【本編完結、番外編更新】オークの島〜外れスキルで追放された侯爵令息と白銀の少女〜

丸井もち

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・合成獣

『理解』(2)

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 結果から言えば、ノエルを実験台にした人間の『理解』は、成功した。
 セリムがノエルの身体に手を当てて『理解』を発動させると、セリムに体の中のイメージが伝わるのだ。

 しかし、見えるのは、手を当てた付近だけ。一気に全体を見ることは、できなかった。

「ねえ、ノエルって胃が痛んだりする?」
「なん、何で知ってるんだ。誰にも言ったことないのに」
 セリムが見えたことを伝えると、ノエルはびっくりしていた。

 体の真ん中あたりを『理解』したとき、胃に傷があったのだ。
 本人にも自覚する症状があるということは、セリムに見えた内蔵の映像は本物だろう。

 それに、祖父の家にあった本には、胃の痛みを放っておくと穴が空くことがある、と書かれていた。それかもしれない。

「酷くなると穴が開くから。気をつけてね」
「ヒエ……」
 親切のつもりだったが、怖がらせてしまったようである。

「なあ、頭はいいのか?」
 ノエル自分の頭を撫でながら、尋ねてきた。
 セリムは頭以外、ノエルで実験させてもらった。
 頭を、すなわち脳を見ることは、現段階で自信がないのだ。

「うん……どうなるかわからないし、成功させる自信がない」
「多分、成功すると思うけどなー」
「お前、自分の身体なんだから、大事にしろよ」
 脳を『理解』することで、何か影響があったらどうしよう。
 セリムには、その不安を乗り越えることができなかった。

「セリムならできるって」
 そのよくわからない信頼が、今は重たかった。

 そんな消極的なセリムだが、彼らを人間に戻すことを諦めているわけではない。

 まずは、今の外見、オークである姿を解消すれば、本土へ渡ることができる。
 彼らには、外見以外にも言語に障害がみられる。
 それは、失敗したとされた【肉体の強化】【戦闘能力の移植】を行った際の副作用だったのではないかと考えている。

 今のセリムにはできないことも、本土に渡ることができれば、きっと解決策が見つかるはずだ。
 お金を払えば、ディーベ教の神父に見てもらうことだってできるだろう。

 セリムはできるところから一歩ずつ、まずは、アダリヤとアルトゥロが一緒に過ごせるように姿を元に戻すことを目標を定めた。


 次の日、セリムたちが使っている部屋に、ヤオ族の青年たちに集まってもらった。
 自分たちをこんな姿にした、シリルの孫であるセリムが呼びかけたって怪しまれるかと思ったが、すんなりと集まってくれた。

「ノ、エ……ルさ……ん」
 横にいるノエルに手を振っている者もいる。
 昨日、ノエルはダンジョンを探検したときに、かなり交流を深めてきたようだ。

「部屋にあった資料を読み込みました。あなたたちの身体がどうなっているか、僕のスキルで調べさせてほしいんです」

 ヤオ族の青年たちは息を呑んだ。

「あ、僕のスキルは『分解』というもので、痛みなどは発生しません」
 これは、昨日、ノエルで実験済みである。

 ヤオ族の青年たちは、話し合いを始めた。

「た……めすな……ら、わた、しか……ら」

 話し合いの結果、アダリヤの父であり、族長のアルトゥロが、未知なるスキルの実験台を名乗り出た。
 一族の若い衆とみられるオークが実験台に名乗り上げたようだが、それを許さなかった。

 セリムは、前に出てきたアルトゥロの手を握って、『理解』を試みた。
 
「そん……な」

 頭に浮かぶのは、ほとんど医学書と一致する映像。

 セリムの予想は、皮膚の上に何らかの方法でボアの皮膚が貼り付けられている、というものだった。

 だが、この皮膚は、紛れもない、本人の皮膚である。
 この皮膚の下には、人間と同じように、血管があり、血が流れている。

 この姿では、島から出ることはできない。

「セ、リ……君」
「あ、痛みますか?」

 ノエルは、痛くも痒くもなかったと言っていたが、個人差があるのかもしれない。
 セリムは、痛みがあるかと慮った。

「い……や。も……し、わ、たし、たち……が、元……に、戻、れ……な、か……た、ら」

 先程、セリムが動揺したせいで、不安になってしまったのかもしれない。
 セリムは、無理やり笑顔を作った。

「いや、大……」
「リ、ヤ……を、本、土……へ、連れ……て、行……くれ、な……い、か」

 セリムは大丈夫と言おうとしたが、アルトゥロに被せられた。
 見上げた顔は真剣で、セリムは息を呑んだ。

「あの、子……には、人……間、の、頼、れ……る、人、必、要……」

 それは、アダリヤだけでも、助けてほしいと、そういうことなのだろう。
 だが、あの子には不思議な力がある。この島から出してしまえば、どうなってしまうか。

「あの子は……」
 ーーあの子は、何者なんですか……。

 アルトゥロは、知っているのであろう。
 知っていて、セリムには尋ねさせなかった。

 あの子が何者であっても、何も聞かず、連れて行ってくれということだ。

「よ、ろ、しく……頼……む……」

『パパー!』

 セリムにはアダリヤの声が聞こえたような気がした。

 あの子から家族を取り上げるわけにはいかない。
 もう、自信がないとか言っていられないのだ。

「アルトゥロさん、頭を触らせてください」

 今度はアルトゥロが、セリムの真剣な表情に息を呑んだ。

「脳を調べます」

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