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ついに来てしまった。
本当に私でいいのかと、迷いながらも迎えたこの日。
幾重もの美しいレースがあしらわれたクリーム色のドレスと揃いのカラーの靴。ダイヤを散りばめたクリスタルとシルバーの薔薇の髪飾りと揃いのネックレスを身につけ、ブルック教授のエスコートを受ける。
街の中心から離れた郊外に建つ白い外壁の教会で、私は今日、ラニーの妻になる。
両親とも居ない私のエスコートをしたいとブルック教授が申し出てくれた。
「ブラウンくんが記憶が無いのは分かっているが、もしまだエスコート役が決まっていないなら努めさせていただけないだろうか」
泣いてしまいそうだった。
すぐにでも告白してしまいたかった。
「覚えています」と。
唇がよく分からない動きをした。言葉を紡ごうとするのに上手く出てこない。きっと彼は私が辞めたことを知って教授の元へ来る。いえ、もう来ているかもしれない。
関わればまた迷惑をかけてしまう。
そんな私の背中を押してくれたのはラニーだった。
そっと大丈夫だからと声をかけてくれた。
時間をかけ、緊張した唇が解れるのを待ち伝えた。
『思い出しています。ありがとうございます』と。
教授は目を潤ませながらよかった、よかったと抱きしめてくれた。
私はわけも分からず流れる涙を止める事が出来なかった。
『本当に辞めてしまうのかい? また戻ってこれるかい? 住む場所は? 仕事は?』
『……暫く、休みたいんです。ここには、もう、戻らないかも、しれません。仕事、は、これから探します。場所は、決めていません』
『……なら、西部のティンバーへ行かないか?。小さい街だが住みやすい。町役場に勤めるエリー・ブルックを訪ねてくれ』
『エリー、ブルック、さん?』
『私の母だ。部屋は空き家を幾つか持っていて部屋はあるし、のんびりした街で休息にはいい場所だ。早くに父を亡くしてね、こちらに移るように何度も話したが中々首を縦に振らないんだ。一人暮らしで心配でもある。新しい行先が決まるまででもいい、母の話し相手になってくれないか』
『ですが』
『君との研究の事もある。何かあった時、連絡は取れるようにしておきたい』
私が持っていた共同研究のデータは全て教授に渡した。研究は十分に進み私が居なくても十分滞りなく進めることができる。
だからこれは行き先の決まっていない私を思っての言葉である事はすぐに分かった。
『少し、寄り道をするかもしれません』
これが、精一杯だった。
教授の一瞬見せた寂しそうな顔に、思わず視線を反らした。
『母には伝えておこう。近いうちに私の友人が訪ねるから自慢のプディングを振舞ってくれと。父が亡くなってからずっと独りだったからね、きっと喜ぶ』
行く気はなかった。
私を誰も知らない何処かで、ひっそりと生きていこう。そう思っていたから。
ティンバー行きの切符を買ったのは何処にも行きたいと思う場所がなかったからだと思っていた。
二度裏切られた。
もう嫌だった。裏切られるのも疑うのも。
でもきっと私自身が、人との関わりを無くしたくなかったのだと思う。
私は、とても寂しい存在だ。
教授の手からラニーの手へ。緊張で震える手を、ラニーは優しく握ってくれた。
美しいステンドグラスから優しく美しい光を浴びながら、神父へと誓いの言葉を述べる。
優しく笑みを浮かべるラニー、緊張していないのかしら? 私はこんなに緊張しているのに。
優しい笑顔の彼が、私のヴェールを上げそっと口付ける。
やけに長く感じる口付けが終わると、会場がワッと沸いた。私の緊張は高揚した気持ちになり、手ではなく今度は唇が震えた。
嬉しいのに涙が溢れ視界が歪む。
目の前のラニーは驚いたように目を開いた。
「ラニー、ありがとう」
精一杯笑った。きっと酷い顔をしていたと思う。
優しい手が私の両頬をつつみ、たくさんのキスが贈られてくる。
そうして私はラニアス・アンダーソンの妻になった。
