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旅の終わりと、新しい日常の始まり(アリエーラ)
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──頭が痛いの。
漏れ聞こえた声は少し鼻にかかり、震えている気がした。
慌てて中へ入れば、ぐったりとした凛子様を抱えるカイルの姿。
他にもいくつか症状がみれ、眠った事で症状が進んだのだと思った。
いや、昼間からその兆候はあったのだろう。明るく楽しげではあったが、食事量は少なかった。なかなか寝付けなかったのもだ。
誰よりも長く共に居たのに気がつけなかった。それどころか馬鹿みたいに興奮し、セオルやグレンの手を借りた。
すぐにセオルが緊急薬を飲ませるが、多少改善してもすぐに戻ってしまう。そして続く頭痛からしくしくと涙を流し始めた。
そして朝日が登り始める頃、幻獣人の騎士を全て残し、足場の悪い場所ばかりでは無いが安全のため足腰の強いウィリアムが凛子様を抱え下山した。
麓に着けば症状はスっと収まってゆき顔色は良くなった。それを確認するとカイルは私たちにこれから帰る事を告げ、凛子様の戸惑う声を遮り早々に転移でレーンへと戻った。
有無を言わさぬ旅の終わり、凛子様は小さな声でごめんなさいと言った。
交代で荷を解きお傍へ戻ると、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
今回、度に出られる事をとても楽しみにしていた。出発の前日は何をしていても口元が緩んでいたほどで、なかなか寝付けずに翌朝は眠ったまま連れ出された。
きっととても残念に思っているに違いない。最終目的地の霊山ジャロングは幻獣人にとって聖地。アレクシスが代替わりする時に籠る神殿があるらしく、今回同行した騎士の殆どはそれ見たさに着いてきていると言っていい。凛子様はそのジャロングの山頂付近で見られる氷の結晶花を見るのを楽しみにしていた。
アレクシスと同行した騎士らはまだ暫くは帰ってこない。騎士たちにとって目的地がジャロングだったのは1生に1度、有るかないかの大変な事だった。アレクシスは彼らに旅の褒美としてジャロングの頂上にある王のための場所を見せてやるのだと言っていた。
「何だか、時間が空いちゃったね」
もし獣人なら耳も尻尾も項垂れているだろうと言うほどにしょんぼりと肩を落とす。
「……では、お庭を散策されますか?」
「ううん。今はいいわ」
「ならば、新参者たちを集めて親睦会はどうでしょうか。カードゲームなどをして負けたら罰ゲームを」
「新参者って、セオルくんとかグレンさん達?でもグレンさんとリミオくんはもう契約が切れるのでしょ?」
「そうだとしても、いつもと違う者たちと遊ぶのは楽しそうです」
本来ならここに帰った時点で契約満了。ジンやカイルなら期間が短くとも満額払うだろうが、グレンは多分残される。
「じゃあ罰ゲームはうんと苦い健康茶ね」
「では直ぐに準備してきます」
私はルーイに後を任せ直ぐにグレン達の元へ向かった。リミオは部屋の外で待機していたためすぐに捕まり、セオルは与えられた部屋にいた。グレンだけが見当たらず、探してみればカイルの部屋にいた。
「ああ、アリエーラ。グレンとはとりあえず二年間の雇用契約を結んだ。立場としては護衛主任リストの下かな。いいね?」
──いいね?
それはどういった意味で? セオルと同じだと言うことか? とりあえず二年間か。つまりは気に入らなければ切っていいと言うことか。
気に入るも気に入らないもない。私はあの方以外は対して執着しない。番がいる私はどうやったってグレンの番にはなれないのに、この男も酷いことをする。
「……分かりました」
グレンの尻尾はちぎれんばかりに振られ、喜びを隠しきれない口元をピクピクとさせながらそれを耐えていた。
私は二人に経緯を話、グレンを凛子様の元へ連れてゆく。
「アリエーラ、その、ありがとう」
「私はグレンを愛することは無い。それだけは心得ておいてくれ」
「ああ、それでもだ。ありがとう」
「……護衛主任のリストはカイル様とジンの下だがその下につけばほぼ雑用だ。ギルドと方はいいのか」
「いや、様子を見て月に何度かは許しを貰っている」
「そうか」
グレンはまだ話し足りなさそうではあったが私は急ぎ凛子様のお部屋へもどる。
部屋では既に給仕台には罰ゲーム用のセオルの薬茶が用意され、大きな瓶に詰められたたくさんのクッキー。罰ゲーム後の口直しだろう。そして当然凛子様の手作りだ。これは気合いを入れて負けないと。
「おかえりなさい。アリエーラ」
「ただいま戻りました」
沈んでいた表情は楽しげに輝いている。
楽しみにしていた旅行は潰れてしまったが、むしろ危険な山登りが無くなったのだから私としては申し訳ない事に喜ばしい。
凛子様以外の者は皆こうなるとわかっていたのだろう。だからこそ初心者には難しいジャロングを目指した。
「じゃあ勝ったらどうしよう?」
「それなら何か一つお願いを聞くのはどうでしょうか」
グレンの言葉に私はグレンを睨みつける。
「勿論、可能な範囲の小さなもので。えぇと、質問にひとつ答えるだとかお茶を入れる、とかです」
そう、私だけじゃない。後ろで控えるルートもまた、グレンの提案に鋭い眼差しを向ける。
