Rain

ゆか

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「クソ!」


あまりの腹立たしさに、机の上の物を全て床に落とた。


ビズマー病。その名の通りビズマー地方に多く発症する熱病だ。10年程の周期で流行し、少なくない死者も出る。

近年人口の増加に伴い問題とされていた風土病であり、今手がけているビジネスでもある。


「どこでやっていたっ!」


何もかも上手くいっていたはずだった。

地味なあの女から情報を盗み、それを元に研究を重ねた。他社へ気取られないように国外の施設を用意して。

薬が出来ればビズマー地方で大きな儲けが出る。それだけではなく、あのイケ好かない義兄の鼻を明かすことができるはずだった。


もうあと一歩で製品化できる所まで来ていたのに、あの義兄が立ち上げた部門が、こちらより先に国の認可を受けていた。



「なんでこんなことに、なんでだ」


サンド商会からの支援はもちろん受けたが、薬についての大半の権利を持つ自分自身も多くの私財をつぎ込んでもいた。

どこよりも先に世に送り出せば初年度だけで多くの金が動く。商会と自分の名も売れる。そしてベサニーと婚姻し製薬部門を牽引してゆく。そのはずだった。



床に落ちた新聞を開い、目を通す。そこにはあの義兄とその妻の写真が載っていた。


「レイニー・ブラウン、何故お前がそこにいる」



自分が利用した女の姿は、記憶に残るものよりも、随分穏やかに見える。

いつからの関係なのか、きっかけは? やはりヨハン・ブルックを介して知り合ったのか。

彼女は確かにブルックの下で働いているが、仕事上の関係だけだと思っていた。あの2人が親しくしている姿など見たこともないし聞いた事も無かった。

だから、研究に携わっていたとしても、下で働いているからといって、盗作疑惑のあった娘を懐に入れるわけはないと思い込んでいた。

ところがどうだ。式のエスコートは、ブルックがしたというではないか。隠していたのか、騙されたのか、どちらにしろこちらはとんだ道化というわけだ。


国の認可を受けているということは、もうとうに製品化のめどはついているだろう。こちら側はこれから申請を行うというところだった。

相手よりも早く研究を進め、金も人もつぎ込み製品化に努めていたのにも関わらずだ。

つまり、レイニーが持っていた資料はほんの一部に過ぎず、あの時点で研究は大詰めだったということだ。



考えつくことはただ一つ、自分はあの地味なレイニー・ブラウンにはめられたのだ。



サンド商会も自分も、たとえブルックが同じ物をを作っていたとしても、自分たちのほうがその先を行く自信があった。終盤にきての逆転これはどうにかなるもんでもない。商会も自分も、かなりの金を投資している。遅れて認可をとったとしても、つぎ込んだ資金の回収には時間がかかるし当初の予定よりも利益は格段に落ちる。



そしてここに来て父からの呼び出し。







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