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ep7.神官と聖騎士団
1 辺境の灯台
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「うーん……」
すごくぐっすり眠った。こんなに熟睡したのは久しぶりだ。大神殿のベッドで眠っていた頃よりよく眠れたような気がする。
何度か寝返りをうって目をあけると、窓のある小さな部屋のベッドに寝かされていることに気づいた。小さな部屋だけど白いレースのカーテンや白いテーブル、燭台や水の入った銀色の器が並べられてる。内装を見るかぎり神殿かもしれない。大神殿ほど豪華じゃないけど、家具やカーテンの模様が似てる。
柔らかい清潔な布団に頬を寄せると花の香りがした。湿っていてカビ臭かった地下の寝具とは大違いだ。ちゃんとした家だし、カーテンの隙間から明るい日差しが差し込んでいるし、地上って安心するな。
布団の中でモゾモゾしていると、複数の人の声が聞こえた。子供の声みたいだ。
「……だめだよ。おじいさまが覗いちゃだめだって」
「でも、すごく綺麗な人だったよ」
「神子さまかもしれない。神子さまだったら村人なんて絶対にお会いできないよ」
「神子さまは大神殿で眠ってるんだぞ」
「最近目覚められたってみんなが言ってた。だって明るくなったもん」
ベッドの足元の方に扉があって、その扉が少しだけ開いていた。子供が何人か扉の外で話してる。見ていると、こっちを覗こうとしていた子供と目が合った。
「……うわっ、うわわ!」
「起きてる!」
「こらっ、お前達何をしているんだ……!」
「ごめんなさいっ!」
ベッドから降りて廊下の扉を開けると、小学生くらいの子供三人と、髭と髪が灰色のおじいさんの姿が見えた。
「あの……」
声をかけるとおじいさんがその場に膝をついて頭を下げた。慌てて子供達もおじいさんの真似をする。
「神子さま……! よくぞお目覚めくださいました!」
「神子さま!」
「神子さま! ありがとうございます!」
「あの、立ってください。ベッドを貸してくれてありがとうございます。ここ、どこですか?」
駄目だ。おじいさんは廊下に顔を伏せたまま号泣してる。大神殿でもしばらくこんな感じだったな。おじいさんも話してくれるまで時間がかかりそう。一番年下の男の子がちらっとこっちを見上げたので、可愛いと思って笑いかけたら彼は真っ赤になった。
***
「み、神子さまに……生きているうちに……お会いできるとは……私はもうこの世に未練はございません……」
「おじいさま、泣かないで」
まだ泣いているおじいさんと子供たちと一緒に階段を降りて行く。司祭さまや大司教さまを思い出して懐かしい。みんな元気にしてるかな。
俺が寝ていたのは三階で、二階にはみんなが生活している住居や倉庫が、一階には広いホールと客間があるみたいだ。
「神子さま、お目覚めになられたのですか!?」
階段を降りていくと、小柄なおばあさんと、中年の女性が家事をしているところだった。二人とも俺を見て慌てて正式な挨拶をする。
「このような辺境の灯台へよくお越しくださいました」
女の人はしっかりしてると思ったけど、よく聞いたら声が震えてる。神子さま信仰って本当にすごいんだな。
辺境の灯台って言ってたけど、国境にある見張りの塔みたいなものかな。アルバートがエルトリアには海がないって言ってた気がする。
「お世話になりました。佐伯要と申します。アルバート……俺と一緒に男の人がいたと思うんですけど、どこにいますか?」
「アルバート様でしたら、他の聖騎士様と一緒にこの辺境の周辺の視察に出ております。昨夜、アルバート様が神子さまをお連れになった時には心臓が飛び出るかと思いました」
他の聖騎士ってことは、俺が眠ってる間に合流できたのかな。良かった。サデの追っ手も呪術師もいないみたいだけど、何かあった時にアルバート一人より聖騎士の仲間がいた方が心強い。辺境だったら首都まではまだ遠いだろうから。
すごくぐっすり眠った。こんなに熟睡したのは久しぶりだ。大神殿のベッドで眠っていた頃よりよく眠れたような気がする。
何度か寝返りをうって目をあけると、窓のある小さな部屋のベッドに寝かされていることに気づいた。小さな部屋だけど白いレースのカーテンや白いテーブル、燭台や水の入った銀色の器が並べられてる。内装を見るかぎり神殿かもしれない。大神殿ほど豪華じゃないけど、家具やカーテンの模様が似てる。
柔らかい清潔な布団に頬を寄せると花の香りがした。湿っていてカビ臭かった地下の寝具とは大違いだ。ちゃんとした家だし、カーテンの隙間から明るい日差しが差し込んでいるし、地上って安心するな。
布団の中でモゾモゾしていると、複数の人の声が聞こえた。子供の声みたいだ。
「……だめだよ。おじいさまが覗いちゃだめだって」
「でも、すごく綺麗な人だったよ」
「神子さまかもしれない。神子さまだったら村人なんて絶対にお会いできないよ」
「神子さまは大神殿で眠ってるんだぞ」
「最近目覚められたってみんなが言ってた。だって明るくなったもん」
ベッドの足元の方に扉があって、その扉が少しだけ開いていた。子供が何人か扉の外で話してる。見ていると、こっちを覗こうとしていた子供と目が合った。
「……うわっ、うわわ!」
「起きてる!」
「こらっ、お前達何をしているんだ……!」
「ごめんなさいっ!」
ベッドから降りて廊下の扉を開けると、小学生くらいの子供三人と、髭と髪が灰色のおじいさんの姿が見えた。
「あの……」
声をかけるとおじいさんがその場に膝をついて頭を下げた。慌てて子供達もおじいさんの真似をする。
「神子さま……! よくぞお目覚めくださいました!」
「神子さま!」
「神子さま! ありがとうございます!」
「あの、立ってください。ベッドを貸してくれてありがとうございます。ここ、どこですか?」
駄目だ。おじいさんは廊下に顔を伏せたまま号泣してる。大神殿でもしばらくこんな感じだったな。おじいさんも話してくれるまで時間がかかりそう。一番年下の男の子がちらっとこっちを見上げたので、可愛いと思って笑いかけたら彼は真っ赤になった。
***
「み、神子さまに……生きているうちに……お会いできるとは……私はもうこの世に未練はございません……」
「おじいさま、泣かないで」
まだ泣いているおじいさんと子供たちと一緒に階段を降りて行く。司祭さまや大司教さまを思い出して懐かしい。みんな元気にしてるかな。
俺が寝ていたのは三階で、二階にはみんなが生活している住居や倉庫が、一階には広いホールと客間があるみたいだ。
「神子さま、お目覚めになられたのですか!?」
階段を降りていくと、小柄なおばあさんと、中年の女性が家事をしているところだった。二人とも俺を見て慌てて正式な挨拶をする。
「このような辺境の灯台へよくお越しくださいました」
女の人はしっかりしてると思ったけど、よく聞いたら声が震えてる。神子さま信仰って本当にすごいんだな。
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「お世話になりました。佐伯要と申します。アルバート……俺と一緒に男の人がいたと思うんですけど、どこにいますか?」
「アルバート様でしたら、他の聖騎士様と一緒にこの辺境の周辺の視察に出ております。昨夜、アルバート様が神子さまをお連れになった時には心臓が飛び出るかと思いました」
他の聖騎士ってことは、俺が眠ってる間に合流できたのかな。良かった。サデの追っ手も呪術師もいないみたいだけど、何かあった時にアルバート一人より聖騎士の仲間がいた方が心強い。辺境だったら首都まではまだ遠いだろうから。
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