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「義兄さん、僕は友人を訪ねただけだ。なのに何故こんな扱いを受けなければいけない?」
感情を逃がすかのように細く長く息を吐き、表情までも取り繕った義弟が言った。
椅子には座っているがその腕はまだ後ろで拘束をされている。
「それはどうかな。先程レイの診察が終わったが、医師の診断では骨折しているそうだ」
「まさか、大袈裟だな。ちょっと腕を掴んだだけじゃないか」
フンと鼻を鳴らした、義弟は意地悪く口を歪める。
怒りは通り越した。
義理といえど弟、そう思うからこそ嫉妬や妬みからくるだろう様々な行動に目をつぶっていた。
レイに対する仕打ちさえ、本人が忘れているからこそ、報復や制裁を行わなかった。彼女はおそらくそれを望まないと思ったからだ。
私が与えなかった制裁を父が与えた事で、怒りの矛先が私や父を通り越してレイに向かったのだろう 。
もっと監視をつけていればと自分自身を許せないと思ったが、それ以上に目の前にいる義弟が許せない。
「義兄さんがレイニーと付き合っていたなんて驚いたよ。しかも結婚まで」
居心地悪そうに体をほんの少しだけ直し、腕にかけられた談話を確認してる。外れないと分かったのか、小さく舌を鳴らしたのが聞こえた。
「彼女とはアカデミーからの知り合いなんだ。入った研究室は違ったけどよく会ってた。彼女友達が居なかったからね、気にかけていたんだ」
「……」
何か言葉を期待したんだろうが、何の反応も返さないことに苛立ったのか、僅かに眉をしかめた。
「僕に気があるのはわかっていたけれど、まさか、義兄さんに言い寄るなんてね。意外と気が多かったんだね」
「……」
「まだ学生のうちから教授とも親しかったみたいだし、色々噂もあったんだよ「黙れ」」
一言そう言うと義弟は一瞬目を見開き、すっと細めた。
「……はっ、なに? 僕は義兄さんを心配してるんだよ? 彼女は教授といかがわしい噂がある。そんな女をアンダーソンに迎えるなんて正気じゃない」
「彼女は既にそのアンダーソンの一員だ。それ以上の侮辱は許さない」
「……何で義兄さんも父さんも身内より他人の女を信じるのさ」
「本当に潔白ならお前を信じたろう」
「何だよそれ。まるで僕が悪いみたいに」
「みたいじゃなくそうなんだろう。お前の論文、レイが教授との研究を元に書いたもの、どちらも酷似していた。当時お前を擁護したサラナン教授からも話を聞いた。サラナン教授は焦ったろう。何せ盗作疑惑を否定したすぐ後にブルック氏がビスマー病に関する調査結果を正式に学会に発表したのだからな。本当ならレイの論文を出すつもりだったが、お前と揉めたこともありレイはそれを辞退した。ここまで言えば分からりだろう」
「だから何さ。そんなのは偶然……」
「偶然にしてはブルック氏が現地調査し発見した事実と重なりすぎていると、サラナン教授はあの時はそれが最善だったと話していた」
レイとの結婚が決まり、すぐに父はレイを調べあげた。当然、盗作云々の話も耳に入っている。事実確認する顔ぶれの中に、両教授の名があったのは自然な事。
「だからって! たまたま着眼点が同じだっただけの」
「お前が寮のレイの部屋から資料らしき物を持ち出すところを見ていた者もいる」
「……知らないね」
「そうか。だが、判断するのは私じゃない」
母を裏切ったのは父であって、義弟ではない。だからこそ、いつかは普通の兄弟のように手を取り合える日が来るかもしれないと思ったこともあった。
反発するように全く別の仕事に就き、そしらぬ顔をしてライバル商会に協力をした。ブルック氏に出資が決まり暫く、レイとのトラブルを知りどれほど後悔したか。もっと注意するべきだった、野放しにするべきではなかった、いや、それ以前にもっと良好な関係を築いておくべきだったと。
