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「どうぞ」
「ありがとう」
テーブルに置いたカップがコトリと、小さな音を立てた。
「……」
「……」
「レイ」
「あの」
2人の言葉が重なり、息を詰める。さきにと促され、私は重くなった唇を動かした。
「勝手に飛び出してごめんなさい」
本当はもっと他に伝えたいことはたくさんあった、自分の気持ちはもちろん、ラニーの気持ちを無視した行動についても詫びなければいけないと思っていたし、離れていてもとても会いたいと思っていたことも、けれど口を開いても言葉を多く繋がれず、喉の奥へ詰まってしまっていた。
全て自分の勝手な想い行動今更戻りたいなどと申し訳無さすぎて言えなかった。
たった一言の謝罪、重たい空気がさらに重くなった気がした。
「レイの気持ちを考えたと言われれば、足りなかった、いや、自分のことしか考えていなかったのだと思い知らされた。謝るのは私の方だ、私は君に、話したいことがある、聞いてもらえるだろうか」
思いもよらない返答に私は頷いたラニーはテーブルの上に置かれたコーヒーのカップに口をつけると緊張していた表情がふっと緩む。
「君はコーヒーばかり飲んでいた」
そういうともう一口くちを付けそっとテーブルの上へカップを戻した。
「ブルック氏は君もとても可愛いがっていた養子に迎えようと考えるほどに」
そう言われて思い返すと確かに何度かうちの子になるかいと聞かれたことがある。でもそれは場を和ませるための冗談だと思っていた。
「君がブルック氏の元を離れた時、彼が了承したのは君の気持ちが変わらないのが分かっていたからだ。君は言ったら聞かない頑固なところがあるからね」
そう言ってふっと笑う。
「それと、君が必ずここティンバーに行くと知っていたからだ」
「……え?」
「君が情に厚いというのを知っているのは、彼だけではないけれどもね」
私は教授にティンバーに行くことを伝えていない、何も言わなかった、ギリギリまで本当に行くかどうか迷っていたから。それになぜラニーがこの話をするのか。
話の流れがいまいちよくわからない、なぜ今そんな話をするのだろうか?
「ブルック氏に、2人で会いに行った時に、事前に彼に頼んでいたんだ」
「……教授は紅茶は飲まないわ、それにいつも簡素なシャツに白衣、スーツは数えるほどしか着たことがないの。ラニーが口止めしたの?」
「反対していた彼に無理を言ったのは私だ。思い出せばまた君が辛い思いするだろうと思って」
申し訳なさそうに視線を斜めに下げるラニーは、どこまで知っていたのだろうか。
「あなたの義弟、レニアス・ボルドーさんの事も」
「……ああ」
途端に苦しげに眉をしかめ、ぎゅっと目を閉じたラニーは、そっと視線を戻すと呟くように「申し訳なかった」と言った。
「君が気になりだしてすぐ、君を調べて、そこで知った」
調べた。まあ、そうだろう。自分と結婚したぐらいだ、生まれの良い彼が調べていないわけがない。
調べられたことに対して、特に不愉快な気持ちを抱くことはなかった、どちらかというとそれはまあ当たり前だという気持ちだろうか。
「すまない」
「それは何に対する謝罪でしょうか」
「君を調べたことと、義弟のしでかしたこと、思い出したと言った時、話を聞いて全てではないと分かっていて黙っていた」
「調べたことについてはまぁ、分かりました。でも私特に怒っていないですよ。貴方ほどの人が自分の近くにいる人を調べるのは、ある意味当然とも言えるのでしょうから。それと、弟さんのことに関してはあなたが謝る必要はないです」
データを盗んで、それを使ったという確かな証拠はない、状況証拠に過ぎないのだから。
「あの時、私が思い出したのはその場面だけでした。感情や背景までは思い出していなかったんです。きっとあの時聞かされていたら混乱していました」
聞いていたとして、全て思い出したとは限らない。もしかしたら思い出したかもしれない。
「……もしあの時思い出していても受け入れられたかは、分からない」
混乱して、やはり信じられなくて飛び出したかもしれない。
思い出したから分かる。もしラニーと彼が、密に付き合いのある人間だったら、きっと僅かな交流さえも持たなかっただろう。
2人が義理とはいえ、兄弟と知ったのは教授から聞いたから。だから最初のうちはわざと顔を合わせないようにしていた。だんだん忙しくなり、そういうわけにもいかなくなり、顔合わせるようになった自分から近づくことされなければ、彼は私に興味すら抱かないと思った。
「あなたは、あの人とは違うとても誠実な人だと思いました」
ああ、本当にどうしてこんなことを忘れていたんだろう。
暫し思考を巡らせ、黙り込む私を、ラニーはずっと見つめていた。
「……恋をしたのか、恋に恋をしたのか、分からなかったんです」
「……? それは、義弟に、か?」
「はい」
複雑な表情を見せるラニーは、何かを言おうとしたのか、1度口を開き、ぎゅっと閉じた。
「彼はとても明るく気さくで、とても眩しかったのです両親を亡くしてから、がむしゃらに頑張りました。友人もほとんどいなくてたまになんでここに自分がいるんだろうって思うこともありました。初めて彼に声をかけられた時、不思議と世界が開けた気がしたんです」
あの時の私は彼の表面的な姿でも求めてしまうほどに疲れきっていた。
