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・第11島へ
出発
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目が覚め、覚醒する頃には、窓の外は青白く光っていた。そろそろ夜明けが近いのだろう。
セリムは、王立学校を昨日で卒業した。卒業した日の新聞で祖父の訃報を知り、慌てて戻ってきたのだ。
きっと父が情報操作をしたのだろう。
家族だけで葬儀をしたということは、葬儀に呼ばれなかったセリムは家族ではない、ということだ。
そんな父が、進学する予定だったアカデミーに金を出してくれるとは思えない。
王立学園も、その上の学校であるアカデミーも、学費を出すことができる上流階級以上の人間のものである。
セリムは机の引き出しから便箋を取り出し、推薦してくれた教授に辞退の手紙を書き始めた。
手紙を書き終えてから、昼前には荷物を用意した。荷物と言っても、数枚の写真と軍で使うような簡易辞典のみである。
あまり、思い出の物がないのは、いつか、この家を出ることになると、心のどこかで分かっていたのかもしれない。
陽が高くなる頃、セリムは別邸を出た。
「セリム坊っちゃん」
呼ばれて振り向くと年嵩のメイドであるマリアが心配そうな顔をして立っていた。
マリアもセリムが11島の開拓に行くことを知っているのだろう。
「これをお持ちください」
手渡されたのは、両手で持てるくらいの包みであった。
「坊っちゃんがお好きだった卵のサンドイッチです」
「ありがとう、マリア」
昨日の夕方に到着してから、食事を勧められても、あとでいいと断っていた。
心配をかけたことに思い至り、セリムは苦笑した。
「シリル様さえ生きていれば……」
「大丈夫。お祖父様の思し召しならば、僕にとって悪いことは起こりませんよ」
「そうですが……」
この別邸は、祖父が病に伏せてからは人が減った。
今では最低限を維持するために、メイドのマリアと、その夫である庭師のジョンのみである。
「マリア、元気でね。ジョンにもよろしく」
3年前より、一層と小さくなったマリアとの別れを惜しんでいると、向かいから小型の馬車がやってきた。
馬車を呼んだ覚えはないが、その馬車は明らかにこちらに向かって走ってきている。
そして、そこからは、見覚えのある少年が顔を出した。
「セリム!」
「え、ノエル?!どうした?!何かあったのか?!」
車窓から手を降っている金髪を後ろで三編みにした優男は、ノエル・ブールブレ。
ブールブレ伯爵家の八男、セリムの乳兄弟である。
小さい頃から一緒に育ち、王立学園でも共に過ごした。なんと寮も同じ部屋であった。つまり、本当の兄弟よりも一緒に過ごした間柄である。
「俺も行くよ」
停まった馬車からノエルが飛び降りてきた。
「えっ、でも、お前、就職するんじゃ……」
「蹴ってきた」
「えっ」
「セリムのそばのほうが、面白そうだし?」
ノエルは歯を見せて笑うと、セリムと肩を組んできた。
「それに、セリムもアカデミーを蹴ったんだろ」
「僕のあれは、ちょっと違うけど」
「あのおっさんのことだから、じーさんがいなくなりゃお前に金を出すわけねぇよな」
そのとおりなので、何も言えずにいると、バシンと背中を叩かれた。
「どこへ行くのか知らねぇけど、俺も連れてけよ、乳兄弟」
セリムは泣きそうになるのをこらえ、尋ねた。
「リンダは、いいって言ったのか」
リンダはノエルの母で、セリムの乳母だった。
セリムの乳母であったから、という理不尽な理由で侯爵家から暇を出されたのだが、それからもセリムのことを心配してくれていた。
祖父とコルマール領の別邸に移ってからは、領地が近かったというのもあり、ノエルと一緒に様子を見に来てくれた。
リンダもノエルも本当の家族以上に家族だった。そんな家族同然のノエルを、こんな先の見えないことに巻き込んでいいのか。
「10人のうち、1人くらい道を外れてもいいって」
「いいのか……」
「母さんはセリムを助けてやれってさ」
「……ありがとう」
港まではブールブレ家の馬車が送ってくれるという。セリムはお言葉に甘えて乗せてもらうことにした。
馬車に乗り込むと、すぐに持たせてもらったサンドイッチの包みを開けた。
「うまそーだな」
「ノエルも食べる?」
薄焼き卵にチーズとハムが挟んであるサンドイッチは、セリムと祖父が大好きだった思い出の品だ。
これも、もう食べることはないだろう。
「セリムんとこの料理は、旨いからな~」
サンドイッチを一切れつまむと、ノエルが思い出したように言った。
「あ、すまんが、俺、財布しか持ってきてないから、これの代償は買い物してからな」
「大げさだな」
ノエルは八男なので、家督も継げず、譲られる爵位もない。
王立学園卒業後は自分で進路を見つけないといけない立場だったためか、大変、市井に詳しく、貴族には珍しく現物の財布まで持っていた。