「無理なことは聞いたりさせたりは駄目ですよ?」
そう言って凛子様はいそいそとカード切り始めた。
漏れ聞こえた声は少し鼻にかかり、震えている気がした。
慌てて中へ入れば、ぐったりとした凛子様を抱えるカイルの姿。
他にもいくつか症状がみれ、眠った事で症状が進んだのだと思った。
いや、昼間からその兆候はあったのだろう。明るく楽しげではあったが、食事量は少なかった。なかなか寝付けなかったのもだ。
誰よりも長く共に居たのに気がつけなかった。それどころか馬鹿みたいに興奮し、セオルやグレンの手を借りた。
すぐにセオルが緊急薬を飲ませるが、多少改善してもすぐに戻ってしまう。そして続く頭痛からしくしくと涙を流し始めた。
そして朝日が登り始める頃、幻獣人の騎士を全て残し、足場の悪い場所ばかりでは無いが安全のため足腰の強いウィリアムが凛子様を抱え下山した。
麓に着けば症状はスっと収まってゆき顔色は良くなった。それを確認するとカイルは私たちにこれから帰る事を告げ、凛子様の戸惑う声を遮り早々に転移でレーンへと戻った。
有無を言わさぬ旅の終わり、凛子様は小さな声でごめんなさいと言った。
交代で荷を解きお傍へ戻ると、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
今回、度に出られる事をとても楽しみにしていた。出発の前日は何をしていても口元が緩んでいたほどで、なかなか寝付けずに翌朝は眠ったまま連れ出された。
きっととても残念に思っているに違いない。最終目的地の霊山ジャロングは幻獣人にとって聖地。アレクシスが代替わりする時に籠る神殿があるらしく、今回同行した騎士の殆どはそれ見たさに着いてきていると言っていい。凛子様はそのジャロングの山頂付近で見られる氷の結晶花を見るのを楽しみにしていた。
アレクシスと同行した騎士らはまだ暫くは帰ってこない。騎士たちにとって目的地がジャロングだったのは1生に1度、有るかないかの大変な事だった。アレクシスは彼らに旅の褒美としてジャロングの頂上にある王のための場所を見せてやるのだと言っていた。
「何だか、時間が空いちゃったね」
もし獣人なら耳も尻尾も項垂れているだろうと言うほどにしょんぼりと肩を落とす。
「……では、お庭を散策されますか?」
「ううん。今はいいわ」
「ならば、新参者たちを集めて親睦会はどうでしょうか。カードゲームなどをして負けたら罰ゲームを」
「新参者って、セオルくんとかグレンさん達?でもグレンさんとリミオくんはもう契約が切れるのでしょ?」
「そうだとしても、いつもと違う者たちと遊ぶのは楽しそうです」
本来ならここに帰った時点で契約満了。ジンやカイルなら期間が短くとも満額払うだろうが、グレンは多分残される。
「じゃあ罰ゲームはうんと苦い健康茶ね」
「では直ぐに準備してきます」
私はルーイに後を任せ直ぐにグレン達の元へ向かった。リミオは部屋の外で待機していたためすぐに捕まり、セオルは与えられた部屋にいた。グレンだけが見当たらず、探してみればカイルの部屋にいた。
「ああ、アリエーラ。グレンとはとりあえず二年間の雇用契約を結んだ。立場としては護衛主任リストの下かな。いいね?」
──いいね?
それはどういった意味で? セオルと同じだと言うことか? とりあえず二年間か。つまりは気に入らなければ切っていいと言うことか。
気に入るも気に入らないもない。私はあの方以外は対して執着しない。番がいる私はどうやったってグレンの番にはなれないのに、この男も酷いことをする。
「……分かりました」
グレンの尻尾はちぎれんばかりに振られ、喜びを隠しきれない口元をピクピクとさせながらそれを耐えていた。
私は二人に経緯を話、グレンを凛子様の元へ連れてゆく。
「アリエーラ、その、ありがとう」
「私はグレンを愛することは無い。それだけは心得ておいてくれ」
「ああ、それでもだ。ありがとう」
「……護衛主任のリストはカイル様とジンの下だがその下につけばほぼ雑用だ。ギルドと方はいいのか」
「いや、様子を見て月に何度かは許しを貰っている」
「そうか」
グレンはまだ話し足りなさそうではあったが私は急ぎ凛子様のお部屋へもどる。
部屋では既に給仕台には罰ゲーム用のセオルの薬茶が用意され、大きな瓶に詰められたたくさんのクッキー。罰ゲーム後の口直しだろう。そして当然凛子様の手作りだ。これは気合いを入れて負けないと。
「おかえりなさい。アリエーラ」
「ただいま戻りました」
沈んでいた表情は楽しげに輝いている。
楽しみにしていた旅行は潰れてしまったが、むしろ危険な山登りが無くなったのだから私としては申し訳ない事に喜ばしい。
凛子様以外の者は皆こうなるとわかっていたのだろう。だからこそ初心者には難しいジャロングを目指した。
「じゃあ勝ったらどうしよう?」
「それなら何か一つお願いを聞くのはどうでしょうか」
グレンの言葉に私はグレンを睨みつける。
「勿論、可能な範囲の小さなもので。えぇと、質問にひとつ答えるだとかお茶を入れる、とかです」
そう、私だけじゃない。後ろで控えるルートもまた、グレンの提案に鋭い眼差しを向ける。
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