転生したら神子さまと呼ばれています

カム

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ep6.王族と神子

12 地上

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 王様がテントから歩いて出てきたので、周りにいた兵士たちから歓声が上がった。みんな片膝をついて手を組んでる。これがサデの礼儀作法なのかな。

「王様!」
「イザーク王!」
「サデにもう一度光を!」

 歓声を上げているサデの避難民たちを眺めて複雑な気分になる。王様のあの呪いは砂埃みたいに砕けたけど、少しずつ再編しそうな気配がある。完全に取り除けたわけじゃない。継続中の呪いなんじゃないかな。でもずっと治療し続けるのは無理だ。俺は早くエルトリアに帰りたいし、王様は笑顔だけど、王族というだけで怖い。

「かなめ様、馬をご用意いたしました。大丈夫ですか?」
「アル……ちょっと疲れてる。今すぐ倒れて眠りたいくらい」
「もう少しだけ我慢だ。最悪の状況になればおもちや俺を囮にしてお前を逃す」
「アルと一緒がいい。おもちだって……」

 アルバートの胸に頭をくっつけて深く息を吐く。地下を出るまでは眠ったら駄目だ。

「何か混ぜたな」

 アルバートが小声で呟いた。確かに、お昼すぎなのにこんなに眠くなるなんておかしい気がする。アルバートにしがみついていないと立っていられない。
 ヴィカさんが笑顔でこちらに歩いてきたけど、何も手に持っていなかった。宝玉を渡すって言ってなかったかな。正直いらないけど。

「もうしばらくお待ちを。サデの民がエルトリアの神子さまに感謝の言葉を伝えたいと申しております」
「お礼なら大丈夫です」

 まずい。本当に眠ってしまいそう。

「そうおっしゃらずに。エルトリアの神子にはサデの王宮にある宝玉をお渡ししたいのです。これから王と共にサデへ参りましょう。あなたの力ならサデの魔物も蹴散らせるでしょう」

 ヴィカさんの笑みが歪んで見える。ふと見ると、周りを囲む護衛たちは全員武器を構えていた。感謝の言葉ってどう見ても嘘だな。

「これだから王族は……」

 アルバートがいつもより低い声でつぶやいた。すごく怒ってる。

「アルバート殿ももちろんご一緒にどうぞ。エルトリアより良い待遇をお約束いたします」

「俺たちは国に帰る途中なので……」

 バシッと勢いよく手のひらで自分の頬を叩いた。アルバートもヴィカさんもぎょっとしてる。目を覚まさないと。

「カナ!」
「サデに行くのはお断りします!」

 眠気を振り払って蜘蛛の巣の魔法の糸を、自分の足もとから見える全方位に張り巡らせた。その場にいる全員を拘束し、すぐに魔法を追加する。それまで使ったこともなかったのが嘘のように自然と。
 ヴィカさんが目を見開いたあと身体をこわばらせ、その場から動かなくなった。護衛兵もサデの王様も避難民も、全員が立ったまま身動きできずに静かになる。それから気を失うように目を閉じた。

「……眠ってもらったよ。アル、急いで逃げよう」
「お前は……相変わらずすごいな」

 アルバートは抜こうとしていた剣を鞘に納め、俺を抱えて馬にまたがった。

「この魔法、いつまでもつ?」
「しばらくは効いてると思う。あまり自信ないけど……」
「分かった。助かったよ」

 アルバートが手綱を取って馬は歩き始める。少し振り返って立ち並ぶテント村を見れば、みんな立ったまま眠っていて、まるで昔の王のお墓を守る人形の兵士みたいに見えた。
 俺が覚えているのはそれだけ。馬の振動とアルバートの腕の中が心地よくて、すぐに眠ってしまった。

***

 鳥の鳴き声で意識が浮上する。これはおもちかな。
「う……ん」
 誰かが頬を触ってる。アルバートの大きな手だ。爽やかな香りの風が吹いている。地下とは少し違う匂い。

「カナ、目が覚めたのか?」
「アル?」

 目を開くと薄曇りの空が見えた。ピンク色の小鳥が曇り空を自由に飛び回ってる。おもちだ。

「明るい……」

 天井がない。曇っているけど地下道とは比べ物にならない明るさだ。イルケデニアスも天井は高くて閉塞感はないと思っていたけど、実際に外に出られたらすごく解放的な気分になるんだな。

「エルトリアだ。やっと戻って来られた」

 腕の中から見上げたアルバートの表情は今まで見たことがないもので、こっちまで胸がぎゅっとなる。

「サデの追っ手は?」
「大丈夫だ。あれからエルトリア出口まで休みなしに走り、出口にも目眩しの魔法ををかけておいた。今のところ追っ手の気配はない」
「そっか。良かった……」
「神子さまのおかげだ」

 そう言って抱きしめられる。アルバートが喜んでくれるのが一番嬉しい。

「ここ、大神殿から遠いのかな」

 見渡しても荒地みたいな丘と草原が続くだけで建物の影が見えない。

「おそらく辺境だと思うが、俺の知っている辺境とは少し景色が違っているな」
「そうなの? 帰れそう?」
「大丈夫だ。グリフォンにだけ聞こえる笛で応援を呼ぶ。それに辺境なら砦か灯台があるはずだ」
「アル、もう少し寝ていてもいい?」
「もちろんです。神子さま、ゆっくりお休みください」

 アルバートが俺の手の甲に口付けを落とす。次に目覚めた時には神殿に着いていたらいいな。


 
 
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