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・島での生活
オークの森
しおりを挟むアダリヤがモリンゴを食べているそばで、セリムたちも、モリンゴを朝食代わりに食べ始めた。
モリンゴは赤いやわらかい皮は渋めだが、かじると甘い実がジューシー。大きさは、手のひらより少し小さく、何個か食べるとおなかは満たされた。
ちなみに、聖獣は基本的に食事をしなくても生きていけるが、おやつのように楽しみとして食べることはあるという。
うさぎもモリンゴを長い前歯で器用にかじっていた
「それより、セリム。口説けたか?」
モリンゴを咀嚼していたセリムは、ノエルからの突然の爆弾にむせこんだ。
「は?口説く?!」
「声がでけぇな」
思わず大声になってしまったセリムをノエルは悪い顔でたしなめた。
なぜか一瞬、うさぎがこちらを向いていたような気がした。
「あれ?違う?セリム、リヤちゃん、好みだろ?」
「こ、こ、好みって!そんなわけないだろ」
「えー?」
ノエルはニヤニヤとしており、セリムの言動を信じていないのが丸わかりだった。
加えて、そんなはずはないのに、またも、うさぎが睨んできているような気もしていた。
やましいことなど何一つないのに、悪いことを話し合っているような気分だった。
「あの子は、アルフォンスさんが来たら預けて、コルマール領の孤児院を紹介してもらう」
「あー、まあ、島で野生児みたいに暮らすよりはいいわな」
あと1週間もすれば、本土からアルフォンスが御用聞きにやってきてくれる。
その時に、孤児として引き渡して、コルマール領の孤児院を紹介してやれば、ここでの生活よりはましな生活が送れるはずである。
毎日、パンくらいは食べれるはずだ。
「開拓はあの子を本土へ送ってから始めるからな!」
「へいへい」
モリンゴを食べ終わった頃、見計らったように、うさぎが声をかけてきた。
「あんたたち、移動するわよ。荷物持って来なさい」
「はーい、うさぎちゃーん」
鍋を掲げながら、うさぎに返事するノエルを見ながら、セリムはため息をついた。
やはり、ノエルはあのうさぎに手懐けられてしまったようである。
「うわー、すごい森だな」
幹の太い大木がそこかしこに生えており、見上げると太陽を余すことなく葉に受けようと枝を伸ばしていた。
しかし、鬱蒼とした森ではなく、太陽の光は緑の葉に透けて、ほどよく明るく照らしていた。
道らしい道はなく、歩くたびに落ち葉がサクサクと音を立て、音に気付いた小動物が駆け回る、人の手が入っていない自然だった。
「そうでしょ!わたしもここに来たとき、びっくりした!」
「ほとんどがオークだな」
ノエルが葉を拾って確かめていた。
オークといえば、本土では良質な木材として有名である。家具や建材としても使われるし、珍しいところでは、酒樽の材料としても使われている。オークの風味が移ったウイスキーなどは高値で取引されている。
そのため、王国の北部では、木材のために植林しているところもあるくらいだ。
「この木、オークっていうの?」
「まぁ、色んなのがあるけど、全部オークの仲間ってこと」
「ふーん」
アダリヤはノエルのように葉を拾って眺めていた。
「オークの森ってことか」
セリムがそういって木を見上げると、足元からしゃがんだアダリヤが声をかけてきた。
「きのこもたくさんあるよ」
背の高いオークの木の下は、陰になりやすく、きのこなどの菌類もたくさん生えていた。
「あー、リヤちゃん。それ毒キノコだからね」
「えっ」
いかにも毒々しいピンク色のかさを持つきのこを採ったアダリヤは、慌ててきのこを放り投げた。
「そうなんだ……今度から、あれは食べるのやめる」
この発言からして、この毒きのこを、今までは食べていたようである。
またアダリヤの人間らしからぬ発言にぎょっとしたセリムは、慌てて話題を戻した。
「今の季節だと木の実が採れるよね」
オークはどんぐりという木の実が採れる。
セリムも祖父と山の中の訓練の帰りに、よく拾って遊んだものだった。
「リヤもよく木の実拾うよ。うさぎがおやつとしてよく食べるから」
「あれは、人間も食べられるよ」
それは、セリムが祖父から聞いた話だった。
祖父は、血なまぐさい話はしたがらなかったが、セリムが何か話をねだると、戦場を生き抜くための豆知識のような話はよくしてくれた。
そのひとつに、兵糧がなくなった時に、みんなでどんぐりを茹でて食べて栄養失調を防いだ話があったのだ。
「えー。リヤ、あれ嫌い。苦い」
「食べたことあんのね、リヤちゃん」
「あー、ちゃんとアク抜きすれば、おいしく食べられるんだよ」
「へー、セリも三編みも、物知りなんだねぇ」
うさぎがノエルのことを『三編み』と呼ぶので、アダリヤもノエルを三編みと呼んだ。
「リヤちゃん、俺、ノエル」
「三編み」
「……もう、それでいいよ」
ノエルはがっくりと肩を落とした。セリムは、それを見て、少し優越感を覚えてしまった。
「リヤ、ちょっとお花摘んでくる」
『花を摘んでくる』はお手洗いに行く女性の常套句である。
剣がどういうものか知らない割に、こういうことは知っているのか、とセリムは不思議に思ったが、あのうさぎが教えたのだとしたら、なんとなく納得がいった。
「ああ、気をつけて」
勝手知ったる我が庭のごとく、遠くにある大木の方へアダリヤは向かおうとした。
しかし、足元にいたうさぎが、ついてこようとしているのに気づき、足を止めた。
「ちょっと待ってて。うさぎはこなくていいよ」
「あんたたちは、あたしがいなくても平気でしょ」
うさぎはこちらを見ることなく、そして、アダリヤにも返事をしないところをみると、有無を言わさないようだ。
「ああ」
「ここで待ってるよ」
手を振ってアダリヤと、うさぎを見送った。
ここで、セリムたちはうさぎの狙いに気づくことができなかったのである。
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