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今回も戻るのが早い。
薄らと疲れの滲む目元はきちんと休息が取れていない証。
ラニーが確実に帰ってこない日以外は毎日2人分の食事を用意している。いつ帰ってきてもいいように。夕暮れ時の帰宅で、丁度お風呂の支度も済んでいた入ってもらっている間に夕食のシチューを温める。
二人で向かい合うテーブルはあまり大きくはない。簡単なサラダパンとシチューを並べればもういっぱいだ。
今までずっと豪華な料理ばかりを食べてきたラニーは、このシンプルなテーブルにも料理にも何も言わない。むしろそれを喜んでいるように見える。あまりたくさんの種類を作れる訳ではないけれども、嬉しそうに食べてくれるから、もっと頑張ろうと思える。
ずっと自分のことで精一杯だった。そして自分は誰かから愛されることを望み、それが与えられないと絶望し、信じることを諦め塞ぎ込んだ。
それが悪いというわけではないと思う。そう、生きることしかできない人もいる。以前の私はそうだった。でも今は誰かのために頑張ることが、自分を大きくし、満たされていると感じている。狭かった視野が少しずつ広がり目が覚めたような解放されたような気持ちだ。
食事を終え2人掛けのソファーに座り、食後にはコーヒーを用意を飲む。
ずっとなれなかった近い距離は今ではひどく安心を与えてくれる。
「ラニー、話があるの」
「……ああ、何だ?」
ほんの僅かに、肩が揺れた。一瞬遅れた返事は何を思ったんだろうか。
「そろそろ、帰ろうかと思うの」
「……それは」
「ここの生活もいいけれど、もっと2人でいる時間が欲しいの。できれば、毎日一緒に眠りたいし、空いた時間にのんびり過ごしたり、ちょっと出かけたり」
「……ドゥイドに拠点を移そうかと検討している。無理にここを離れる必要はない」
「無理なんかじゃないわ、ずっと考えていたの。エリーさんにももう話をしたわ」
ラニーのまっすぐな瞳は僅かに揺れているようにも見える。きっと私が帰ると言うなんて思いもしていなかったんだろう。
何も言わなければもっと無理をする。そもそも拠点の都市部から距離のあるここティンバーに住むこと自体が無理なのだ。
拠点を移したとしても、仕事のほとんどは都市で回っている。書類をやりとりするだけではなく、会合や会食、会議など上に立つ者にも様々な仕事があるのだ。
「ミセスブルックは何と?」
「部屋はそのままにしておくから、たまにいらっしゃいって」
「そうか……私も、君と毎日を過ごしたい。硬い列車の中で夜を明かすより、柔らかいレイを抱いて心地よく目覚める毎日が欲しいと思っていたんだ。嬉しいよ」
「我儘で迷惑ばかりでごめんなさい。愛します」
ラニーの肩に凭れると、たくましい腕が優しく包み込む。
「レイ、迷惑なんかでは無い。私がしたいからそうしたんだ」
「でも、とても負担をかけているわ」
「負担、とも思わないが、そう思ってしまうなら、ありがとうと」
背に回る腕も、その胸もとても温かく、その温かさに甘えながら「ありがとう」と伝える。
明日一番に向こうに連絡を入れようと言うラニーの声は、少し弾んでいるように聞こえた。
薄らと疲れの滲む目元はきちんと休息が取れていない証。
ラニーが確実に帰ってこない日以外は毎日2人分の食事を用意している。いつ帰ってきてもいいように。夕暮れ時の帰宅で、丁度お風呂の支度も済んでいた入ってもらっている間に夕食のシチューを温める。
二人で向かい合うテーブルはあまり大きくはない。簡単なサラダパンとシチューを並べればもういっぱいだ。
今までずっと豪華な料理ばかりを食べてきたラニーは、このシンプルなテーブルにも料理にも何も言わない。むしろそれを喜んでいるように見える。あまりたくさんの種類を作れる訳ではないけれども、嬉しそうに食べてくれるから、もっと頑張ろうと思える。
ずっと自分のことで精一杯だった。そして自分は誰かから愛されることを望み、それが与えられないと絶望し、信じることを諦め塞ぎ込んだ。
それが悪いというわけではないと思う。そう、生きることしかできない人もいる。以前の私はそうだった。でも今は誰かのために頑張ることが、自分を大きくし、満たされていると感じている。狭かった視野が少しずつ広がり目が覚めたような解放されたような気持ちだ。
食事を終え2人掛けのソファーに座り、食後にはコーヒーを用意を飲む。
ずっとなれなかった近い距離は今ではひどく安心を与えてくれる。
「ラニー、話があるの」
「……ああ、何だ?」
ほんの僅かに、肩が揺れた。一瞬遅れた返事は何を思ったんだろうか。
「そろそろ、帰ろうかと思うの」
「……それは」
「ここの生活もいいけれど、もっと2人でいる時間が欲しいの。できれば、毎日一緒に眠りたいし、空いた時間にのんびり過ごしたり、ちょっと出かけたり」
「……ドゥイドに拠点を移そうかと検討している。無理にここを離れる必要はない」
「無理なんかじゃないわ、ずっと考えていたの。エリーさんにももう話をしたわ」
ラニーのまっすぐな瞳は僅かに揺れているようにも見える。きっと私が帰ると言うなんて思いもしていなかったんだろう。
何も言わなければもっと無理をする。そもそも拠点の都市部から距離のあるここティンバーに住むこと自体が無理なのだ。
拠点を移したとしても、仕事のほとんどは都市で回っている。書類をやりとりするだけではなく、会合や会食、会議など上に立つ者にも様々な仕事があるのだ。
「ミセスブルックは何と?」
「部屋はそのままにしておくから、たまにいらっしゃいって」
「そうか……私も、君と毎日を過ごしたい。硬い列車の中で夜を明かすより、柔らかいレイを抱いて心地よく目覚める毎日が欲しいと思っていたんだ。嬉しいよ」
「我儘で迷惑ばかりでごめんなさい。愛します」
ラニーの肩に凭れると、たくましい腕が優しく包み込む。
「レイ、迷惑なんかでは無い。私がしたいからそうしたんだ」
「でも、とても負担をかけているわ」
「負担、とも思わないが、そう思ってしまうなら、ありがとうと」
背に回る腕も、その胸もとても温かく、その温かさに甘えながら「ありがとう」と伝える。
明日一番に向こうに連絡を入れようと言うラニーの声は、少し弾んでいるように聞こえた。
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