盗賊とペット(レヴィン編)

カム

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魔物の島

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 ツタを切り裂いた直後、アニキはその場に倒れこんだ。

『アニキ……! 大丈夫ですか!?』

「クソッ……体が、動かねぇ」

 いくらアニキが不死身で痛みが消えたとしても、今まで飲まず食わずで身動きが取れなかったのだから、動けないのも無理はない。
むしろそれが普通だ。

『ここでしばらく休みましょう』
「駄目だ」

 ぼとり、と鈍い音がして足元に何かが転がった。
 甘い匂いが立ち込める。転がっていたのは桃くらいの大きさの赤い木の実だ。
 落ちてきて割れたんだな、と思った瞬間、アニキが手を伸ばして俺の鼻と口を塞いだ。

「匂いを嗅ぐな……体が痺れて動けなくなる。気づいた時には、ツタに絡まって木の餌だ」

 本気でゾッとした。逃げないとまずい。

 アニキの肩に腕を回し、息を止める。アニキは体に力が入らないのか、かなり重い。
 半分背負うようにして何とか立ち上がると、頭の後ろでアニキが自嘲的に笑う声が聞こえた。

「……損な性格だな」

 ぼとり、ぼとりと赤い実が雨のように降ってくる。息を止めていても、甘い匂いが周囲に立ち込めるのが分かる。
 視界が霞む。足が痺れてきて、うまく動かない。それでもアニキを支えて全力でその場から離れた。

「……ハァ、ハァ」

 息を止めるのも限界になり、アニキと一緒に草原に転がった。
 手足が痺れていた。
 もう甘い匂いはしない。まさか追いかけてきたりしないよな。いくら化け物みたいな木でも。

『アニキ、大丈夫ですか?』

 アニキが虚ろな目をしているのが気になる。ダメージが大きいんだろうか。

「お前は……?」

『少し痺れました』

「……この最悪な島から、逃げられるアテでもあるのか? 見ろ、集まって来たぜ」

 アニキの視線を追って灰色の空を見上げると、翼竜が何匹か旋回しているのが見えた。
 明らかに俺とアニキを狙っているな。この痺れた手で、魔法銃が上手く撃てるだろうか。しかも数える程しか弾がない。
 でも、せっかくアニキを助け出したのに、結局何も出来ずに死ぬなんて絶対に嫌だ。

 もたつく手でリュックから魔法銃を取り出す。

「貸せ、俺がやる」

 いつの間に起き上がれるようになったのか、アニキが俺の手から魔法銃を取り上げた。

『動けるんですか?』

「まだ足は無理だ。お前は立てるだろう。俺があの竜を引き付けている間に、あの岩の間に走って隠れろ」

『アニキは……?』

「俺は無理だ。走れねぇ。いいから行け」

 それはつまり、アニキが自分を犠牲にしている間に逃げろという事だ。

『嫌です。アニキも一緒に』

「馬鹿が……さっさと失せろ! お前に助けられるほど、落ちぶれちゃいねえ」

 ホテルで別れた時のように、アニキは俺に背を向けた。俺の顔を見ようともしない。

「早く行け、ミサキ」
『嫌です』

 俺はアニキの背中を後ろから抱きしめた。アニキがびくりと震える。

『一人にはしません』

「……お前が、喰われる所は見たくねえんだよ」

 それは俺だって同じだ。反論する代わりに腕に力を込める。

 あと少しだけ時間をかせげたら、せめて船までたどり着けたら、きっと島から出られるのに。何か奇跡が起きないかと、近づく翼竜をなすすべもなく見上げていると、ふいに視界が黒い影に遮られた。
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