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・オークの島
家族
しおりを挟むセリムの知っている『家族』の形は、血が繋がっている親と子というものだ。
貴族には、時折、家を継ぐために、遠縁の子と養子縁組をする家もあるが、それだって、多少なりとも血がつながっている。
「血がつながって……ない?」
信じられないものをみるような目で、セリムはアルトゥロを凝視した。
「そう。実はね、セリ君。ヤオ族は皆、血縁関係がほとんどないんだよ」
皆、血縁関係がない家族だなんて、16年間貴族として生きてきたセリムには、理解が難しかった。
「元々、ヤオというのは、魔法使いの宗派の一つでね」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
「ん?」
そして、理解が難しいところに、新たな問題が出てきた。
「魔法使いは、アイキオの魔女狩りで絶滅したと……」
隣国アイキオは特に、魔法を邪な力と、忌み嫌っていた過去がある。
もっとも酷かったのが、その魔女狩りの時代だ。
「歴史は、そう伝えてるんだよね。でも、実際には、今でもいるんだよ」
アルトゥロも、歴史では絶滅したと言われていることは知っているようだった。
つまり、魔女狩りで絶滅したといわれているのは、建前。
魔法使いは、生き延びるために、何らかの情報操作をしたということだ。
「アダリヤ……さんは、魔法使いなんですか」
「そうだよ」
あまりにもあっさりと肯定されて、セリムは拍子抜けしてしまった。
「あの子が使っている『おまじない』は、自分の身を護る魔法なんだ」
それは、娘を心配する父が教えた、最初の魔法だった。
その魔法が、8年間、彼女の身を護ってきたのだ。
だが、そうなると、ダンジョンの中で使った『おまじない』は、アダリヤに危機は及んでいなかった。
なのに、なぜ発動したのか。
セリムの表情から、疑問を読み取ったかのように、アルトゥロは答えた。
「これは、私の推論なんだけど、リヤは『誰かを助けたい』という想いを学んだんじゃないかと思うんだ。それが『おまじない』を進化させた」
あの時、確かにアダリヤは言っていた。
『おまじない。パパがよくなりますように。セリが元気でいられますように』
アダリヤの言葉を反芻するうちに、自分もアダリヤに想われているということに気づいたセリムは、思わず照れてしまった。
そして、そんな自分をニコニコと見ているアルトゥロの視線が痛かった。
セリムはそんな視線を振り切るように、質問を口にした。
「そういえば、アルトゥロさんも魔法使いなんですか」
アルトゥロが魔法を使っているのは見たことがなかった。
その質問に対して、アルトゥロは大げさに肩をすくめた。
「残念ながら、わたしたちは魔法使いではないよ。魔法使いに憧れて、彼らを保護している、ただのおじさんだ」
なんと、今回、合成獣にされていた他の10人も、魔法使いを保護している、普通の人間だそうだ。
「魔法使いというのは、大多数の人間にはほとんどない魔力が、多量に流れているのだけど、血筋は関係なく生まれてくる」
つまり、魔法使いの家系、というものは存在しない。
「死ぬまで力が暴走せずに、生まれた場所で生きられたらいいけど、そうではない子もいる」
それは、近隣の目を気にして孤児院に預けられたり、魔法の力を恐れて、虐待されたり。
「そういう子供の噂を聞いて、保護しているおじさんたち、というのが僕らの正体だね」
アルトゥロは、カラカラと笑った。
「でも、アダリヤは、パパって……」
「私が、そう呼ぶようにと、最初に出会った時に伝えたんだよ。魔法の力が制御できれば、村を出る子もいっぱいいるし、ヤオ族は、家族は作るものだと教えるからね」
「家族を、作る……」
セリムにとって、家族は既にあるもので、作る、ということは考えたことがなかった。
しかし、考えてみると、自分で作るなら、父や弟は絶対選ばないし、それはお互いそうだろうな、といらないことまで考えてしまった。
「そう。これから、家族を作るなら、家族がどういうものか教えておかないとね」
だから、保護する大人を父母と呼び、同じ家に暮らす同士を兄弟と呼ぶ。
「それに、私達ヤオの村に辿り着いた普通の人間も同じで、先人に秘伝の知識を教えてもらって、家族を作る旅に出るんだ。1年ほど旅をして、だいたい2~3人の魔法使いの子供を連れて帰ってくるかな」
「いいですね。自分で探して家族になる」
「まぁ、でも、一般的な夫婦もそうだよね。自分で探して選んで家族になる」
「それは、そう……ですね」
平民ならばそうだろうけど、セリムは貴族として生きてきたから、その発想に辿り着けなかった。
「だから、セリ君も、今までのことに囚われず、自分を大切にしてくれる人と家族を作ればいいんだよ」
既にいる家族が自分を大切にしてくれないなら、自分で作ればいい。
セリムは、目から鱗が落ちた気がした。
「ああ、だからって、私は君にシリル様を忘れろと言っているわけじゃないよ」
もしかしたら、自分を利用しようとしていたかもしれない祖父シリル。
結局、祖父も、セリムが幼い頃の父と同じで、利用価値があるから優しくしてくれたのかもしれないのだ。
セリムは忘れるどころか、思い出して、少し苦い気持ちになってしまった。
そんな表情が出ていたのか、またセリムの気持ちを読んだかのように、アルトゥロが問いかけてきた。
「この島で見聞きしたシリル様じゃなくて、実際にセリ君の目の前にいたシリル様は、どんなお祖父様だった?」
「厳しくも優しい……自慢の祖父でした」
セリムを別邸に引き取って育ててくれた祖父は、間違いなく、厳しくも優しい、自慢の祖父だった。
「なら、その記憶のシリル様が、君のお祖父様だ」
「哲学的ですね」
どちらも同一人物なのに。
「人は相手によって見せる顔が違うからね。君の知っているお祖父様を覚えていてあげなさい」
「はい」
セリムはなぜか、アルトゥロと話しているのに、祖父と話をしているような錯覚を覚えた。
そして、ふと、迷ったときに導いてくれる光のようなところが、ふたりとも似ているからかもしれない、そう思った。
「まぁ、私としたら、セリ君が家族として、リヤを選んでくれるといいな、と思ってるんだけど」
「え」
あまりの爆弾発言に、セリムが固まっていると、山の方から誰かが走ってくる足音が聞こえた。
「パパ!あ、セリも!」
話題の人物であるアダリヤが、父を探して、走ってきたようである。
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