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「あれ? ブラウンさんは居ないんですか?」
「ヘイリーくん、いらっしゃい」
昼も近い時間になり、ヨハン・ブルックの帰郷を知った町の住人が続々と集まってきた。エリーの自宅の庭は運び込まれたテーブルや椅子がいくつも置かれ、それぞれが持ち寄った料理が所狭しと並べられている。ヘイリーは家族と共に持参した鶏肉のシチューの入った大きな鍋を並べると、人でごった返す庭を見渡しエリーに声をかけた。
エリーは少し気まずそうに部屋で人と話していると言った。
特に目立った産業のないこの田舎町では、人が出ていくことがあっても増えることはあまりない。年々加速する過疎化は、中々止めるのが難しい。
それでも、娯楽は少なくとも生活するには不自由はしない環境の為、街に出た者のうち幾人かは都会の生活に疲れて帰ってくる。
出て行った者が戻ったり、時には都会から離れたくて訪れたりと、多くはないが珍しい事ではなかったため、エリーに頼まれレイニーを迎えに行くのも、差して抵抗はなかった。
始めて会った印象はやはり他の者たちと同様に疲れて見えた。
その名を聞いて、直ぐに分かった。街の英雄、ヨハン・ブルックの共同研究者として新聞に名があったのを思い出したからだ。
レイニーはその日から街に住みだした。何時までいるのか何があったのか、誰も何も聞かない。都会から来た者は何かしらあるのを知っているからだ。
ヘイリーより2つほど年上、社会的にも農家の息子の自分よりずっと成功しているように思えるが、思い悩んでいるような表情や青白い顔、良い身なりの割に痩せた姿に、危うさを感じた。
その日遅くに祖父がエリー・ブルック宅から帰宅し話を聞くも、事情を聞いているのかいないのか、祖父は何も話さなかった。
歳が近いこともあり世話を買って出、週に2度3度訪れるも、レイニーは何処か線を引いたようだった。
そんな事を思い返していると本日の主役、ヨハン・ブルックが声をかけてきた。
「久しぶりだねヘイリー」
「ご無沙汰していますヨハンさん」
「いつも母を助けてくれてありがとう」
父と同年代のヨハンは父とは違い、スーツの似合う洗練された都会の紳士だ。
「あのヨハンさん、もしかして、今ブラウンさんとお話しているのって」
「ああ、私が連れてきたんだ」
「そう、ですか」
ということは、もしかしたら彼女の夫だろうか。本人からは聞いたことがないが、新聞には彼女が実業家であるラニアス・アンダーソンと結婚したとあった。まだ結婚して間もないはずだった。だからもしかしたらここへ逃げてきた理由はその結婚にあるんじゃないかと思っていた。
「……そろそろお昼ですし、声をかけてきましょうか」
ヨハンはちらりと時計を見てそうだねと一言言った。
もしその結婚が原因でここまで来たのなら、そのまま戻らずずっとここで暮らしていくかもしれない、そう思った。都会の人間にしては擦れたところもなく真面目な、彼女はここに残ればみんな喜んだだろう。実際もし残る事があったら嫁に欲しいという話を何度か聞いた。
そう、もし残るなら、できれば家に来て欲しい。農家の嫁にしては少しおとなしいかなと思わなくもないけれども、彼女なら十分にやっていける。そんな気持ちを持って接していたのは、いつからだろうか。この辺りではなかなか見ない、控え目な年上の彼女に、ヘイリーはいつの間にか好意を抱いていた。
宴会の場となった庭から外れ、小さくなる声を背中で聞きながらレイニーの家へ向かった。
緊張し、少しだけ高鳴る胸と、シャツの襟を正してから、ノッカーを打ち鳴らした。
「ヘイリーくん、いらっしゃい」
昼も近い時間になり、ヨハン・ブルックの帰郷を知った町の住人が続々と集まってきた。エリーの自宅の庭は運び込まれたテーブルや椅子がいくつも置かれ、それぞれが持ち寄った料理が所狭しと並べられている。ヘイリーは家族と共に持参した鶏肉のシチューの入った大きな鍋を並べると、人でごった返す庭を見渡しエリーに声をかけた。
エリーは少し気まずそうに部屋で人と話していると言った。
特に目立った産業のないこの田舎町では、人が出ていくことがあっても増えることはあまりない。年々加速する過疎化は、中々止めるのが難しい。
それでも、娯楽は少なくとも生活するには不自由はしない環境の為、街に出た者のうち幾人かは都会の生活に疲れて帰ってくる。
出て行った者が戻ったり、時には都会から離れたくて訪れたりと、多くはないが珍しい事ではなかったため、エリーに頼まれレイニーを迎えに行くのも、差して抵抗はなかった。
始めて会った印象はやはり他の者たちと同様に疲れて見えた。
その名を聞いて、直ぐに分かった。街の英雄、ヨハン・ブルックの共同研究者として新聞に名があったのを思い出したからだ。
レイニーはその日から街に住みだした。何時までいるのか何があったのか、誰も何も聞かない。都会から来た者は何かしらあるのを知っているからだ。
ヘイリーより2つほど年上、社会的にも農家の息子の自分よりずっと成功しているように思えるが、思い悩んでいるような表情や青白い顔、良い身なりの割に痩せた姿に、危うさを感じた。
その日遅くに祖父がエリー・ブルック宅から帰宅し話を聞くも、事情を聞いているのかいないのか、祖父は何も話さなかった。
歳が近いこともあり世話を買って出、週に2度3度訪れるも、レイニーは何処か線を引いたようだった。
そんな事を思い返していると本日の主役、ヨハン・ブルックが声をかけてきた。
「久しぶりだねヘイリー」
「ご無沙汰していますヨハンさん」
「いつも母を助けてくれてありがとう」
父と同年代のヨハンは父とは違い、スーツの似合う洗練された都会の紳士だ。
「あのヨハンさん、もしかして、今ブラウンさんとお話しているのって」
「ああ、私が連れてきたんだ」
「そう、ですか」
ということは、もしかしたら彼女の夫だろうか。本人からは聞いたことがないが、新聞には彼女が実業家であるラニアス・アンダーソンと結婚したとあった。まだ結婚して間もないはずだった。だからもしかしたらここへ逃げてきた理由はその結婚にあるんじゃないかと思っていた。
「……そろそろお昼ですし、声をかけてきましょうか」
ヨハンはちらりと時計を見てそうだねと一言言った。
もしその結婚が原因でここまで来たのなら、そのまま戻らずずっとここで暮らしていくかもしれない、そう思った。都会の人間にしては擦れたところもなく真面目な、彼女はここに残ればみんな喜んだだろう。実際もし残る事があったら嫁に欲しいという話を何度か聞いた。
そう、もし残るなら、できれば家に来て欲しい。農家の嫁にしては少しおとなしいかなと思わなくもないけれども、彼女なら十分にやっていける。そんな気持ちを持って接していたのは、いつからだろうか。この辺りではなかなか見ない、控え目な年上の彼女に、ヘイリーはいつの間にか好意を抱いていた。
宴会の場となった庭から外れ、小さくなる声を背中で聞きながらレイニーの家へ向かった。
緊張し、少しだけ高鳴る胸と、シャツの襟を正してから、ノッカーを打ち鳴らした。
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