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二、人間界の暮らし
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翌朝、すっかり獣の姿に戻った私が姿見を確認していると、少し顔を赤くしたタケルが布団から起き上がった。
「うわぁ……あんな夢見るなんて……俺」
「どうした」
「あっポメ……何でもないんだ」
そう言うとタケルはそそくさと狭い浴室に消えて行った。
しばらくして出てきたが、やはり顔が赤い。
「熱でもあるのか」
「いや……なんて言うか、すごい夢を見て……」
「悪夢か」
「違うよ。もしかしたら、ポメのおかげかも」
「ぬ?」
「ほら、ポメが、願いを叶えてくれたのかも」
「もしやあの、ハルキという傭兵の夢か」
「傭兵?違うよ、春樹さんは大学の先輩で……夢を見たのはそうだけど」
そう言って照れ笑いするタケルを見ていると、しだいに不愉快になってきた。
「見るなら隣に寝ている私の夢を見るのが筋であろうが」
「そうだな。ポメの夢も見るよ」
タケルが私を抱き上げて頬ずりをしてくる。素直に反省し、忠誠心を示すのがタケルの良いところだな。
「さっさとガッコウとやらへ行け」
「分かったよ」
***
タケルがガッコウに行ってしまうと、やることもなく暇になった。
コタツに潜るが、何の力も感じない。一体どういうことだ。ついにコタツの魔力は尽きたのか。
仕方なく、昨夜タケルが見ていた画の前に向かう。今は何も映っていない。私はタケルが押していたボタンの並ぶ黒い棒を探しだすとスイッチを押した。魔法使いの杖にしては不格好な棒だが、魔力のない村人にはそのような安物しか手に入らないのであろう。
「フハハハ。私の狙い通りだな」
スイッチを押せば暗かった画面に絵が映し出された。
これで世界の情勢を確認してやろう。ハルキとやらの情報も映ればなおいいが。
「……こちらの方、いくつに見えます?」
「えーっと、三十代くらい?」
「実は五十八歳なんです!若さの秘訣はこれ!」
……なんだこれは。
オオヤによく似た女共が、顔に何やら塗りたくっている。
魔法使いが若返りの薬を村人に売りつけているようだ。
別のスイッチを押すと、タケルが使っている寝具より厚みのある寝具が紹介されていた。
「それをすぐに持ってこい。魔王自ら使ってやろう!」
「……今なら換えのシーツが四枚セットでこのお値段!」
どうやらこの画面は一方的に情報を送ってくるだけで、こちらの声は届かぬようだ。
「……つまらぬな」
せっかくタケルにも少しまともなベッドを用意してやろうと思ったのだが。
しばらく不格好な杖を押して勇者の動向を探ったが、何も得られなかった。
肉の料理を作っている映像は美味そうだが、食えぬのでは話にならない。
白い食料貯蔵庫は今の力では開けられぬし、タケルの用意して行ったカリカリはすっかり平らげてしまった。
「仕方ない。ガッコウとやらへ行くか……」
「うわぁ……あんな夢見るなんて……俺」
「どうした」
「あっポメ……何でもないんだ」
そう言うとタケルはそそくさと狭い浴室に消えて行った。
しばらくして出てきたが、やはり顔が赤い。
「熱でもあるのか」
「いや……なんて言うか、すごい夢を見て……」
「悪夢か」
「違うよ。もしかしたら、ポメのおかげかも」
「ぬ?」
「ほら、ポメが、願いを叶えてくれたのかも」
「もしやあの、ハルキという傭兵の夢か」
「傭兵?違うよ、春樹さんは大学の先輩で……夢を見たのはそうだけど」
そう言って照れ笑いするタケルを見ていると、しだいに不愉快になってきた。
「見るなら隣に寝ている私の夢を見るのが筋であろうが」
「そうだな。ポメの夢も見るよ」
タケルが私を抱き上げて頬ずりをしてくる。素直に反省し、忠誠心を示すのがタケルの良いところだな。
「さっさとガッコウとやらへ行け」
「分かったよ」
***
タケルがガッコウに行ってしまうと、やることもなく暇になった。
コタツに潜るが、何の力も感じない。一体どういうことだ。ついにコタツの魔力は尽きたのか。
仕方なく、昨夜タケルが見ていた画の前に向かう。今は何も映っていない。私はタケルが押していたボタンの並ぶ黒い棒を探しだすとスイッチを押した。魔法使いの杖にしては不格好な棒だが、魔力のない村人にはそのような安物しか手に入らないのであろう。
「フハハハ。私の狙い通りだな」
スイッチを押せば暗かった画面に絵が映し出された。
これで世界の情勢を確認してやろう。ハルキとやらの情報も映ればなおいいが。
「……こちらの方、いくつに見えます?」
「えーっと、三十代くらい?」
「実は五十八歳なんです!若さの秘訣はこれ!」
……なんだこれは。
オオヤによく似た女共が、顔に何やら塗りたくっている。
魔法使いが若返りの薬を村人に売りつけているようだ。
別のスイッチを押すと、タケルが使っている寝具より厚みのある寝具が紹介されていた。
「それをすぐに持ってこい。魔王自ら使ってやろう!」
「……今なら換えのシーツが四枚セットでこのお値段!」
どうやらこの画面は一方的に情報を送ってくるだけで、こちらの声は届かぬようだ。
「……つまらぬな」
せっかくタケルにも少しまともなベッドを用意してやろうと思ったのだが。
しばらく不格好な杖を押して勇者の動向を探ったが、何も得られなかった。
肉の料理を作っている映像は美味そうだが、食えぬのでは話にならない。
白い食料貯蔵庫は今の力では開けられぬし、タケルの用意して行ったカリカリはすっかり平らげてしまった。
「仕方ない。ガッコウとやらへ行くか……」
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