そして、それはセリムも同じで、自分の財布を顔の前に掲げた。
「まぁ、僕も買い物があるし、港町でいい?」
こうして、少年ふたりは、コルマールの領地を旅立っていったのだった。
セリムは、王立学校を昨日で卒業した。卒業した日の新聞で祖父の訃報を知り、慌てて戻ってきたのだ。
きっと父が情報操作をしたのだろう。
家族だけで葬儀をしたということは、葬儀に呼ばれなかったセリムは家族ではない、ということだ。
そんな父が、進学する予定だったアカデミーに金を出してくれるとは思えない。
王立学園も、その上の学校であるアカデミーも、学費を出すことができる上流階級以上の人間のものである。
セリムは机の引き出しから便箋を取り出し、推薦してくれた教授に辞退の手紙を書き始めた。
手紙を書き終えてから、昼前には荷物を用意した。荷物と言っても、数枚の写真と軍で使うような簡易辞典のみである。
あまり、思い出の物がないのは、いつか、この家を出ることになると、心のどこかで分かっていたのかもしれない。
陽が高くなる頃、セリムは別邸を出た。
「セリム坊っちゃん」
呼ばれて振り向くと年嵩のメイドであるマリアが心配そうな顔をして立っていた。
マリアもセリムが11島の開拓に行くことを知っているのだろう。
「これをお持ちください」
手渡されたのは、両手で持てるくらいの包みであった。
「坊っちゃんがお好きだった卵のサンドイッチです」
「ありがとう、マリア」
昨日の夕方に到着してから、食事を勧められても、あとでいいと断っていた。
心配をかけたことに思い至り、セリムは苦笑した。
「シリル様さえ生きていれば……」
「大丈夫。お祖父様の思し召しならば、僕にとって悪いことは起こりませんよ」
「そうですが……」
この別邸は、祖父が病に伏せてからは人が減った。
今では最低限を維持するために、メイドのマリアと、その夫である庭師のジョンのみである。
「マリア、元気でね。ジョンにもよろしく」
3年前より、一層と小さくなったマリアとの別れを惜しんでいると、向かいから小型の馬車がやってきた。
馬車を呼んだ覚えはないが、その馬車は明らかにこちらに向かって走ってきている。
そして、そこからは、見覚えのある少年が顔を出した。
「セリム!」
「え、ノエル?!どうした?!何かあったのか?!」
車窓から手を降っている金髪を後ろで三編みにした優男は、ノエル・ブールブレ。
ブールブレ伯爵家の八男、セリムの乳兄弟である。
小さい頃から一緒に育ち、王立学園でも共に過ごした。なんと寮も同じ部屋であった。つまり、本当の兄弟よりも一緒に過ごした間柄である。
「俺も行くよ」
停まった馬車からノエルが飛び降りてきた。
「えっ、でも、お前、就職するんじゃ……」
「蹴ってきた」
「えっ」
「セリムのそばのほうが、面白そうだし?」
ノエルは歯を見せて笑うと、セリムと肩を組んできた。
「それに、セリムもアカデミーを蹴ったんだろ」
「僕のあれは、ちょっと違うけど」
「あのおっさんのことだから、じーさんがいなくなりゃお前に金を出すわけねぇよな」
そのとおりなので、何も言えずにいると、バシンと背中を叩かれた。
「どこへ行くのか知らねぇけど、俺も連れてけよ、乳兄弟」
セリムは泣きそうになるのをこらえ、尋ねた。
「リンダは、いいって言ったのか」
リンダはノエルの母で、セリムの乳母だった。
セリムの乳母であったから、という理不尽な理由で侯爵家から暇を出されたのだが、それからもセリムのことを心配してくれていた。
祖父とコルマール領の別邸に移ってからは、領地が近かったというのもあり、ノエルと一緒に様子を見に来てくれた。
リンダもノエルも本当の家族以上に家族だった。そんな家族同然のノエルを、こんな先の見えないことに巻き込んでいいのか。
「10人のうち、1人くらい道を外れてもいいって」
「いいのか……」
「母さんはセリムを助けてやれってさ」
「……ありがとう」
港まではブールブレ家の馬車が送ってくれるという。セリムはお言葉に甘えて乗せてもらうことにした。
馬車に乗り込むと、すぐに持たせてもらったサンドイッチの包みを開けた。
「うまそーだな」
「ノエルも食べる?」
薄焼き卵にチーズとハムが挟んであるサンドイッチは、セリムと祖父が大好きだった思い出の品だ。
これも、もう食べることはないだろう。
「セリムんとこの料理は、旨いからな~」
サンドイッチを一切れつまむと、ノエルが思い出したように言った。
「あ、すまんが、俺、財布しか持ってきてないから、これの代償は買い物してからな」
「大げさだな」
ノエルは八男なので、家督も継げず、譲られる爵位もない。
王立学園卒業後は自分で進路を見つけないといけない立場だったためか、大変、市井に詳しく、貴族には珍しく現物の財布まで持っていた。
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