34 / 35
34
しおりを挟む
「さあレイ、口を開けて」
「いえ、あの、自分で、食べるから」
レニアスの訪れから2日が経った。
あの後時間と共に私の腕は膨れ上がり、痛みとそれに伴う熱に襲われ、結局お医者様のお助けを借りることになった。
骨折ですねと言われた時は、人間の骨はそんな程度じゃ折れないですよねと返してしまったが、折れてる事実は変わらなかった。もしかすると長年の不摂生で、少し骨が弱くなっていたのかもしれないと少しだけ反省した。
ラニーが来た事で大人しくなったレニアスは、エリーさんから借りているもうひとつの家、ラニーの部下が一晩泊まっていた家で、迎えが来るまでの間その部下とラニーによる監視下の元過ごしたが、先程昼前に、きっと連絡を受けすぐに手配してくださったのだろう義父様の部下の方が迎えに来て連れていった。
ラニーは私がレニアスと顔を合わせないようにと気遣ってくれ、彼が町を去る時、立ち会わせては貰えなかった。
レニアスとは拗れてしまったけれど、私の意思がもっと強ければ、こんな関係ではなく違う関係を築く事ができたのか。ほんの少しだけ考えてしまった。
それから数日は村でのんびり過ごし、いよいよティンバーを去る日がやってきた。
近所のみんなが私のためにわざわざ駅まで見送りに来てくれた。もうまもなく列車がやってくる頃だ。
「今までありがとうございました。とても良くしていただき、本当に」
いつかは別れることになっていると分かっていたけれども、いざその時になってみると胸にこみ上げるものがある。
人と熱くなる目頭に1度、長い瞬きをして、目の前にいるエリーさんに目を向ける。
「あなたが来てくれて楽しかったわ。娘がいたらこんな感じなのかしらって」
「また、来てもいいですか?」
「ええ、もちろん。いつでも待っているわ」
ぎゅっと手を握り、自然と抱きしめあった。背中を優しく撫でる、エリーさんの腕が温かくて我慢していた涙がぽろりと零れ落ちた。
離れたところで汽笛の音が聞こえ、慌てて涙を拭いてハンスさん一家や駆けつけてくれたご近所さんとも挨拶をしていった。
しばらく滞在することを決めたブルック教授は見送る側にいる。
私がここに来る直前に、足の具合が良くないエリーさんが町役場を退職してしまったことを聞いたからだ。以前教授から「町役場に勤めている、エリー・ブルック」と聞いたはずなのに、自分のことでいっぱいだった私は、聞いていたはずのその言葉がすっかりと頭から抜けていた。
「教授、エリーさんをよろしくお願いします。また、きっとすぐに来ますから」
「あらレイちゃん私は大丈夫よ。周りにはたくさん人がいるもの。ヨハンだってすぐにそっちに帰すわ。何かあればハンスを頼れるし、ヘイリーくんだっている。配達員のサデロ、交換台のヤマ、あと事務員のジャナールも。こう見えて結構モテるのよ」
軽くウインクをしておどけてみせる、エリーさんにフフッと笑いが溢れた。
そうこうしているうちに汽車が入構し、ラニーに促され、車内へと足を進める。
小さなほぼ無人の駅であるティンバーの駅は停車時間がとても短い。座席の窓から身を乗り出した私に対してか、車掌室から覗き込んだ運転士が短く二度汽笛を鳴らした。
「また来ます。きっと、すぐに」
エリーさんや教授、、ハンスさんにその息子さん夫婦のロディさんジョアンナさん、ヘイリーさんやご近所の皆さん。お世話になった方々が笑顔で手を振り送り出してくれ、私も見えなくなるまで笑顔で手を振った。
短いようで長く、とても充実したティンバーでの生活はこうして終わった。
「レイ、後悔してるか?」
「……いいえ。してないわ」
過程はどうあれ、あの場所で私はとても充実た時間を過ごした、もし母が生きていたらあんな感じだったのかと思うほどに穏やかで暖かかった。
「……ねえラニー、お願いがあるんだけれど」
全て思い出してから、帰ることを決めてからずっと考えていたことがある。
自分が何をしたいのか、どう生きていきたいのか。
「いえ、あの、自分で、食べるから」
レニアスの訪れから2日が経った。
あの後時間と共に私の腕は膨れ上がり、痛みとそれに伴う熱に襲われ、結局お医者様のお助けを借りることになった。
