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ep6.王族と神子
11 治療
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「神子よ、そなたの魔法のおかげで昨夜はこれまでと比較にならぬくらいよく眠れた。これほど身体が軽く思えたのは何年振りだろうか」
「それは良かったです」
王様の斜め隣に座って、棘だらけの手に触れる。顔は後回しにして今日は先に手をなんとかしよう。
王様のテントの中には、王様とお世話をしている女の人が二人、ヴィカさんとテントの出入り口を守る護衛の兵士、それからヴィカさんの側でこっちを注視しているアルバート。ポケットにはおもちがいる。
俺は王様の腕に刺さる太い釘のような呪いを一本ずつ砕いていった。
昼の鐘が鳴ったことに気づいてはっとした。集中しすぎて時間が経つのを忘れていた。
「かなめ様、大丈夫ですか?」
アルバートがそばにいて、俺の身体を支えてくれる。王様の両腕はかなり綺麗になっていた。
「イザーク王、少しかなめ様を休ませてください」
「そうだな。かなり腕が楽になった。少し休憩しても良いぞ」
アルが俺の手を握って暖めてくれて痺れが楽になる。侍女が器に入った飲み物をくれたので飲もうとしたけど、手が震えてうまく持てない。
「心配せずとも毒も魔法も入ってはいない。神子ならば視るだけで分かるとは思うが」
アルバートに飲ませてもらって飲み物を口に含む。お水だと思ったけど果実の味がした。喉が渇いていたからたくさん飲んだけど、あまり飲まない方が良かったかもしれない。毒でも魔法でもないけど、毒にならない程度の何かが入っている気がする。
「神子の伴侶はもと聖騎士で、ヴィカの話では神子に劣らず整った顔をしているとか。目を治してもらうのが楽しみだな」
「神子さまに比べれば私の顔立ちなど。高貴な身分の方のお目汚しにすぎません」
「神子さまの伴侶に美しい若者が選ばれるのはどの国も同じでございます。そしてアルバート殿は神子のことを心より慈しんでおられます。エルトリアの占術師は良い予見をしたようですね」
「聖騎士なら神子さまに尽くすのは当然のことです」
「あの、もう休憩したから大丈夫。王様、続けますね」
「かなめ様、大丈夫ですか?」
アルバートが言葉とは裏腹に強い視線で俺を見てる。今日中に王様を治してエルトリアに出発するって話だったけど、計画通りに行きそうか心配してるんだと思う。返事の代わりに頷いた。王様の目を治したらここを出よう。
***
何重にも突き刺さった最後の呪いを祓うと、それは砂埃のように粉々になって床に砕けた。
「……」
王様の顔を見て絶句する。よく似た人を知ってる。切れ長の瞳。通った鼻筋、眉や額の形までそっくりだ。違うところと言えば年齢だろうか。王様の方が年長に見える。
「素晴らしい……」
イザーク王がゆっくりと目を開く。淡い紫の瞳だ。あの人の目の色はどんな色だっただろう。記憶には残っていないけど。
振り返ってアルバートを見れば、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「さすがはエルトリアの神子だ。サデの神子には治せなかった。礼を言うぞ」
「あの、呪いを解いたので俺たちを解放してもらえますか?」
指を曲げたり、顔に触れて自分が回復したことを確認している王様は、その言葉で初めて俺を見た。数秒の間があいて緊張で動悸が激しくなる。拒否されたら魔法を使って突破するしかない。疲れ切ってるから全力を出したくないけど、ここで逃げないとずっと国に帰れない気がする。
俺の緊張に反して王様は柔らかく微笑んだ。
「そういう約束だったな。では宴を開くから夜まで疲れをとると良い。お礼の品を準備する。明日、国境まで部下に送らせよう」
「あ、ありがとうございます」
「イザーク王、せっかくのお言葉ですが、私たちはすぐにでも国に戻りたいのです。できれば今からここを出立することをお許しいただきたい」
「なるほど……そなたが聖騎士か。確かに美しい顔をしているな」
イザーク王がそう呟き、俺の胸はなんだか不安でモヤモヤした。アルバートを気に入って手元に置きたいとか言ったりしないよな。
