな。
俺はちらっとアルバートを振り返った。アルバートはあまり良い顔をしていない。俺も脅されるのは好きじゃないけど、呪術に苦しむ人を放っておけない。
「分かりました。治せるかどうかわからないけど診てみます」
***
座っている王様の顔の鎖に触れてみる。この呪いは強力だ。キツく何重にも巻き付いているからきっと子供の頃からの物だと思えた。痛いだろうな……。
ゆっくりと撫でるように鎖に触れると、ポロポロと外側が崩れた。これ、けっこう大変な作業だ。かなり魔力を使うのに、一番外側の部分しか浄化できない。これを創った人はかなり実力がある。ルドやネリじゃない。
「イザーク王、サデの神子には病を診てもらわなかったのですか?」
アルバートが俺のそばで治療の様子を見ながら話しかける。
「君は神子さまの聖騎士かな。神官のようには感じないが」
「申し遅れました。私は神子さまの伴侶でアルバート=ヘニングと言います」
「神子が結婚して目覚めたという話はヴィカから聞いた。八百年の眠りから目覚めさせるとは、神子は君のことがよほど気に入ったのだろう」
「そうですね。お気に召していただけたようで安堵しました」
アルバートは真顔でそんなこと言ってる。聞いていて恥ずかしくなった。俺がアルバートを好きすぎて目覚めたみたいじゃないか。まあ、本当に好きだけど……。
「君の質問の答えだが、サデの神子は……ある時期を境に魔法を使わなくなったのだ」
「えっ?」
「使わなくなった?」
「サデの神子は数年前から神殿にこもるようになり、回復の魔法も防御結界の魔法も一切使用しなくなった。国は荒れ、新しい神子を推す一派と反対派が争いを続けた。そして数ヶ月前に神子は神殿から飛び降りて亡くなった。サデの滅亡はそれが原因だ。神子は何があっても死んではならない。脆弱な神子などいない方がマシというものだ」
忌々しそうに王様が語る内容が怖すぎて手が震えた。サデの神子さまに何があったのか俺には分からないけど、きっとみんなが思う以上に苦しかったのだと思う。それに、飛び降りたのだって呪いや暗殺かもしれない。
「その点、エルトリアの神子は八百年も国を守り続けている。神子の鑑だな。羨ましいことだ」
鎖があるのに、じっと見られているような気がして居心地が悪い。早く治してしまってここから出たい。
でも、王様にはそれとは別に大きな特徴があった。
顔の上半分が黒いマスクで覆われて口元しか見えないのだ。
そして服の下から伸びる黒い鎖。さらに両手は棘と鎖だらけだ。顔を隠している黒いマスクがよく見ると大量の鎖だと気づいて悲鳴が溢れそうになった。
どうしてこんな状態で放ってるんだ?
「あ、あの……」
「エルトリアの神子だね。出迎えもできなくて申し訳ないが、病で思うように身体が動かないのだ。イルケデニアスは暗くて、目の悪い私にはよく見えないが、美しい顔立ちをしているとか」
見えないのは当然だ。鎖が巻き付いているんだから。
「私はサデの王イザークだ。知っていると思うが、サデの神子は失われ、国も闇に呑まれようとしている。神子よ、私を助けてもらえないだろうか。病で動くこともままならない。神官たちは痛みを和らげることはできるが、病の進行は止められぬのだ」
まるで前世の病院にいた俺みたいだ。前世の俺でも同じことを願っただろうな。
「エルトリアの佐伯要です。サデのことは聞いています。俺にできることがあれば力になります。でも、俺はすぐにエルトリアに戻らなければならないので、本格的な治療はエルトリアの大神殿では駄目ですか?」
俺が言うと王は笑った。
「それはありがたい申し出だが、私はイルケデニアスから動くことはできない。私がエルトリアに滞在すれば命を落とすだろう。エルトリアの王はサデの領地を狙っているからな。
ここで私と会い、治療したことも内密にしてもらいたい。約束してもらえぬならここから出すことはできぬ。だが、私を治してくれるなら君たちを安全にエルトリアまで送り届けよう」
物腰も柔らかで笑みを浮かべていても、王様はやっぱり王様なんだな。
俺はちらっとアルバートを振り返った。アルバートはあまり良い顔をしていない。俺も脅されるのは好きじゃないけど、呪術に苦しむ人を放っておけない。
「分かりました。治せるかどうかわからないけど診てみます」
***
座っている王様の顔の鎖に触れてみる。この呪いは強力だ。キツく何重にも巻き付いているからきっと子供の頃からの物だと思えた。痛いだろうな……。
ゆっくりと撫でるように鎖に触れると、ポロポロと外側が崩れた。これ、けっこう大変な作業だ。かなり魔力を使うのに、一番外側の部分しか浄化できない。これを創った人はかなり実力がある。ルドやネリじゃない。
「イザーク王、サデの神子には病を診てもらわなかったのですか?」
アルバートが俺のそばで治療の様子を見ながら話しかける。
「君は神子さまの聖騎士かな。神官のようには感じないが」
「申し遅れました。私は神子さまの伴侶でアルバート=ヘニングと言います」
「神子が結婚して目覚めたという話はヴィカから聞いた。八百年の眠りから目覚めさせるとは、神子は君のことがよほど気に入ったのだろう」
「そうですね。お気に召していただけたようで安堵しました」
アルバートは真顔でそんなこと言ってる。聞いていて恥ずかしくなった。俺がアルバートを好きすぎて目覚めたみたいじゃないか。まあ、本当に好きだけど……。
「君の質問の答えだが、サデの神子は……ある時期を境に魔法を使わなくなったのだ」
「えっ?」
「使わなくなった?」
「サデの神子は数年前から神殿にこもるようになり、回復の魔法も防御結界の魔法も一切使用しなくなった。国は荒れ、新しい神子を推す一派と反対派が争いを続けた。そして数ヶ月前に神子は神殿から飛び降りて亡くなった。サデの滅亡はそれが原因だ。神子は何があっても死んではならない。脆弱な神子などいない方がマシというものだ」
忌々しそうに王様が語る内容が怖すぎて手が震えた。サデの神子さまに何があったのか俺には分からないけど、きっとみんなが思う以上に苦しかったのだと思う。それに、飛び降りたのだって呪いや暗殺かもしれない。
「その点、エルトリアの神子は八百年も国を守り続けている。神子の鑑だな。羨ましいことだ」
鎖があるのに、じっと見られているような気がして居心地が悪い。早く治してしまってここから出たい。
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