骨折ですねと言われた時は、人間の骨はそんな程度じゃ折れないですよねと返してしまったが、折れてる事実は変わらなかった。もしかすると長年の不摂生で、少し骨が弱くなっていたのかもしれないと少しだけ反省した。
ラニーが来た事で大人しくなったレニアスは、エリーさんから借りているもうひとつの家、ラニーの部下が一晩泊まっていた家で、迎えが来るまでの間その部下とラニーによる監視下の元過ごしたが、先程昼前に、きっと連絡を受けすぐに手配してくださったのだろう義父様の部下の方が迎えに来て連れていった。
ラニーは私がレニアスと顔を合わせないようにと気遣ってくれ、彼が町を去る時、立ち会わせては貰えなかった。
レニアスとは拗れてしまったけれど、私の意思がもっと強ければ、こんな関係ではなく違う関係を築く事ができたのか。ほんの少しだけ考えてしまった。
それから数日は村でのんびり過ごし、いよいよティンバーを去る日がやってきた。
近所のみんなが私のためにわざわざ駅まで見送りに来てくれた。もうまもなく列車がやってくる頃だ。
「今までありがとうございました。とても良くしていただき、本当に」
いつかは別れることになっていると分かっていたけれども、いざその時になってみると胸にこみ上げるものがある。
人と熱くなる目頭に1度、長い瞬きをして、目の前にいるエリーさんに目を向ける。
「あなたが来てくれて楽しかったわ。娘がいたらこんな感じなのかしらって」
「また、来てもいいですか?」
「ええ、もちろん。いつでも待っているわ」
ぎゅっと手を握り、自然と抱きしめあった。背中を優しく撫でる、エリーさんの腕が温かくて我慢していた涙がぽろりと零れ落ちた。
離れたところで汽笛の音が聞こえ、慌てて涙を拭いてハンスさん一家や駆けつけてくれたご近所さんとも挨拶をしていった。
しばらく滞在することを決めたブルック教授は見送る側にいる。
私がここに来る直前に、足の具合が良くないエリーさんが町役場を退職してしまったことを聞いたからだ。以前教授から「町役場に勤めている、エリー・ブルック」と聞いたはずなのに、自分のことでいっぱいだった私は、聞いていたはずのその言葉がすっかりと頭から抜けていた。
「教授、エリーさんをよろしくお願いします。また、きっとすぐに来ますから」
「あらレイちゃん私は大丈夫よ。周りにはたくさん人がいるもの。ヨハンだってすぐにそっちに帰すわ。何かあればハンスを頼れるし、ヘイリーくんだっている。配達員のサデロ、交換台のヤマ、あと事務員のジャナールも。こう見えて結構モテるのよ」
軽くウインクをしておどけてみせる、エリーさんにフフッと笑いが溢れた。
そうこうしているうちに汽車が入構し、ラニーに促され、車内へと足を進める。
小さなほぼ無人の駅であるティンバーの駅は停車時間がとても短い。座席の窓から身を乗り出した私に対してか、車掌室から覗き込んだ運転士が短く二度汽笛を鳴らした。
「また来ます。きっと、すぐに」
エリーさんや教授、、ハンスさんにその息子さん夫婦のロディさんジョアンナさん、ヘイリーさんやご近所の皆さん。お世話になった方々が笑顔で手を振り送り出してくれ、私も見えなくなるまで笑顔で手を振った。
短いようで長く、とても充実したティンバーでの生活はこうして終わった。
「レイ、後悔してるか?」
「……いいえ。してないわ」
過程はどうあれ、あの場所で私はとても充実た時間を過ごした、もし母が生きていたらあんな感じだったのかと思うほどに穏やかで暖かかった。
「……ねえラニー、お願いがあるんだけれど」
全て思い出してから、帰ることを決めてからずっと考えていたことがある。
自分が何をしたいのか、どう生きていきたいのか。
0
あなたにおすすめの小説
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから
えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。
※他サイトに自立も掲載しております
21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる