Rain

ゆか

文字の大きさ
28 / 35

28

しおりを挟む
「こちらが確認書類でございます」

「ああ、いつもすまない」


カールから渡されたのは数枚の書類だが、机にはそれに関する別の書類が積まれている。

時間をかけて、それを確認し、必要な物にサインを入れていく。カールが補佐してくれているおかげで時間は充分空くが、なんせ今の自宅に帰るのには列車でも一日以上かかるため幾ら時間を作っても足りない。


「アレの動向はどうだ?」

「大旦那様へ何度か面会を申し入れていたようですが叶わず、ラニアス様への面会の要求がありました。大分焦っているようでした」

「そうか」


最後の書類の処理を終えると、すぐに暖かいコーヒーが目の前に置かれた。


父は言葉の通りに遺言を書き換え、事業の一部を私に引き継ぎ始めた。幾ら時間を作っても足りない原因のひとつでもある。

そして義弟は焦っている。義理といえ血の繋がった弟であるレニアスは差はあれどアンダーソンの子として金銭面での支援を受けていた。父から纏まった金額を渡されたようだが、今まで受けていた援助は打ち切られたようだ。加えて与えられたのは父が所有する東部の土地と織物工場を譲り受けたようだ。既に義弟の母はそちらに移ったと聞いたが、彼女では管理しきれないだろうから教育を受けていたことのある義弟がやるしかない。が、まだ東部には移っていない。

父と母親が別れた事も、東部に追いやられる事も気に入らないのだろう。


「あの織物工場の収益はそれなりにある。上手くやればそこから広げる事も出来るだらろう」

「今までは好きな研究員として働き、毎月かなりの金額を浪費されていましら」

「工場自体は最初の道筋を作ればアレがいなくとも回る人材が揃っているはずだ。研究を続ける事は可能だろう」


元々好きで始めたものだったはずだ。それがいつの間にか歪んでいった。


「……サンド商会と、あまり上手くいっていないようです」

「アンダーソンから除籍された訳ではないし、父はそこまでするつもりは無いだろう」

「ですが東部に母君が移られた事で大旦那様との不仲を疑っているのではないかと」

「……アレは何と?」

「話したい事があるので早急に時間を取って欲しいと」


ただでさえ時間が惜しいのに、面倒な。


「断って面倒を起こされても困るな。明日は直ぐにティンバーに戻りたい。すまないが次回以降に調整しておいてくれ」

「かしこまりました」


カップの底に少しだけ残ったコーヒーを飲み、次までに目を通しておけなければならない書類をまとめ、時間を確認しコートを羽織る。

「お送りいたします」

「ああ、頼む」

変わらないやりとりはもう数ヶ月続いている。最初こそ時間が遅い、せめて一晩休息をとうるさかったカールは、何か事が起こってからでは遅いと、護衛代わりになる部下をティンバーまで帯同させることを条件に、今は何も言わずに送り出してくれる。

長い道のりを帯同させるのは申し訳ないと思う気持ちはあるが、正直疲れた身体で1人で帰るのは辛い時もあった。眠りこけ、列車の乗り換えに間に合わないということもなくなった。誰も付き添っていなければ、きっと1度は身ぐるみ剥がされていただろう。いや、最悪、命すらなかったかもしれない。

レイの生活に不満はない。だが、このままの生活は負担が大きく、改善しなければならない。中間地点にあるドゥイドの街に拠点を移すことも考えている。


ティンバーの駅からレイと住んでいる家までは少し距離がある。早い時間に到着すれば乗り合い馬車に乗り、遅ければ時間をかけて徒歩で向かう。

今回はギリギリ最終の乗り合い場所に間に合ったため、それに乗り自宅近くまで移動する。

ともに帰路を歩んでくれた部下を労い、ブルック夫人から借り上げている別の家で休息後帰路に着くようにと鍵を渡した。

私が自宅に入るのは確認した後、彼はきっとその家に向かうのだろう。


今まで住んでいた屋敷とは違い、広さも物も少ない。不便であると感じることもある。これほどまでに誰かと近い距離で生活したのは初めてのことで、最初こそ戸惑う事もあったが、今ではそれが当たり前であり、私にとって必要なものだ。

懐から取り出した鍵を回しドアに手を掛けると、引くより先に扉が開く。

「お帰りなさい」

「ただいま」

笑顔で迎えてくれるレイを抱きしめ、後ろ手に扉を閉めて鍵をかけた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛とオルゴール

夜宮
恋愛
 ジェシカは怒っていた。  父親が、同腹の弟ではなく妾の子を跡継ぎにしようとしていることを知ったからだ。  それに、ジェシカの恋人に横恋慕する伯爵令嬢が現れて……。  絡み合った過去と現在。  ジェシカは無事、弟を跡継ぎの座につけ、愛する人との未来を手にすることができるのだろうか。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

禁断の関係かもしれないが、それが?

しゃーりん
恋愛
王太子カインロットにはラフィティという婚約者がいる。 公爵令嬢であるラフィティは可愛くて人気もあるのだが少し頭が悪く、カインロットはこのままラフィティと結婚していいものか、悩んでいた。 そんな時、ラフィティが自分の代わりに王太子妃の仕事をしてくれる人として連れて来たのが伯爵令嬢マリージュ。 カインロットはマリージュが自分の異母妹かもしれない令嬢だということを思い出す。 しかも初恋の女の子でもあり、マリージュを手に入れたいと思ったカインロットは自分の欲望のためにラフィティの頼みを受け入れる。 兄妹かもしれないが子供を生ませなければ問題ないだろう?というお話です。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

処理中です...