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・合成獣
『分離』
しおりを挟む「セリー!」
ーーとうとう自分に都合のいい幻聴まで聞こえ始めた。
セリムはそんな自分に呆れた。
「セリ!無視しないで!」
ドンッと後ろから抱きついてきたアダリヤに、セリムはビクッとした。
見下ろすと、銀色の髪の毛が見えた。
「何で来たの?アダリヤ……さん」
前方からの視線が痛い。肩を押して離そうとするが、離れない。
「リヤが来たら迷惑?」
頭をこてんとさせた。
ーー誰だ、こんな技を彼女に吹き込んだのは!
このままでも、視線が痛いが、突き放したら放したで、アルトゥロに、どう思われるかわからない。
「リヤ、それぐらいにしときなさいよ」
後ろから、物音もさせず、うさぎが現れた。
「あんたが逃げずにやってるか、見張りに来たんだけど、ちゃんとやってるようね」
うさぎは、セリムの足元までやってくると、困惑した顔を眺めて、ニヤリと笑った。
「どこまで進んだの?」
「今から脳を調べるとこだよ」
「そう言って、シリル・コルマールの意思を継ぐつもりじゃないわよね」
セリムもヤオ族を騙しているのではないか、とチクリと刺しに来たのだ。
蛙の子は蛙、ならぬ蛙の孫も蛙と言
いたいのか。
「そんなことはしない。心配なら、そこで見てるといい」
「ええ、そのために見に来たのだもの」
セリムとうさぎの間には、静かにピリピリとした緊張感が漂った。
「では、始めますね」
セリムはアルトゥロの頭頂部に手を置いた。
スキル『理解』を発動させて、目を閉じる。
瞼の裏に浮かぶのは、水に浮いた、しわくちゃで、くるみのような見た目の内蔵。
人間の脳だ。
だが、図鑑で見た脳の絵と、違う部分があった。
ーー黒い。
脳の表面が何かに蝕まれたかのように、まだらに黒くなっているのである。
この黒い部分は何なのか。
もしや、壊死しているのか。
セリムは、過去に医学書で見た足先が壊死した絵を思い出した。
あれと同じことが、脳で起きているのか。
脳が死んでしまっていたら、いくらセリムでも、どうにもすることはできない。
「うっ」
昨日から、間接的とはいえ、ずっと人間の内臓を見続けているのだ。
慣れていないことも相まって、気分が悪くなってくる。
「セリ、大丈夫?」
アダリヤが、駆け寄ってきてセリムの背中をさすってくれた。
さすってもらったところから、すうっと軽くなってきた。
これは、セリムがアダリヤに、好意を持っているからか。
それとも、不思議な力が働いているのか。
「うっ」
「大丈夫ですかっ!」
「パパ、痛いの?」
セリムとアダリヤは、アルトゥロの存在を思い出し、駆け寄った。
「う……ちの、こ、か、わ……いい」
ただの親バカであった。
「……続き、始めますよ」
吐き気も少なくなってきたので、セリムは再度『理解』を発動し始めた。
その時、セリムの手の上に、小さな手が重ねられた。
「リヤも手伝うよ」
セリムの右側に立って、アダリヤは、ニコニコとしている。
昨日、アダリヤは、アルトゥロに直接触れて危ない目にあっている。
ならば、セリムを通して触れようということか。
セリムも間近に応援してもらえるのは嬉しい。
単純だけど、頑張ろうという気になった。
セリムは再度、スキル『理解』を発動させて、目を閉じた。
瞼の裏に浮かぶのは、先程も見たしわくちゃで、くるみのような脳である。
詳細を見るために、脳に近づいていくと、脳の周りがパアッと明るくなり、視野が開けた。
アダリヤが、きっと、手伝ってくれているのだ。
見えないけど、感じるのだ。
そして、黒くまだらになった脳を深く『理解』すると、先程までの壊死と見間違うようだった黒い部分と、健康そうなピンクの部分とは、はっきりと分かれ目ができていた。
セリムは目を開けた。
先程のような吐き気はなく、疲れも少ない。
「やっぱり、君だったのか」
目の前では、セリムの手の上から光が溢れており、瞳が七色に光る少女がいた。
「おまじない。パパがよくなりますように。セリが元気でいられますように」
アルトゥロの脳の黒い部分は、アダリヤの『おまじない』で、分離されそうになっている。
だが、彼女は力が制御できない。分離した黒いかけらが他の部分を傷つけては大変だ。
ならば、セリムが調整役を担えばいい。
「アルトゥロさん、これから、脳のよくない部分を除去します」
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