転生したら神子さまと呼ばれています

カム

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ep6.王族と神子

10 朝

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 少しだけキスして離れようと思ったのに、アルバートの大きな手が頭の後ろにまわされて逃げられなくなった。唇を開いてアルバートの舌を受け入れる。頭の芯がじんと痺れて力が抜けた。甘くて、激しいのに優しくて、これが仕事だなんて嘘みたいだ。ルーリーさんじゃなくて、本当は俺のことが好きだったらいいのに。

「も、もうやめとく……」

 理性をフル稼働させてなんとか唇を離すと、アルバートもそれ以上は何もしなかった。身体がむずむずするけど、今なら落ち着かせられるはず。ここは他国のテントで周りには兵士がいっぱいなんだから。

「もう契約は終わりですか? 大陸一の魔力の神子さまなのに?」
「そんな顔しても無駄だから」
「……分かったよ」
「もう寝る。おやすみ!」

 前屈みで反対を向いて寝る俺を、アルバートが後ろから抱きしめる。これ、昨日と同じだよ。

「アル、これ……眠りにくいんだけど」
「神子さまは最近わがままがすぎますよ。ここは大神殿ではないので我慢してください」
「な、何それ」
「あいつの真似だ。堅物神官の。言いそうだろ?」
「エリンはそんなこと言わないよ」
「俺にはこの調子だけどな」
「アルバートが怒らせるからだよ」
「諦めて寝ろ」

 結局アルバートは腕を離してくれなかった。護衛ってみんなこんな感じなのかな。そんなことないような気もするんだけど。やっぱりドキドキして眠れないよ。

***

 遠くで朝の鐘がなる頃、目を覚ましたらおもちが俺の顔を覗き込んでいた。
 昨日は眠れないと思っていたのに気づいたら記憶がなかった。俺って……。でも呪いを祓うのって疲れるし、ベッドは寝心地が良かったから、だと思う。

「ピィピィ」
「おもち、おはよう」
「ピィピィ」
「分かったよ。ご飯だよね」
「そいつの餌ならもうやったぞ」
「えっ、そうなの?」
「チッ」

 アルバートはもう起きて身支度を済ませていた。キラキラした目で俺を見ていたおもちは、追加の餌がもらえないと分かって仕方なく水を飲みに行った。水の器の中で羽根をバサバサ振るわせてアルバートに撒き散らしてる。

「散らかすな。羽根をむしるぞ」

 片付けるアルバートと散らかすおもちの攻防を眺めながら、用意された水で顔を洗って身支度を整える。鏡に映る自分の顔色は冴えないし髪は寝癖と手入れ不足でもつれてる。
 適当にまとめていたら、おもちとの戦いをやめたアルバートが俺のそばにきて櫛で髪を梳いてくれた。

「ありがとう」
「お前は不器用そうだからな」
「確かに苦手だけど」

 アルバートは見た目と違って面倒見が良くて器用だ。文句を言いながらおもちを気にかけているし、ゼフィーのこともよく世話をしていた。俺が苦戦していた髪の毛もすぐに綺麗にして、くるくると結って頭の後ろでとめてくれた。

「村の少年みたいだな」
「邪魔だから切ってもいいんだけど」
「神子が髪を切ったら貴族が大騒ぎするだろ」
「そうなの? 長くないと駄目ってこと?」
「切った髪の取り合いになる。転売する人間も出るだろうな。衣装ですら取引きされてるらしいぞ」
「……もしかして下着も?」

 俺のはいていた紐みたいなパンツがどこかのお屋敷の宝箱におさまったりする事を想像したら耐えられなくなってきた。

「多分な。昔の衣装は大部分が記念館に飾られているらしいが」
「記念館?」
「あ、いや……。とにかく嫌なら他人に渡すなと命令したらいい。神官なら神子の言うことには絶対服従だ」
「絶対服従っていうのもちょっと。でも帰ったらお願いしてみるよ」

 神子の記念館なんてものがあるのか。大神殿にいた時は誰もそんなこと言わなかったけど、首都にあるのかな。帰れたら聞いてみよう。

 差し入れされた朝食を食べ、しばらくしたらヴィカさんが迎えに来た。

「神子さま、王の治療をお願いいたします」
「はい」

 あの王様、苦手だな。今日一日で治療が終わるかな。



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