本当に私でいいのかと、迷いながらも迎えたこの日。
幾重もの美しいレースがあしらわれたクリーム色のドレスと揃いのカラーの靴。ダイヤを散りばめたクリスタルとシルバーの薔薇の髪飾りと揃いのネックレスを身につけ、ブルック教授のエスコートを受ける。
街の中心から離れた郊外に建つ白い外壁の教会で、私は今日、ラニーの妻になる。
両親とも居ない私のエスコートをしたいとブルック教授が申し出てくれた。
「ブラウンくんが記憶が無いのは分かっているが、もしまだエスコート役が決まっていないなら努めさせていただけないだろうか」
泣いてしまいそうだった。
すぐにでも告白してしまいたかった。
「覚えています」と。
唇がよく分からない動きをした。言葉を紡ごうとするのに上手く出てこない。きっと彼は私が辞めたことを知って教授の元へ来る。いえ、もう来ているかもしれない。
関わればまた迷惑をかけてしまう。
そんな私の背中を押してくれたのはラニーだった。
そっと大丈夫だからと声をかけてくれた。
時間をかけ、緊張した唇が解れるのを待ち伝えた。
『思い出しています。ありがとうございます』と。
教授は目を潤ませながらよかった、よかったと抱きしめてくれた。
私はわけも分からず流れる涙を止める事が出来なかった。
『本当に辞めてしまうのかい? また戻ってこれるかい? 住む場所は? 仕事は?』
『……暫く、休みたいんです。ここには、もう、戻らないかも、しれません。仕事、は、これから探します。場所は、決めていません』
『……なら、西部のティンバーへ行かないか?。小さい街だが住みやすい。町役場に勤めるエリー・ブルックを訪ねてくれ』
『エリー、ブルック、さん?』
『私の母だ。部屋は空き家を幾つか持っていて部屋はあるし、のんびりした街で休息にはいい場所だ。早くに父を亡くしてね、こちらに移るように何度も話したが中々首を縦に振らないんだ。一人暮らしで心配でもある。新しい行先が決まるまででもいい、母の話し相手になってくれないか』
『ですが』
『君との研究の事もある。何かあった時、連絡は取れるようにしておきたい』
私が持っていた共同研究のデータは全て教授に渡した。研究は十分に進み私が居なくても十分滞りなく進めることができる。
だからこれは行き先の決まっていない私を思っての言葉である事はすぐに分かった。
『少し、寄り道をするかもしれません』
これが、精一杯だった。
教授の一瞬見せた寂しそうな顔に、思わず視線を反らした。
『母には伝えておこう。近いうちに私の友人が訪ねるから自慢のプディングを振舞ってくれと。父が亡くなってからずっと独りだったからね、きっと喜ぶ』
行く気はなかった。
私を誰も知らない何処かで、ひっそりと生きていこう。そう思っていたから。
ティンバー行きの切符を買ったのは何処にも行きたいと思う場所がなかったからだと思っていた。
二度裏切られた。
もう嫌だった。裏切られるのも疑うのも。
でもきっと私自身が、人との関わりを無くしたくなかったのだと思う。
私は、とても寂しい存在だ。
教授の手からラニーの手へ。緊張で震える手を、ラニーは優しく握ってくれた。
美しいステンドグラスから優しく美しい光を浴びながら、神父へと誓いの言葉を述べる。
優しく笑みを浮かべるラニー、緊張していないのかしら? 私はこんなに緊張しているのに。
優しい笑顔の彼が、私のヴェールを上げそっと口付ける。
やけに長く感じる口付けが終わると、会場がワッと沸いた。私の緊張は高揚した気持ちになり、手ではなく今度は唇が震えた。
嬉しいのに涙が溢れ視界が歪む。
目の前のラニーは驚いたように目を開いた。
「ラニー、ありがとう」
精一杯笑った。きっと酷い顔をしていたと思う。
優しい手が私の両頬をつつみ、たくさんのキスが贈られてくる。
そうして私はラニアス・アンダーソンの妻になった。
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