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義弟と別れた足で私はブルック氏の元へと向かった。
通い慣れた廊下を歩きながらガラス越しに研究室の中を覗くとブルック氏は何時もの白衣を身にまとい他の研究員達と何やら熱心に話している。
今は声をかけてはならないかと暫く様子を見ていると1人の研究員が私に気づきブルック氏に伝えた。
「アンダーソンさん、いらしていたのなら声をかけて下さい」
「熱心に話し込んでいたので邪魔する訳にはいかないと思いまして」
さあこちらへと、研究室の奥にある部屋へ通される。大きな本棚にはぎっしりと分厚い専門書が並び、机の上には小さな観葉植物が置かれている。
以前レイと来た場所ではない場所は日中ブルック氏が過ごす部屋だ。
私はいつものようにソファに座り、ブルック氏は慣れた手つきでコーヒーを入れ小さなテーブルの上に置いた。
「義弟が帰ってきました」
「聞いています。まだこちらには来ていませんが直ぐに知られるでしょう」
「……」
「大丈夫です。辞めた人間とはいえ勝手に個人情報を流したりはしませんよ」
「そうですか。ありがとうございます」
「……彼女の様子はいかがでしようか」
「まだ何も思い出しません。最近は今後を見据えてか経済や経営について学んでいますよ。指導しているものは覚えが早いと感心していました」
「彼女はとても優秀でしたからね」
ブルック氏はそう言ってコーヒーに口をつけ、何処か遠い目をした。
「あの時、彼のした事にもっと早く気が付いていたら」
「……レイは知っていたんだと思います。だからあなたに残した」
ブルック氏は立ち上がり机の鍵を開け分厚いファイルを取り出した。
「もうすぐこれが実を結びます」
「ええ」
屋敷に戻ったのは夜遅い時間だった。
遅い時間だったがまだ部屋の明かりが落ちていないと聞き、レイの部屋へ急ぐ。
ノックしても反応はなく、ドアノブに手をかけそっと開けた。
「レイ?」
部屋の中に入りベッドの中を確認するが姿はなく、離れたテーブルに突っ伏し静かに寝息を立てていた。
待っていてくれたのかもしれない、そう思うとつい口の端が緩んでしまう。
そっと抱き上げると小さく唸って目を擦る。
「……えっ、ラニー!?」
「危ないから暴れないで」
抱かれていることに気がついたレイは驚いて降りようとしたが、私は自分の胸に押し付け逃がさなかった。
置物のように固まったレイをベッドへ下ろし、自分もその縁に腰掛けた。
「お、帰りなさい」
「ただいま。もしかして待っててくれたのかな?」
「でも寝ちゃってたみたいね」
ふふっと笑った後、レイは私の手を握りじっと見つめる。
「私、ラニーと知り合えて良かったわ」
「私もだよ」
「ふふ、ありがとう。お仕事、お疲れでしょう? 食事は?」
「後で軽くとる」
体を起こそうとするレイをベッドへ戻し毛布を肩まで引く。
「花嫁さん、寝不足は肌に響くよ。先に休んでいて」
「でも」
ゆっくりと額を合わせる。そっと瞼を伏せたレイの唇に唇を合わせると、私と同じようにレイも唇を食むように吸い付いた。
お互いを確かめるよう指を絡めた。
離れ難くそのままレイの首筋に顔を埋め暫し香り立つレイの温かさを感じた。
背中に回るレイの腕を感じ、幸せを感じた。
このまま、思い出さないでいて欲しい。
勝手な事だと分かっている。
それでも願わずにはいられない。
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通い慣れた廊下を歩きながらガラス越しに研究室の中を覗くとブルック氏は何時もの白衣を身にまとい他の研究員達と何やら熱心に話している。
今は声をかけてはならないかと暫く様子を見ていると1人の研究員が私に気づきブルック氏に伝えた。
「アンダーソンさん、いらしていたのなら声をかけて下さい」
「熱心に話し込んでいたので邪魔する訳にはいかないと思いまして」
さあこちらへと、研究室の奥にある部屋へ通される。大きな本棚にはぎっしりと分厚い専門書が並び、机の上には小さな観葉植物が置かれている。
以前レイと来た場所ではない場所は日中ブルック氏が過ごす部屋だ。
私はいつものようにソファに座り、ブルック氏は慣れた手つきでコーヒーを入れ小さなテーブルの上に置いた。
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「……」
「大丈夫です。辞めた人間とはいえ勝手に個人情報を流したりはしませんよ」
「そうですか。ありがとうございます」
「……彼女の様子はいかがでしようか」
「まだ何も思い出しません。最近は今後を見据えてか経済や経営について学んでいますよ。指導しているものは覚えが早いと感心していました」
「彼女はとても優秀でしたからね」
ブルック氏はそう言ってコーヒーに口をつけ、何処か遠い目をした。
「あの時、彼のした事にもっと早く気が付いていたら」
「……レイは知っていたんだと思います。だからあなたに残した」
ブルック氏は立ち上がり机の鍵を開け分厚いファイルを取り出した。
「もうすぐこれが実を結びます」
「ええ」
屋敷に戻ったのは夜遅い時間だった。
遅い時間だったがまだ部屋の明かりが落ちていないと聞き、レイの部屋へ急ぐ。
ノックしても反応はなく、ドアノブに手をかけそっと開けた。
「レイ?」
部屋の中に入りベッドの中を確認するが姿はなく、離れたテーブルに突っ伏し静かに寝息を立てていた。
待っていてくれたのかもしれない、そう思うとつい口の端が緩んでしまう。
そっと抱き上げると小さく唸って目を擦る。
「……えっ、ラニー!?」
「危ないから暴れないで」
抱かれていることに気がついたレイは驚いて降りようとしたが、私は自分の胸に押し付け逃がさなかった。
置物のように固まったレイをベッドへ下ろし、自分もその縁に腰掛けた。
「お、帰りなさい」
「ただいま。もしかして待っててくれたのかな?」
「でも寝ちゃってたみたいね」
ふふっと笑った後、レイは私の手を握りじっと見つめる。
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「ふふ、ありがとう。お仕事、お疲れでしょう? 食事は?」
「後で軽くとる」
体を起こそうとするレイをベッドへ戻し毛布を肩まで引く。
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「でも」
ゆっくりと額を合わせる。そっと瞼を伏せたレイの唇に唇を合わせると、私と同じようにレイも唇を食むように吸い付いた。
お互いを確かめるよう指を絡めた。
離れ難くそのままレイの首筋に顔を埋め暫し香り立つレイの温かさを感じた。
背中に回るレイの腕を感じ、幸せを感じた。
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勝手な事だと分かっている。
それでも願わずにはいられない。
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