反省の色の見られない、義弟を前に、もう言葉は出て来なかった。
感情を逃がすかのように細く長く息を吐き、表情までも取り繕った義弟が言った。
椅子には座っているがその腕はまだ後ろで拘束をされている。
「それはどうかな。先程レイの診察が終わったが、医師の診断では骨折しているそうだ」
「まさか、大袈裟だな。ちょっと腕を掴んだだけじゃないか」
フンと鼻を鳴らした、義弟は意地悪く口を歪める。
怒りは通り越した。
義理といえど弟、そう思うからこそ嫉妬や妬みからくるだろう様々な行動に目をつぶっていた。
レイに対する仕打ちさえ、本人が忘れているからこそ、報復や制裁を行わなかった。彼女はおそらくそれを望まないと思ったからだ。
私が与えなかった制裁を父が与えた事で、怒りの矛先が私や父を通り越してレイに向かったのだろう 。
もっと監視をつけていればと自分自身を許せないと思ったが、それ以上に目の前にいる義弟が許せない。
「義兄さんがレイニーと付き合っていたなんて驚いたよ。しかも結婚まで」
居心地悪そうに体をほんの少しだけ直し、腕にかけられた談話を確認してる。外れないと分かったのか、小さく舌を鳴らしたのが聞こえた。
「彼女とはアカデミーからの知り合いなんだ。入った研究室は違ったけどよく会ってた。彼女友達が居なかったからね、気にかけていたんだ」
「……」
何か言葉を期待したんだろうが、何の反応も返さないことに苛立ったのか、僅かに眉をしかめた。
「僕に気があるのはわかっていたけれど、まさか、義兄さんに言い寄るなんてね。意外と気が多かったんだね」
「……」
「まだ学生のうちから教授とも親しかったみたいだし、色々噂もあったんだよ「黙れ」」
一言そう言うと義弟は一瞬目を見開き、すっと細めた。
「……はっ、なに? 僕は義兄さんを心配してるんだよ? 彼女は教授といかがわしい噂がある。そんな女をアンダーソンに迎えるなんて正気じゃない」
「彼女は既にそのアンダーソンの一員だ。それ以上の侮辱は許さない」
「……何で義兄さんも父さんも身内より他人の女を信じるのさ」
「本当に潔白ならお前を信じたろう」
「何だよそれ。まるで僕が悪いみたいに」
「みたいじゃなくそうなんだろう。お前の論文、レイが教授との研究を元に書いたもの、どちらも酷似していた。当時お前を擁護したサラナン教授からも話を聞いた。サラナン教授は焦ったろう。何せ盗作疑惑を否定したすぐ後にブルック氏がビスマー病に関する調査結果を正式に学会に発表したのだからな。本当ならレイの論文を出すつもりだったが、お前と揉めたこともありレイはそれを辞退した。ここまで言えば分からりだろう」
「だから何さ。そんなのは偶然……」
「偶然にしてはブルック氏が現地調査し発見した事実と重なりすぎていると、サラナン教授はあの時はそれが最善だったと話していた」
レイとの結婚が決まり、すぐに父はレイを調べあげた。当然、盗作云々の話も耳に入っている。事実確認する顔ぶれの中に、両教授の名があったのは自然な事。
「だからって! たまたま着眼点が同じだっただけの」
「お前が寮のレイの部屋から資料らしき物を持ち出すところを見ていた者もいる」
「……知らないね」
「そうか。だが、判断するのは私じゃない」
母を裏切ったのは父であって、義弟ではない。だからこそ、いつかは普通の兄弟のように手を取り合える日が来るかもしれないと思ったこともあった。
反発するように全く別の仕事に就き、そしらぬ顔をしてライバル商会に協力をした。ブルック氏に出資が決まり暫く、レイとのトラブルを知りどれほど後悔したか。もっと注意するべきだった、野放しにするべきではなかった、いや、それ以前にもっと良好な関係を築いておくべきだったと。
反省の色の見られない、義弟を前に、もう言葉は出て来なかった。
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