〖完結〗「お前は俺の最高の番(つがい)だ」「番(つがい)?私の番は別にいる」

ゆか

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腹黒の中身は愛?

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レーンには一瞬で到着した。改めて転移というものの凄さを実感した。

しょんぼりとする姫さんは部屋へ押し込まれ、俺たちは荷解きをする。と言っても大した荷物はないからすぐに終わっちまったが。

その後リミオはウィリアムに話があると引き止められ、俺はカイルに呼ばれ執務室に。そこは実用的な簡素な机や棚が並ぶ場所だった。もっと豪華に飾られたもんだと思ったが意外にも対して飾られてはいない。


「さて、君との契約はここまでだね? こちらの都合で早い帰宅になってしまったからね、勿論満額支払わせてもらう」


相変わらず薄い笑顔を浮かべた男は、机の上で指を組みじっと俺を見つめる。


「このまま、何らかの形でここに残ることはできませんか」


「それはあの話を受けるということかな?」


「ああ。俺はアリエーラが欲しい」


「アリエーラにとって君が番ではなくとも?」


「構わない。そりゃ、そうなれたらとは思うが、俺ほアリエーラが番を見る目も顔も好きだ。近くでアイツの幸せそうな顔を見ていたい」


「ふふっ、では先ずは二年間だね。二年の契約で君を雇おう。肩書きはそうだね、警備主任補佐ってところかな。二年で自分の場所を作らないとその先はないよ」


その先がない?


「……あー、カイル、様? 勿論アリエーラの承諾は」


「ある訳ないだろ?どうして番のいる獣人が自分を番だと言う男をそばに置く」


「セオルも?」


「セオルはアリエーラに許可を取ったろうね。あの二人は古い中だから」


セオルの腹には崩れた魔法陣がある。それはそういった仕事をしていた者が刻むもの。


「元男娼、ですか」


「彼は番に向けられない欲を解消してくれていたアリエーラを理解する者」


なんでここまで知ってんだ? 普通そんな事まで知ってるものか? いや無いだろう。孫って言っても立派に大人、そこまで何で世話をする?アリエーラはコイツの血筋じゃない。姫さんと獣人の夫の血筋だ。自分の孫じゃないのに何故そこまで。は


「……何で、あんたはそこまでする? アリエーラのためか?」


「君は変なことを聞くね。君は君だって番以外はどうでもいいでしょう」

「いや、あんたら人間には番は無いだろう」

「そうだね。そんなもので括ってはいけないね」


そんなもので、だと? 俺たち獣人にとって番は何よりも尊いものだ。人間や魔人はそれを感じることは無い。コイツは人間の癖にそんなものと言った。

身体中の毛穴が開くような怒りが込み上げる。顔には出さないようにしながら拳を握ると、目の前の男はクッと笑った。


「だってそうだろう?獣人はつがいを忘れるために別の者と交わる。私にはとても真似出来ないよ。愛しい妻と薄汚い雌豚は全く別の生き物だ。そんなものと交わるくらいなら自分の物を削ぎ落として魔獣に食ませる方が万倍マシだろ?」



あ、コイツもヤバい奴だ。


俺の体から一気に血の気が引いてゆく。

怒り? ないない、近寄っちゃならない奴ってのは世の中にはいる。目の前のこの男がその一人だ。

忘れていたが姫さんの周りはヤバい奴だらけだ。多分、姫さんが一番マシだな。


こいつの行動の根幹は姫さんって事だ。アリエーラはその添え物、多分俺達が上手くやれば排除されることは無いだろう。


「セオルとも上手くやってくれると助かるよ」

「それはアリエーラの男としてか、薬師としてか」

「両方、彼は本当に腕が良いんだよ。彼には長く働いてもらいたいね」


現状、この男の中では俺よりセオルが上って事か。



「そうそう、番のすり替えはある程度は予測がつくけど、どこまでできるか分からないからね? 暫くはある程度許すけど、ジンを刺激し過ぎないように」


「? 分かりました」


差し出された契約書に目を通しその場で署名を入れた。ちょうどその時アリエーラがやって来て姫さんのカードゲームに入れと言う。



「ああ、アリエーラ。グレンとはとりあえず二年間の雇用契約を結んだ。立場としては護衛主任リストの下かな。いいね?」


「……分かりました」


少し考えアリエーラはそう返事をした。この意味がわかっての返事なんだろう。


俺は拒絶されなかった事に舞い上がって尻尾は耐えようとも堪えきれず勢いよく揺れ、アリエーラはそれを見てもなんの反応も無く姫さんの部屋を目ざした。



「アリエーラ、その、ありがとう」


「私はグレンを愛することは無い。それだけは心得ておいてくれ」



わかってるさ、それでいい。


鬱陶しいくらいに尻尾を振り回しながらアリエーラの後ろを歩いた。















「あ、またグレンさんの勝ち」


しょんぼりとする姫さんを見て、良心が痛む。


姫さんの部屋でカードを広げていると、次から次へ夫達が集まって来た。当然入り切るわけはなく遊戯室へ移動。姫さん、アリエーラ、俺にリミオ、セオルとでテーブルを囲み夫たち五人はチェスをしたり本を読んだ茶を飲んだりと自由に過ごす。っても多分こちらを伺ってるか。




