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魔物の島
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『何か食べますか?』
黒い獣の背中に乗って揺られながら、背後にいるアニキに話しかける。
今回は口にくわえられて移動している訳じゃないので楽だ。アニキは獣に助けられる事が不本意らしく、かなりの不機嫌オーラを出しているけど、他に選択肢が無いため黙って俺の背中にもたれている。
『荷物の中に保存食があります。食べていいですよ』
アニキは獣に触るのが嫌なのか、ずっと俺の首と腰に手を回しているので、必然的に黒い獣の長い毛にしがみついて振り落とされないようにするのは俺の役目だ。だから両手が使えない。
アニキは器用に片手で俺のリュックを探ってビスケットのような保存食を取り出し、少しだけ口にした。
二人で移動すると、王都の橋をケビンに乗って移動した事を思い出す。あの時はアニキのセクハラで息も絶え絶えだった。今はさすがにそんな元気は無いみたいだ。
黒い獣は悠々と島内を移動し、遭遇する危険生物に邪魔をされる事もなく海辺とやって来た。あまりにもあっさりと到着したので拍子抜けしてしまうくらいだ。
廃船の手前で獣はピンクの砂浜に座り込んだ。
『ありがとう』
獣の背中から滑り降りて獣にお礼を言う。黒い獣が再び俺の顔を舐めようと口を開くと、一緒に降りてきたアニキが、俺から奪っていた短剣の刃をすらりと獣の口に向けた。
『あ、アニキ!?』
「廃船ってのはこれか?」
アニキは俺の首に腕を回し、獣を無視して廃船へと向かう。
砂浜に座ったままの黒い獣は、俺とアニキをじっと見つめたまま、再び彫像のように動かなくなった。
船内は相変わらず暗くてじめじめしていた。アニキは俺を放り出すと、そのまま木の床の上に寝転がる。
「で、どうする? まさかこのボロ船で海へ出るんじゃないだろうな」
『海の近くや、この廃船には危険生物が来ないみたいなので、ここで転移魔方陣を使って脱出します。魔力が溜まるまで少し時間がかかりますけど』
「それは誰に教わった」
『情報は骨占いのじいさんです。魔方陣は仕事場で習いました』
「あのくそジジイか。まだ生きてやがるのか」
『アニキの事を心配してましたよ』
「あのジジイにそんな人並みの感情はねえだろ。楽しんでやがるに決まっている。人の不幸が大好物だからな」
アニキ、相変わらず人嫌いだな……。
これ以上この会話をするのは止めよう。骨占いのじいさんは、確かに半分興味本位な所があるからな。
俺はマントを脱いで、光る石の瓶と、魔法石で出来たチョークを取り出した。転移魔方陣の見本の紙も。
寝そべってこっちを見ているアニキを横目に、俺は廃船の床にチョークで魔方陣を描いていった。
腐りかけの床はでこぼこしていて、魔方陣がちゃんと機能してくれるのか不安だったけど、魔法石のチョークは微量の光を発しながら床の上に線を描いてくれた。
俺の描く魔方陣は、緊急脱出用の一番簡単で魔力が少なくてすむタイプの小さなものだ。それでも魔力がたまるのに何時間かかるか分からない。見本通りに魔方陣を描き、間違いがないかチェックする。
俺が魔法使いで魔力持ちなら、描いてすぐに飛べるんだけどな……。如月くらいの魔法使いになると、簡単に呪文を唱えて略した魔方陣を空中に描くだけで大丈夫らしいし。
如月の事を考えて、少しせつない気持ちになった。あんなにたくさんの事を教わったのに、たいして仕事の役にも立てず、あげくに無断で脱出用の魔方陣のコピーや魔法石のチョークを持ち出している。完全に裏切り行為だ。
魔方陣を描き終わってアニキを見ると、アニキは床の上で眠っていた。
アニキの身体は血で汚れてはいたけど、傷はかなりふさがっていた。悪魔との契約が完了するまで不死身だと知っていても、実際に見るまでは安心出来ない。
体力が回復するまでもう少し寝かせておいてあげよう。きっと久々に痛みのない眠りにつけたはずだから。俺は自分のマントをそっとアニキにかけて、船の扉から外の様子を見た。
砂浜には黒い獣の姿はなかった。
きっと今晩も嵐になるはずだ。黒い獣もどこかに避難したのかもしれない。日没が間近に迫り、風が強くなって廃船をガタガタと揺らす。次第に闇に沈んでいく灰色の島の風景を少しだけ眺め、雨が入ってこないよう扉を固く閉ざした。
