22 / 45
・島での生活
どんぐりコーヒー
しおりを挟む「セリム、お前、知ってたか……」
セリムは、オークシロップを採集して、途中で出会ったアダリヤとブラブラしながら帰ってきた。
ちなみに、アダリヤはうさぎをブラッシングするために自分の洞穴に帰ってしまった。
急いですることもない、ということで、洞穴前で鍋に湯を沸かしていたセリムのところに、やってきたのは、しょんぼりしたノエルだった。
「うさぎちゃん、オスなんだぜ……」
「そうか」
セリムとしては、うさぎがオスだろうがメスだろうが、どっちでもよかった。
「あんなにかわいいのに、オスなんて!」
頭を抱えて悶絶しているノエルを横目に、セリムは平和だなと感じた。
「そうか」
「聞いてる?!」
共感を得られなかったノエルは、セリムの顔をつかんで、ぐいっと自分の方を向かせた。
セリムはずっと鍋の湯から目を離さず、答える。
「聞いてる。あのうさぎの口調と性別が矛盾しているという話だろ」
「ああっ!そうなんだけど!そうじゃなくて!」
「まあ、落ち着けよ」
セリムは今いれたばかりのコーヒーを、巻き貝で作ったカップに入れて差し出した。
「コーヒーなんて持ってきてたのか?」
コーヒーといえば、最近は平民にも広がってきたものの、貴族階級の飲み物というイメージである。
「どんぐりから作った」
ほー、と言いながら、ノエルはどんぐりコーヒーに口をつけた。
「へぇ、変わった味だけど、コーヒーだな」
うさぎたちがどんぐりの皮を剥いて食べているとき、セリムは実がコーヒー豆に似ていると思っていたのだ。
コーヒーは祖父が愛飲していたので、別邸のシェフが焙煎しているのをよく見ていた。
それを思い出しながら、スキル『分離』で水分を飛ばしながら、鍋で焙煎した。
焙煎後はカラカラに乾燥した実を剣の柄で粉砕。
お湯を沸かして、どんぐりの焙煎した粉を入れたら、スキル『抽出』で、どんぐりエキスをお湯に抽出すれば完成である。
みるみる真っ黒になったお湯は、見た目は完璧なコーヒーであった。
その見た目完璧なコーヒーを、ノエルは見つめていた。
そして、少しすると、納得するように頷いた。
「なるほど、どんぐりだな。細かいどんぐりが見える」
「人の作ったものを鑑定するなよ……」
セリムは、自分も巻き貝で作ったカップにコーヒーを入れて飲んだ。
見た目は完璧なコーヒーだが、味は香ばしいお茶に近いと思った。
そういえば、目の前の男は、珍しく甘党だったことを思い出した。
それは、女の子とお菓子についてトークができるほどである。
「シロップ入れる?」
そんな甘党のノエルのために、先程採ってきたオークシロップを勧めた。
ノエルは真顔で首を横に振ると、こう、のたまった。
「いや、それはリヤちゃんに残しておけよ」
「なんで、そこにアダリヤが出てくるんだ」
自分からアダリヤの話をするのは、冷静でいられるが、ノエルから不意打ちでされると、カァっとしてしまい、突っかかるような話し方になってしまった。
「おいおい、ムキになるなよ」
「別にムキになんか……」
なってない、と言おうとしたところに、ノエルが会話を被せてきた。
「そんな頭がお花畑のセリムは忘れているだろうけど、あの子は……」
「僕はアダリヤが人間じゃなくても構わない」
ノエルに仕返しするようにら会話を被せ返した。
「は?!」
「僕がこの島の中で守れば済む話だ」
セリムはアダリヤを守ると決めたのだ。
世の中には、人間であっても、セリムの味方は少ない。
侯爵家ほどの権威ある家が、長男を廃嫡しているのだ。
それは、本人に欠陥がありますと言っているようなものだった。
廃嫡された出来損ないの侯爵令息に対して、ある人は近寄らず、ある人は、見下し、ある人は利用しようとした。
信頼できる人間なんて、祖父とノエルを除けば、学生時代のほんの一握りの友人、先生くらいだ。
ならば、人間でなくても、信頼できるアダリヤを守ることに決めたのは、セリムの中で何も矛盾しなかったのだ。
「……お前、この数日で変わったな」
「意外か?」
「意外だけどな、こっちの方が俺は安心だ」
ノエルは目を閉じて、どんぐりコーヒーをひと口飲むと、鼻から息を吐き出した。
そして、コーヒーの水面を見つめて、独り言のようにつぶやいた。
「お前、ずっとピンと張った糸みたいな生き方してたからな」
今の言葉を聞いて、もしかして、自分はノエルに心配をかけていたのだろうか、とセリムは気になった。
いつだって、無鉄砲な行いが多い彼を、自分が心配ばかりしていると思っていたのだ。
だけど、家庭の事情から人付き合いが不器用になってしまったセリムを、学園で助けてくれていたのは、いつもノエルであった。
「あのゆるふわ天然リヤちゃんが、お前を変えてくれたんなら、俺もあの子がなんだろうが構わん」
「ありがとう」
「でも、おっさんがお前をやっつけようとして送り込んだ美人局だったら容赦しねぇけどな」
ノエルはハハハと、この重たい空気を変えるように笑った。
ノエルの言う、おっさん、というのはセリムの父であるコルマール侯爵のことである。
だいたい、父である、あの男は、そこまでセリムに対して興味はない。
いつだって、セリムの後ろに、もう今は亡き、祖父シリルをみているのである。
それに、あんな世間知らずの天然が美人局できるほど、世の中は甘くない。
「何にせよ、開拓したら、お前がこの島の主になるんだろ」
父である、あの男は、開拓してこいとしか言わなかった。
しかし、報告をしろとも言われていない。
しょせん、あの男は、邪魔なセリムを追放したに過ぎないのだ。
「お前ならできるさ」
ーー僕は、人に、恵まれている。
祖父のおかげで、生き延びることができた。
ノエルのおかげで、学園生活を乗り越えてこれた。
そう思っていた。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした
むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。
ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。
ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。
ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。
なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。
もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。
もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。
モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。
なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。
顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。
辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。
他のサイトにも掲載
なろう日間1位
カクヨムブクマ7000
ゴミスキル【生態鑑定】で追放された俺、実は動物や神獣の心が分かる最強能力だったので、もふもふ達と辺境で幸せなスローライフを送る
黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティの一員だったカイは、魔物の名前しか分からない【生態鑑定】スキルが原因で「役立たず」の烙印を押され、仲間から追放されてしまう。全てを失い、絶望の中でたどり着いた辺境の森。そこで彼は、自身のスキルが動物や魔物の「心」と意思疎通できる、唯一無二の能力であることに気づく。
森ウサギに衣食住を学び、神獣フェンリルやエンシェントドラゴンと友となり、もふもふな仲間たちに囲まれて、カイの穏やかなスローライフが始まった。彼が作る料理は魔物さえも惹きつけ、何気なく作った道具は「聖者の遺物」として王都を揺るがす。
一方、カイを失った勇者パーティは凋落の一途をたどっていた。自分たちの過ちに気づき、カイを連れ戻そうとする彼ら。しかし、カイの居場所は、もはやそこにはなかった。
これは、一人の心優しき青年が、大切な仲間たちと穏やかな日常を守るため、やがて伝説の「森の聖者」となる、心温まるスローライフファンタジー。
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立
黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」
「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」
ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。
しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。
「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。
だが、彼らは知らなかった。
ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを!
伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。
これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる