【本編完結、番外編更新】オークの島〜外れスキルで追放された侯爵令息と白銀の少女〜

丸井もち

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・第11島へ

洞穴

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 島に到着したときには、まだ頭上にあった太陽が沈もうとしていた。
 ふたりは並んで砂浜に座って、海を眺めていた。

「おい、セリム」
「言うなよ、僕も驚いている」
「アルフォンスさん、戻ってこないかな……」
 ノエルは抱えた膝の間におでこをつけ、つぶやいた。

「無理でしょ、さっき出ていったばっかりじゃないか」
 セリムは冷静に返事して、ため息をついた。
 
 アルフォンスは、10日後までやってこない。
 つまり、今、本土との連絡は絶たれている。

「セリム、お前のスキルで家とか建てられねぇの」
 ノエルが左頬を膝頭につけたまま、セリムの方を見てきた。

「壊すことはできそうだけど」
 セリムはノエルの方を向かず、正面を見据えたまま答えた。

 視線の先には落ち行く太陽。陽が落ちれば、夜行性の魔物や動物が行動を始める。
 それまでに今日の寝床をみつけなければならない。

「だよなー。でも、どうすんの。家もねぇ、水もねぇ、食べ物も草しかねぇ」

 島についてすぐに、島の外周を歩いてみたが、小屋らしきものはなく、川も見つけられなかった。

 唯一見つけた井戸から汲み上げた水には、毒があったとノエルが言っていた。
 簡単に島を調べながら、食べられるものを探したが、湯がいて食べるポポンタという野草しか見つけられなかった。

「水は飲む分ぐらいは僕のスキルで作れるし、パンと干し肉ならあるしね」
 セリムは、この島に来る前に立ち寄った港町で冒険者用の食料品を買い込んでいた。

「お前はえらいなぁ」
「鍋しか買わないノエルがおかしいんだよ」
「はは!そりゃそーか」

 こういう困ったとき、セリムは落ち込みがちだが、ノエルは笑ってくれる。
 それに、今まで何度助けられたかわからない。

「まぁ、陽が落ちきるまでに寝床を探さないと」
「だなー」
 そう言うと、二人の少年は立ち上がり、山の中へ歩き出した。

*****

 結果的に、洞穴はすぐに見つかった。
 自然にできた、というよりは、意図的に掘られたような穴で、少年二人が寝るには、十分な広さのものがいくつもあった。
 そのなかでも、毒に汚染された井戸の近くにある洞穴を、今日の寝床に決めたのである。

「よかったな!すぐに洞穴が見つかって」

 洞穴の中から空を見上げていたノエルが、入り口近くにいるセリムに声をかけた。

「ほんとにね」

 セリムは拾い集めた小枝に、火付け石で火を着けた。
 ちなみに、火付け石とは、打ち合わせると簡単に火が着く便利な石で、冒険者なら必ず持っている一品である。

 すっかり陽も落ちて、月のあかりが差し込んできた。もう何日かすれば、満月である。

 パチパチと火が爆ぜる音を聞きながら、セリムがぼんやりしていると、ノエルが寄ってきて、左隣に腰を下ろした。

「なぁ、こうしてると、野外訓練を思い出さねぇか」

 王立学園では、2年時に野外訓練という名の、サバイバルする二泊三日の活動がある。
 王国貴族子弟はすべて騎士であり、有事の際は戦場にいかねばならない。そのための訓練である。

 その中には、自分たちでテントを立てて、食事も自分たちで調理する行動も含まれている。
 食材も、さすがに肉は事前に購入したものを使うことになっていたが、野草や果物は自力で調べながら調達しなければならなかった。

 貴族や上流階級の子息ばかりで、手慣れているのは軍から来ている指導教官だけだったが、平和な時代を過ごす14歳の少年たちにとっては冒険者気分が味わえるワクワクしたものだった。

「あのときのセリムはすごかったよな」
 ノエルは自分の顔を両手で挟み、うっとりするような顔で語り始めた。
「まさか、ワイルドボアが出てくるなんて思わないじゃない」

 あれは、野草や果物を採取しに、二人一組で森を進んでいたときであった。
 突然ワイルドボアが突進してきたのである。

 ワイルドボアというのは、イノシシのような魔物である。
 魔物は目に見えない瘴気を撒き散らす。人間が瘴気に長時間さらされると病気になることから、魔物は討伐対象になっている。
 だが、討伐後は瘴気が消失するので、肉は食べることができるし、市場でも狩猟されたものが普通に売られている。

「あれをサクッと手持ちの剣でやっつけて、短時間で捌いて血抜きもしちまうんだから」
 
 突然のことだったが、セリムは軽い身のこなしで、ワイルドボアの急所を一撃で刺したのである。
 本人は、達人級の猛者ばかりがいる環境で育っているから自覚が薄いが、剣聖ではないにしても、セリムの剣技は一般の兵士よりは格段に上なのである。
 
「お祖父様と訓練をしたことがあるんだ」
「え、訓練?」
「ワイルドボアを剣で仕留める訓練」
「じーさん、えげつねぇな」
「いや、お祖父様のあの訓練のおかげで、みんな怪我がなかったんだよ」
 
 祖父と領地の山でワイルドボアを討伐して、素材を売りに行ったりもした。
 そこで、素材の捌き方、売り方、財布の使い方を覚えたのだ。侯爵令息には不要と思われる技術ばかりである。

 しかし、そのおかげで、祖父が亡き後も、セリムはこうして何とか生きている。祖父には感謝しかないセリムだった。

「そういうなら、ノエルだってすごかったじゃないか」
「それって、野草が食べれるかどうかってやつだろ」

 野草や果物を自分で採取してくる課題は、自分で食べれるかどうかを調べる練習である。
 それをノエルのスキル『鑑定眼』は一発でわかってしまうのだ。

「あれは、うちの家族なら、事前に準備すれば、誰だってできるからな」
「いや、普通、野草の図鑑を10冊も覚えられないから」

 鑑定眼は見たものを、一発で、何でどういうものか見抜くスキルなのだが、全く見たことがなく知らないものは鑑定できないということは、あまり知られていない。
 スキルといえど、活用するには努力が必要なのである。

「ノエルの家は、みんな鑑定眼のスキルがあるもんね」

 セリムはブールブレ家がうらやましかった。
 兄弟みんなが、期待された鑑定眼を持っているわけだ。

 それに比べて、セリムは剣聖を期待されたのに、剣聖に授かれなかった出来損ないだった。

 そんな暗い思考に落ちていきそうなところを、ノエルの言葉が打ち破った。
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