「ありがとう」
テーブルに置いたカップがコトリと、小さな音を立てた。
「……」
「……」
「レイ」
「あの」
2人の言葉が重なり、息を詰める。さきにと促され、私は重くなった唇を動かした。
「勝手に飛び出してごめんなさい」
本当はもっと他に伝えたいことはたくさんあった、自分の気持ちはもちろん、ラニーの気持ちを無視した行動についても詫びなければいけないと思っていたし、離れていてもとても会いたいと思っていたことも、けれど口を開いても言葉を多く繋がれず、喉の奥へ詰まってしまっていた。
全て自分の勝手な想い行動今更戻りたいなどと申し訳無さすぎて言えなかった。
たった一言の謝罪、重たい空気がさらに重くなった気がした。
「レイの気持ちを考えたと言われれば、足りなかった、いや、自分のことしか考えていなかったのだと思い知らされた。謝るのは私の方だ、私は君に、話したいことがある、聞いてもらえるだろうか」
思いもよらない返答に私は頷いたラニーはテーブルの上に置かれたコーヒーのカップに口をつけると緊張していた表情がふっと緩む。
「君はコーヒーばかり飲んでいた」
そういうともう一口くちを付けそっとテーブルの上へカップを戻した。
「ブルック氏は君もとても可愛いがっていた養子に迎えようと考えるほどに」
そう言われて思い返すと確かに何度かうちの子になるかいと聞かれたことがある。でもそれは場を和ませるための冗談だと思っていた。
「君がブルック氏の元を離れた時、彼が了承したのは君の気持ちが変わらないのが分かっていたからだ。君は言ったら聞かない頑固なところがあるからね」
そう言ってふっと笑う。
「それと、君が必ずここティンバーに行くと知っていたからだ」
「……え?」
「君が情に厚いというのを知っているのは、彼だけではないけれどもね」
私は教授にティンバーに行くことを伝えていない、何も言わなかった、ギリギリまで本当に行くかどうか迷っていたから。それになぜラニーがこの話をするのか。
話の流れがいまいちよくわからない、なぜ今そんな話をするのだろうか?
「ブルック氏に、2人で会いに行った時に、事前に彼に頼んでいたんだ」
「……教授は紅茶は飲まないわ、それにいつも簡素なシャツに白衣、スーツは数えるほどしか着たことがないの。ラニーが口止めしたの?」
「反対していた彼に無理を言ったのは私だ。思い出せばまた君が辛い思いするだろうと思って」
申し訳なさそうに視線を斜めに下げるラニーは、どこまで知っていたのだろうか。
「あなたの義弟、レニアス・ボルドーさんの事も」
「……ああ」
途端に苦しげに眉をしかめ、ぎゅっと目を閉じたラニーは、そっと視線を戻すと呟くように「申し訳なかった」と言った。
「君が気になりだしてすぐ、君を調べて、そこで知った」
調べた。まあ、そうだろう。自分と結婚したぐらいだ、生まれの良い彼が調べていないわけがない。
調べられたことに対して、特に不愉快な気持ちを抱くことはなかった、どちらかというとそれはまあ当たり前だという気持ちだろうか。
「すまない」
「それは何に対する謝罪でしょうか」
「君を調べたことと、義弟のしでかしたこと、思い出したと言った時、話を聞いて全てではないと分かっていて黙っていた」
「調べたことについてはまぁ、分かりました。でも私特に怒っていないですよ。貴方ほどの人が自分の近くにいる人を調べるのは、ある意味当然とも言えるのでしょうから。それと、弟さんのことに関してはあなたが謝る必要はないです」
データを盗んで、それを使ったという確かな証拠はない、状況証拠に過ぎないのだから。
「あの時、私が思い出したのはその場面だけでした。感情や背景までは思い出していなかったんです。きっとあの時聞かされていたら混乱していました」
聞いていたとして、全て思い出したとは限らない。もしかしたら思い出したかもしれない。
「……もしあの時思い出していても受け入れられたかは、分からない」
混乱して、やはり信じられなくて飛び出したかもしれない。
思い出したから分かる。もしラニーと彼が、密に付き合いのある人間だったら、きっと僅かな交流さえも持たなかっただろう。
2人が義理とはいえ、兄弟と知ったのは教授から聞いたから。だから最初のうちはわざと顔を合わせないようにしていた。だんだん忙しくなり、そういうわけにもいかなくなり、顔合わせるようになった自分から近づくことされなければ、彼は私に興味すら抱かないと思った。
「あなたは、あの人とは違うとても誠実な人だと思いました」
ああ、本当にどうしてこんなことを忘れていたんだろう。
暫し思考を巡らせ、黙り込む私を、ラニーはずっと見つめていた。
「……恋をしたのか、恋に恋をしたのか、分からなかったんです」
「……? それは、義弟に、か?」
「はい」
複雑な表情を見せるラニーは、何かを言おうとしたのか、1度口を開き、ぎゅっと閉じた。
「彼はとても明るく気さくで、とても眩しかったのです両親を亡くしてから、がむしゃらに頑張りました。友人もほとんどいなくてたまになんでここに自分がいるんだろうって思うこともありました。初めて彼に声をかけられた時、不思議と世界が開けた気がしたんです」
あの時の私は彼の表面的な姿でも求めてしまうほどに疲れきっていた。
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