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王族と竜
6 故郷の城へ
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中庭に出ようとして大勢の兵士に行手を阻まれた。たしかヒースがまだ何万人もいるって言ってたけど、みんな戦意喪失して逃げまどっている。
「逃げろ!」
「殺される!」
「どけ!」
「なんで竜が……!」
「何があったんだ」
ヒースがつぶやくと同時に地面が揺れた。叫び声が大きくなる。
「竜だ! 竜が来るぞ!」
逃げている兵士が口々に叫ぶ。中庭から大きな咆哮が響いて思わず駆け出した。
「カル!」
中庭にいたのは岩山ほどもある一頭の大きな竜。皮膚はゴツゴツしていて硬く、弓矢も全く刺さらない。吼えては地面を足で踏み荒らしているだけなのに、驚きすぎた人間たちは必死になって逃げてる。
「ジークさん……」
懐かしいジークおじさんだ。ずっと山から降りてこなかったのに、王城に来てくれたんだ。
(おじさん……!)
(カルか。人間の住む建物は、竜の姿には小さすぎるな)
(おじさん、ありがとう。俺のために来てくれたんだね)
(子供同然のお前を傷つけた人間がいると聞いてな。少し暴れたら帰るから気にするな)
(うん。ジークさんやっぱりかっこいいよ)
念話でそういうと、ジークさんは張り切って咆哮をあげた。音波で壁にヒビが入りそうな勢いだ。
「あ、あれもお前の知り合いか」
「そう。育ての親なんだ」
「カルが味方でいてくれて良かった。寿命が縮むな」
「ヒース、お城に行こう。俺が連れて行くから」
頭の中で解けろと念じると、すとんと竜の姿に戻った。小さな竜になって服から這い出ると、そこから人が乗れるサイズまで大きくなる。それでもジークさんやクラウスよりずっと小さいけど。翼を広げてヒースが乗りやすいようにお座りする。
「カル、もしかして、乗っていいのか?」
「キュイ!」
「ありがとう。領地まで頼む」
ヒースが俺の背中にまたがる。夢が叶ってドキドキする。生まれた時からいつか二人で飛行したいと思ってたんだ。
尻尾を振っているとジェイソンも乗ろうとしたので素早く移動して振り落とす。まだ小さいから二人乗りは無理だし、俺はヒースだけを乗せるんだ。
「ジェイソンは後から来てくれ」
「分かりました。カル、ヒース様を落とすなよ!」
「キュー!」
翼を広げて魔法の息を吐く。風を作って低空から滑るように空へと向かう。飛び立つ最中に、近づいてくる魔獣の気配をとらえた。黒い馬のような姿で障害物を飛び越え中庭に向かってくる。
(ゲイル!)
(ドラゴンが暴れているときいてケンブツにきた)
(ちょうど良かった。そこにいるジェイソンを乗せてお城に来てよ!)
(なんだと? 俺は強いニンゲンしか乗せん)
(ジェイソンは強いよ)
王城を離れる直前に、ジェイソンが中庭の方に突進して来た黒い暴れ馬に飛び乗るのが見えた。
ゲイル、俺は全然乗せてくれなかったのに、ジェイソンさんは乗せるんだな。
***
二頭の竜と大勢の兵士と魔法の戦いに別れを告げ、気流に乗って王城をあとにする。城も王都も小さくなって後方に遠ざかり、だんだん見えなくなった。
ヒースはぎゅっと俺の背にしがみついてる。落とさないようにゆっくりと高度を変え、できるだけ揺れないように飛行した。ヒースの身体が冷たい。魔法の使いすぎだ。
「カルは暖かいな」
首にしがみついたヒースがそう呟くのが聞こえた。
「逃げろ!」
「殺される!」
「どけ!」
「なんで竜が……!」
「何があったんだ」
ヒースがつぶやくと同時に地面が揺れた。叫び声が大きくなる。
「竜だ! 竜が来るぞ!」
逃げている兵士が口々に叫ぶ。中庭から大きな咆哮が響いて思わず駆け出した。
「カル!」
中庭にいたのは岩山ほどもある一頭の大きな竜。皮膚はゴツゴツしていて硬く、弓矢も全く刺さらない。吼えては地面を足で踏み荒らしているだけなのに、驚きすぎた人間たちは必死になって逃げてる。
「ジークさん……」
懐かしいジークおじさんだ。ずっと山から降りてこなかったのに、王城に来てくれたんだ。
(おじさん……!)
(カルか。人間の住む建物は、竜の姿には小さすぎるな)
(おじさん、ありがとう。俺のために来てくれたんだね)
(子供同然のお前を傷つけた人間がいると聞いてな。少し暴れたら帰るから気にするな)
(うん。ジークさんやっぱりかっこいいよ)
念話でそういうと、ジークさんは張り切って咆哮をあげた。音波で壁にヒビが入りそうな勢いだ。
「あ、あれもお前の知り合いか」
「そう。育ての親なんだ」
「カルが味方でいてくれて良かった。寿命が縮むな」
「ヒース、お城に行こう。俺が連れて行くから」
頭の中で解けろと念じると、すとんと竜の姿に戻った。小さな竜になって服から這い出ると、そこから人が乗れるサイズまで大きくなる。それでもジークさんやクラウスよりずっと小さいけど。翼を広げてヒースが乗りやすいようにお座りする。
「カル、もしかして、乗っていいのか?」
「キュイ!」
「ありがとう。領地まで頼む」
ヒースが俺の背中にまたがる。夢が叶ってドキドキする。生まれた時からいつか二人で飛行したいと思ってたんだ。
尻尾を振っているとジェイソンも乗ろうとしたので素早く移動して振り落とす。まだ小さいから二人乗りは無理だし、俺はヒースだけを乗せるんだ。
「ジェイソンは後から来てくれ」
「分かりました。カル、ヒース様を落とすなよ!」
「キュー!」
翼を広げて魔法の息を吐く。風を作って低空から滑るように空へと向かう。飛び立つ最中に、近づいてくる魔獣の気配をとらえた。黒い馬のような姿で障害物を飛び越え中庭に向かってくる。
(ゲイル!)
(ドラゴンが暴れているときいてケンブツにきた)
(ちょうど良かった。そこにいるジェイソンを乗せてお城に来てよ!)
(なんだと? 俺は強いニンゲンしか乗せん)
(ジェイソンは強いよ)
王城を離れる直前に、ジェイソンが中庭の方に突進して来た黒い暴れ馬に飛び乗るのが見えた。
ゲイル、俺は全然乗せてくれなかったのに、ジェイソンさんは乗せるんだな。
***
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ヒースはぎゅっと俺の背にしがみついてる。落とさないようにゆっくりと高度を変え、できるだけ揺れないように飛行した。ヒースの身体が冷たい。魔法の使いすぎだ。
「カルは暖かいな」
首にしがみついたヒースがそう呟くのが聞こえた。
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