無言でルーイが姫さんの前に置かれた皿から一枚クッキーを俺の皿に移す。俺の皿には1枚増え十枚のクッキー。


姫さんが始めたカードゲームはババ抜きだ。持ち点は一人五枚、一抜けすると最下位から一枚貰う。十ゲームして最下位が苦いセオル茶を飲む。


最初は順調だった。特に勝敗を気にせずにいたが、進むにつれ気がついた。

そう、姫さんは賭け事が弱い。

俺達新参者三人はそれを知らなかった。いや、リミオは知ってたろうが姫さんを勝たせる事が難しかった。

カードなら傷や折り目を覚えて、とも思うが新品の綺麗なカードだった。なら姫さんの瞳に映るカードを読んでとも思ったが、顔に出ることを知っているとかで1度カードを取ると、引かせる前にカードを切って見ないように横をむく。


そしてついに姫さんの皿からクッキーが消えた。

背中に嫌な汗をかきながらアリエーラとルーイからの圧に耐える。


「じゃあセオルくん、お茶を下さい」


「いや、もう一回行っときませんか? もう一回」

「もうひと勝負、ですか?」

「そう、そうです。もう少しゲームをしたいと」

「ならここで1回仕切り直しでもうひと勝負でいい?」


いやいや、あんたに飲ませたくないんだよ。分かってくれないかな? 今もアリエーラの無表情が怖い。


「凛子様、飲みやすい様に少し温かくしておきましたよ」

「ありがとう」


当たり前の様に受け取るのはルーイ。どっから出したのかスプーンでかき混ぜそれを舐める。

ん? っと止まったルーイはそれを姫さんに渡して自分にもとセオルからもうひとつ受け取る。

そうか、万が一に備えて対して不味くないんだろう。


「お、お抹茶!?

美味しい! おかわりください!」


勢いよく煽った姫さんは美味そうに二杯目を飲む。ルーイは舐めるように飲みセオルにレシピを聞いていた。

アリエーラも一口飲み、ふっと笑い俺に勧める。


どうやら美味しいらしいセオル茶をアリエーラから受け取りグッと小さなグラスを煽った。


「!!~~~っぐぅ、マ、ズイっ!!」


苦い、いや、渋い!!

恐ろしく渋いセオル茶に、吐き出さないのが精一杯だった。何度もブルリと身震いし、目の前のクッキーを頬張る。

そんな俺を見てアリエーラは笑顔のままセオル茶を飲んだ。


「私は美味しいけど獣人のみんなには苦いんじゃない?」

「私は好きですよ凛子様」

「ほんと?共感してくれる人がいて嬉しい」


その言葉にワラワラと夫たちが群がりセオル茶を飲んでゆく。結局姫さんと共感できるのはアリエーラとカイルだけだったが、姫さんは嬉しそうに笑い、アリエーラはうっとりと目を細めていた。


「そうだリン、リミオはウィルの下に、グレンはリストの下で暫く雇うことになったよ」



セオルは商会の薬師として、と言っても姫さん専用らしいが。リミオはウィリアムの所属する第一部隊の特殊捜査担当らしい。第一部隊は王直轄のエリート部隊らしいが王に仕えるんじゃなくリミオのストーカースキルを気に入ったウィリアムの下に暫くつくらしい。


それを聞いた姫さんは楽しくなるのねと喜んだ。


「本当に? グレンさん、リミオくん、あとセオルくんもどうぞこれからよろしくお願いいたします」


ぺこりと頭を下げる姫さんに俺達は驚いたが、誰も姫さんを止めなかった。




そして一番クッキーを集めた俺は勝者の権利として姫さんにアリエーラの好きなものを聞いた。これが一番早くて正確だ。

気気出したら姫さんは止まらず、いつの間にかアリエーラ自慢になった。

だんだんアリエーラの顔が赤くなり、そのうちに「もうやめて下さい」と懇願していた。



なるほど。姫さんはこう使うのか。


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