Rain

ゆか

文字の大きさ
24 / 35

24

しおりを挟む
「あれ? ブラウンさんは居ないんですか?」

「ヘイリーくん、いらっしゃい」


昼も近い時間になり、ヨハン・ブルックの帰郷を知った町の住人が続々と集まってきた。エリーの自宅の庭は運び込まれたテーブルや椅子がいくつも置かれ、それぞれが持ち寄った料理が所狭しと並べられている。ヘイリーは家族と共に持参した鶏肉のシチューの入った大きな鍋を並べると、人でごった返す庭を見渡しエリーに声をかけた。


エリーは少し気まずそうに部屋で人と話していると言った。





特に目立った産業のないこの田舎町では、人が出ていくことがあっても増えることはあまりない。年々加速する過疎化は、中々止めるのが難しい。

それでも、娯楽は少なくとも生活するには不自由はしない環境の為、街に出た者のうち幾人かは都会の生活に疲れて帰ってくる。

出て行った者が戻ったり、時には都会から離れたくて訪れたりと、多くはないが珍しい事ではなかったため、エリーに頼まれレイニーを迎えに行くのも、差して抵抗はなかった。

始めて会った印象はやはり他の者たちと同様に疲れて見えた。

その名を聞いて、直ぐに分かった。街の英雄、ヨハン・ブルックの共同研究者として新聞に名があったのを思い出したからだ。

レイニーはその日から街に住みだした。何時までいるのか何があったのか、誰も何も聞かない。都会から来た者は何かしらあるのを知っているからだ。


ヘイリーより2つほど年上、社会的にも農家の息子の自分よりずっと成功しているように思えるが、思い悩んでいるような表情や青白い顔、良い身なりの割に痩せた姿に、危うさを感じた。


その日遅くに祖父がエリー・ブルック宅から帰宅し話を聞くも、事情を聞いているのかいないのか、祖父は何も話さなかった。

歳が近いこともあり世話を買って出、週に2度3度訪れるも、レイニーは何処か線を引いたようだった。



そんな事を思い返していると本日の主役、ヨハン・ブルックが声をかけてきた。


「久しぶりだねヘイリー」

「ご無沙汰していますヨハンさん」

「いつも母を助けてくれてありがとう」



父と同年代のヨハンは父とは違い、スーツの似合う洗練された都会の紳士だ。


「あのヨハンさん、もしかして、今ブラウンさんとお話しているのって」

「ああ、私が連れてきたんだ」

「そう、ですか」


ということは、もしかしたら彼女の夫だろうか。本人からは聞いたことがないが、新聞には彼女が実業家であるラニアス・アンダーソンと結婚したとあった。まだ結婚して間もないはずだった。だからもしかしたらここへ逃げてきた理由はその結婚にあるんじゃないかと思っていた。

「……そろそろお昼ですし、声をかけてきましょうか」

ヨハンはちらりと時計を見てそうだねと一言言った。




もしその結婚が原因でここまで来たのなら、そのまま戻らずずっとここで暮らしていくかもしれない、そう思った。都会の人間にしては擦れたところもなく真面目な、彼女はここに残ればみんな喜んだだろう。実際もし残る事があったら嫁に欲しいという話を何度か聞いた。


そう、もし残るなら、できれば家に来て欲しい。農家の嫁にしては少しおとなしいかなと思わなくもないけれども、彼女なら十分にやっていける。そんな気持ちを持って接していたのは、いつからだろうか。この辺りではなかなか見ない、控え目な年上の彼女に、ヘイリーはいつの間にか好意を抱いていた。




宴会の場となった庭から外れ、小さくなる声を背中で聞きながらレイニーの家へ向かった。

緊張し、少しだけ高鳴る胸と、シャツの襟を正してから、ノッカーを打ち鳴らした。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛とオルゴール

夜宮
恋愛
 ジェシカは怒っていた。  父親が、同腹の弟ではなく妾の子を跡継ぎにしようとしていることを知ったからだ。  それに、ジェシカの恋人に横恋慕する伯爵令嬢が現れて……。  絡み合った過去と現在。  ジェシカは無事、弟を跡継ぎの座につけ、愛する人との未来を手にすることができるのだろうか。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

禁断の関係かもしれないが、それが?

しゃーりん
恋愛
王太子カインロットにはラフィティという婚約者がいる。 公爵令嬢であるラフィティは可愛くて人気もあるのだが少し頭が悪く、カインロットはこのままラフィティと結婚していいものか、悩んでいた。 そんな時、ラフィティが自分の代わりに王太子妃の仕事をしてくれる人として連れて来たのが伯爵令嬢マリージュ。 カインロットはマリージュが自分の異母妹かもしれない令嬢だということを思い出す。 しかも初恋の女の子でもあり、マリージュを手に入れたいと思ったカインロットは自分の欲望のためにラフィティの頼みを受け入れる。 兄妹かもしれないが子供を生ませなければ問題ないだろう?というお話です。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月 瑠々奈
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

処理中です...