「美しく有能な二人だ。我が国の再建を手伝ってもらえればこれほど嬉しいことはないのだが、残念ながらエルトリアの民だ。仕方あるまい。ヴィカ、宝玉を持て。約束を果たすとしよう」
少しほっとした。王様は本当に俺たちを解放してくれるみたいだ。
「それは良かったです」
王様の斜め隣に座って、棘だらけの手に触れる。顔は後回しにして今日は先に手をなんとかしよう。
王様のテントの中には、王様とお世話をしている女の人が二人、ヴィカさんとテントの出入り口を守る護衛の兵士、それからヴィカさんの側でこっちを注視しているアルバート。ポケットにはおもちがいる。
俺は王様の腕に刺さる太い釘のような呪いを一本ずつ砕いていった。
昼の鐘が鳴ったことに気づいてはっとした。集中しすぎて時間が経つのを忘れていた。
「かなめ様、大丈夫ですか?」
アルバートがそばにいて、俺の身体を支えてくれる。王様の両腕はかなり綺麗になっていた。
「イザーク王、少しかなめ様を休ませてください」
「そうだな。かなり腕が楽になった。少し休憩しても良いぞ」
アルが俺の手を握って暖めてくれて痺れが楽になる。侍女が器に入った飲み物をくれたので飲もうとしたけど、手が震えてうまく持てない。
「心配せずとも毒も魔法も入ってはいない。神子ならば視るだけで分かるとは思うが」
アルバートに飲ませてもらって飲み物を口に含む。お水だと思ったけど果実の味がした。喉が渇いていたからたくさん飲んだけど、あまり飲まない方が良かったかもしれない。毒でも魔法でもないけど、毒にならない程度の何かが入っている気がする。
「神子の伴侶はもと聖騎士で、ヴィカの話では神子に劣らず整った顔をしているとか。目を治してもらうのが楽しみだな」
「神子さまに比べれば私の顔立ちなど。高貴な身分の方のお目汚しにすぎません」
「神子さまの伴侶に美しい若者が選ばれるのはどの国も同じでございます。そしてアルバート殿は神子のことを心より慈しんでおられます。エルトリアの占術師は良い予見をしたようですね」
「聖騎士なら神子さまに尽くすのは当然のことです」
「あの、もう休憩したから大丈夫。王様、続けますね」
「かなめ様、大丈夫ですか?」
アルバートが言葉とは裏腹に強い視線で俺を見てる。今日中に王様を治してエルトリアに出発するって話だったけど、計画通りに行きそうか心配してるんだと思う。返事の代わりに頷いた。王様の目を治したらここを出よう。
***
何重にも突き刺さった最後の呪いを祓うと、それは砂埃のように粉々になって床に砕けた。
「……」
王様の顔を見て絶句する。よく似た人を知ってる。切れ長の瞳。通った鼻筋、眉や額の形までそっくりだ。違うところと言えば年齢だろうか。王様の方が年長に見える。
「素晴らしい……」
イザーク王がゆっくりと目を開く。淡い紫の瞳だ。あの人の目の色はどんな色だっただろう。記憶には残っていないけど。
振り返ってアルバートを見れば、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「さすがはエルトリアの神子だ。サデの神子には治せなかった。礼を言うぞ」
「あの、呪いを解いたので俺たちを解放してもらえますか?」
指を曲げたり、顔に触れて自分が回復したことを確認している王様は、その言葉で初めて俺を見た。数秒の間があいて緊張で動悸が激しくなる。拒否されたら魔法を使って突破するしかない。疲れ切ってるから全力を出したくないけど、ここで逃げないとずっと国に帰れない気がする。
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「あ、ありがとうございます」
「イザーク王、せっかくのお言葉ですが、私たちはすぐにでも国に戻りたいのです。できれば今からここを出立することをお許しいただきたい」
「なるほど……そなたが聖騎士か。確かに美しい顔をしているな」
イザーク王がそう呟き、俺の胸はなんだか不安でモヤモヤした。アルバートを気に入って手元に置きたいとか言ったりしないよな。
「美しく有能な二人だ。我が国の再建を手伝ってもらえればこれほど嬉しいことはないのだが、残念ながらエルトリアの民だ。仕方あるまい。ヴィカ、宝玉を持て。約束を果たすとしよう」
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