『何か食べますか?』
黒い獣の背中に乗って揺られながら、背後にいるアニキに話しかける。
今回は口にくわえられて移動している訳じゃないので楽だ。アニキは獣に助けられる事が不本意らしく、かなりの不機嫌オーラを出しているけど、他に選択肢が無いため黙って俺の背中にもたれている。
『荷物の中に保存食があります。食べていいですよ』
アニキは獣に触るのが嫌なのか、ずっと俺の首と腰に手を回しているので、必然的に黒い獣の長い毛にしがみついて振り落とされないようにするのは俺の役目だ。だから両手が使えない。
アニキは器用に片手で俺のリュックを探ってビスケットのような保存食を取り出し、少しだけ口にした。
二人で移動すると、王都の橋をケビンに乗って移動した事を思い出す。あの時はアニキのセクハラで息も絶え絶えだった。今はさすがにそんな元気は無いみたいだ。
黒い獣は悠々と島内を移動し、遭遇する危険生物に邪魔をされる事もなく海辺とやって来た。あまりにもあっさりと到着したので拍子抜けしてしまうくらいだ。
廃船の手前で獣はピンクの砂浜に座り込んだ。
『ありがとう』
獣の背中から滑り降りて獣にお礼を言う。黒い獣が再び俺の顔を舐めようと口を開くと、一緒に降りてきたアニキが、俺から奪っていた短剣の刃をすらりと獣の口に向けた。
『あ、アニキ!?』
「廃船ってのはこれか?」
アニキは俺の首に腕を回し、獣を無視して廃船へと向かう。
砂浜に座ったままの黒い獣は、俺とアニキをじっと見つめたまま、再び彫像のように動かなくなった。
船内は相変わらず暗くてじめじめしていた。アニキは俺を放り出すと、そのまま木の床の上に寝転がる。
「で、どうする? まさかこのボロ船で海へ出るんじゃないだろうな」
『海の近くや、この廃船には危険生物が来ないみたいなので、ここで転移魔方陣を使って脱出します。魔力が溜まるまで少し時間がかかりますけど』
「それは誰に教わった」
『情報は骨占いのじいさんです。魔方陣は仕事場で習いました』
「あのくそジジイか。まだ生きてやがるのか」
『アニキの事を心配してましたよ』
「あのジジイにそんな人並みの感情はねえだろ。楽しんでやがるに決まっている。人の不幸が大好物だからな」
アニキ、相変わらず人嫌いだな……。
これ以上この会話をするのは止めよう。骨占いのじいさんは、確かに半分興味本位な所があるからな。
俺はマントを脱いで、光る石の瓶と、魔法石で出来たチョークを取り出した。転移魔方陣の見本の紙も。
寝そべってこっちを見ているアニキを横目に、俺は廃船の床にチョークで魔方陣を描いていった。
腐りかけの床はでこぼこしていて、魔方陣がちゃんと機能してくれるのか不安だったけど、魔法石のチョークは微量の光を発しながら床の上に線を描いてくれた。
俺の描く魔方陣は、緊急脱出用の一番簡単で魔力が少なくてすむタイプの小さなものだ。それでも魔力がたまるのに何時間かかるか分からない。見本通りに魔方陣を描き、間違いがないかチェックする。
俺が魔法使いで魔力持ちなら、描いてすぐに飛べるんだけどな……。如月くらいの魔法使いになると、簡単に呪文を唱えて略した魔方陣を空中に描くだけで大丈夫らしいし。
如月の事を考えて、少しせつない気持ちになった。あんなにたくさんの事を教わったのに、たいして仕事の役にも立てず、あげくに無断で脱出用の魔方陣のコピーや魔法石のチョークを持ち出している。完全に裏切り行為だ。
魔方陣を描き終わってアニキを見ると、アニキは床の上で眠っていた。
アニキの身体は血で汚れてはいたけど、傷はかなりふさがっていた。悪魔との契約が完了するまで不死身だと知っていても、実際に見るまでは安心出来ない。
体力が回復するまでもう少し寝かせておいてあげよう。きっと久々に痛みのない眠りにつけたはずだから。俺は自分のマントをそっとアニキにかけて、船の扉から外の様子を見た。
砂浜には黒い獣の姿はなかった。
きっと今晩も嵐になるはずだ。黒い獣もどこかに避難したのかもしれない。日没が間近に迫り、風が強くなって廃船をガタガタと揺らす。次第に闇に沈んでいく灰色の島の風景を少しだけ眺め、雨が入ってこないよう扉を固く閉ざした。
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