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・島での生活
キラーボアと晩餐
しおりを挟む「お前、僕らを試しただろう」
セリムはアダリヤの足元で、すました顔をしたうさぎをにらみつけた。
「まぁ、人聞きの悪いこと言うのねぇ」
セリムの足元には、血抜きされたキラーボアが転がっていた。
なぜキラーボアが転がっていたかというと、アダリヤとうさぎが離れたあと、早々にキラーボアが現れたのだ。
「でも、あんたはさすがコルマールの孫ね。剣の技は流石だったわ」
つまり、このうさぎはセリムとキラーボアが戦っているのを、どこかで助けもせずに見ていたのだ。
「お前、お祖父様を知っているのか」
セリムとうさぎが、それこそ瘴気が漂ってきそうな雰囲気で対峙していると、ノエルはスイーッとどこかへ、きのこでも採りに行ってしまった。
彼はこういう雰囲気を苦手としていて、薄情な態度に見えるかもしれないが、セリムとしても、何かあっても庇わなくて済むので、ちょうどよかった。
その時、ちょうど、セリムとうさぎの間に、強い突風が吹いた。
突風が吹いた方向を見ると、アダリヤが立っていた。
「もう、うさぎもセリも喧嘩しないで!」
しかし、ここにはセリムが把握しきれない人物が居た。
アダリヤである。
それはもう、対峙している二人の間に入って仁王立ちになり、なんなら二人よりも憤慨している。
「うさぎは、セリに意地悪しないで」
「あたしは別に意地悪なんて」
うさぎはバツが悪いのか、アダリヤから目を逸らした。
周りの木々が、風に吹かれて、バサバサと葉を揺らした。
「でも、うさぎ、ここがキラーボアの縄張りだって知ってたでしょ。だから、リヤはうさぎに残れって言ったのに」
「それは……リヤが危ないかもしれないじゃない」
「リヤはお守りがあるから、危なくないの、うさぎ知ってるでしょ!」
女性同士特有のキャンキャンと喚くような言い合いである。
そして、喚きに呼応するかのように、森の木々は葉を揺らした。
一方のセリムは居心地が悪かった。自分が相手を庇うことには慣れているが、目の前で誰かに庇われることなど、ほとんどないからだ。
どういう顔をしたらいいのかわからないし、手持ち無沙汰である。
なんなら、うさぎがもう一度自分に食ってかかってくれないかとさえ思った。
「セリは、リヤと仲良しなんだから、仲良くして! じゃないと、うさぎのこと嫌いになるから!」
「き、嫌い……」
うさぎは、つぶらな目を思いっきり開いて、この世の終わりのような顔をしていた。
「「仲良し」」
セリムは、いつの間にか隣に戻ってきていたノエルとハモってしまった。
ノエルの手には、鍋いっぱいのきのこが入っていた。
「くっ。同じ種族というだけで仲良くなるなんて……許せないわ……」
負け惜しみのように言い募るうさぎを、アダリヤは一喝した。
「うさぎっ!」
「リヤが言うなら、仲良くしてもいいわ……よ」
このうさぎは、アダリヤに嫌われたくないあまり、自分の信念を曲げることもあるようだ。
セリムはと言うと、そんなにうさぎと仲良くしたいわけでもないが、かわいそうになってきたので、アダリヤが言うなら仲良くしようかな、と思うようになっていた。
*****
あかあかと燃える炎を囲み、セリム、ノエル、アダリヤとうさぎは夕食を囲んでいた。
「おいしい!この肉おいしい!」
アダリヤがかぶりついているのは、キラーボアの香草焼きである。
このキラーボアの香草焼きは、昼間に倒したキラーボアの肉にハーブと塩をまぶして焼いたものだ。
魔物肉独特の臭いもしっかりと塩で臭味取りをしているので、気にならなくなっている。
「そうだろう!セリムが作る料理はおいしいだろう!」
ノエルがまるで自分の手柄のように自慢し始めるのを、アダリヤは賛同した。
「セリ天才! リヤ、毎日これ食べたい!」
美味しく食べてくれるのは嬉しいが、この大絶賛にセリムは気恥ずかしかった。
「こ、こんなのでよければ、いつでも作るよ」
「本当?!」
ノエルに褒められるのもむず痒いのに、おまけに女の子に褒められなれていないので、うつむいて、アダリヤと目を合わせられない始末である。
そして、隣でニコニコ、ニヨニヨしているノエルは鬱陶しいことこの上なかった。
「ちょっとリヤ、何餌付けされてんの」
アダリヤとノエルの間で、味付けなしで焼いた肉と、新鮮なきのこをかじっていたうさぎが悪態をついてきた。
「えづけって何」
「騙されてるってことよ!」
「騙されてない、この肉、本物!」
食べていた肉の塊を崇め奉るように捧げ持ち、アダリヤは叫んだ。
「あーらら、うさぎちゃん、リヤちゃんに論破されちゃったねー」
ブーっと、うさぎはうさぎらしく不満げに鳴いた。
「今まで食事はどうしてたの」
セリムからしたら、こんな簡単な調理をおいしいといって食べるアダリヤが、今までどんな食生活をしてきたのか気になったのだ。
「肉はうさぎが持ってきたのを焼いて食べてた」
セリムが尋ねると、火打ち石を指さして、自分で焼いていたという。
「味付けは?」
「味付け?」
「血抜きは?」
「血抜き?」
セリムは額に手を当てて、空を仰いだ。
――この子は、一刻も早く本土に送り届けなければならない。
その思いを強くした。
「うさぎちゃん、狩りなんてできたの?」
セリムが使命感にかられているとき、ノエルはうさぎに尋ねていた。うさぎが自分より強そうなキラーボアを狩ることなんてできるのだろうか。
「そこは秘密よ。でも、血抜きはしたものだったわ」
うさぎの言いようは、まるで、用意されたものを持ってきていたかのようなものであった。
「味付けは教えなかったの?」
「あたしたちは味付けなんてものはしないの。素材の旨味を味わうのよ」
「物は言いようだねぇ」
そうして、ひとしきり晩餐を楽しんだ三人と一頭は、住処となる洞穴に向かうのだった。
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