〖完結〗「お前は俺の最高の番(つがい)だ」「番(つがい)?私の番は別にいる」

ゆか

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白銀の騎士様は他人には安定のツン

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いつもの様に騎士服を纏い、キッチリと後ろ髪は結われている。スラリと伸ばされた背中、ベルベットの耳と尾はツヤツヤと健康的で美しい。


うむ。俺の番は今日も完璧だ。




「グレン、準備は出来ているか」

「ああ。バッチリだ」


アリエーラは小さく頷いてから別の護衛騎士に声をかける。


今日はサルターンの花祭り。今年は建国1850年とキリのいい年で祭りは3日間に渡る。姫さんの娘はサルターンの第二王子とアレクシス王の従兄弟、セレスティオを夫に持つ。それぞれの国に屋敷を構えてはいるが今は花祭り初日の舞踏会に備えサルターンの王城に滞在している。

で、姫さんも招待されて参加するってとこなんだが、サルターンは魔人族の国。人口の6割近くは魔人だ。

魔人と言えば幻獣人への差別的な見方がセットになる。幻獣人の夫を三人も持ち、幻獣人の王まで番に持つ姫さんは結構危険な立場になる。以前姫さんは拐かされた事があるが犯人はそういった魔人至上主義者だった。

いつも明るい姫さんも、今日ばかりは大人しい。

いつもなら散歩だとてくてく歩いてる時間だが、ルーイとカイルと部屋に閉じこもってる。

アリエーラが言うにはまだあの時の心の傷は癒えていないらしい。


てな訳で、俺も今日は少し小綺麗な格好をしてる。姫さんの護衛って言う体だが、妊婦の番に付き添う。

アリエーラの体調は姫さんの護衛を続けられると聞くと落ち着きを取り戻した。



閉じこもってた姫さんは出発の時間にはしっかりとドレスを着てカイルと出て来た。正式な招待には筆頭が必ず同伴する。こりゃ常識だが、今回はカイルの他にジン、ついでにジンと姫さんの子クリムも参加しアリエーラ、俺、セオルが護衛としてくっついて行く。アリエーラの妊娠をきっかけに、カイルは俺たちを姫さんに付くように配置した。俺は護衛、セオルは保健師、と言うか話し相手として。

自然とアリエーラとの過ごす時間も共通の話題も増えたが、素直に喜べない自分がいるのは、カイルに対して胡散臭さを感じているからだろう。


何はともあれこれでまたアリエーラとの話題が増える。

まあ、今日の護衛はアリエーラが心配で俺たちは無理やり捩じ込んで貰ったんだがな。


極薄い紫と青色の二色が裾に行くにつれ濃くなり、被さるふわふわのレースが柔らかく見せる。桃色にも紫にも見え、花をそのままドレスにしたようだった。

俺の番はアリエーラだが、姫さんが人気がある理由が分かる。姫さんはちゃんと着飾ればすげぇエロくて可愛い。平坦だと思ってた顔は化粧映えするし、小柄なくせにポロリしそうなほどデカい胸、肌の色もなんて言うか白とは違う象牙色って言うのか、見た目にも滑らかそうな肌。

その女の周りにゃ幻獣人だらけ。そりゃ、面白くないだろ。高魔力保持者でこんなエロ可愛い女を魔人の天敵、幻獣人が独占してんだ。自尊心の高い魔人からすりゃ夫に魔人がいないのはムカッとするんだろう。


カツカツ靴音を立てながら近づくアリエーラの姿にホッと息をついた。


「アリエーラ」


「凛子様、とてもお美しいです」


「ありがとう。アリエーラもとても素敵よ」



トロンと瞳を潤ませる姿は、女といえ華がある。凄いのはあんな顔して尻尾がほとんど揺れない所だ。

澄ました顔しても俺にはアリエーラの熱が分かる、だがそれも瞬き一回でいつものアリエーラに戻っちまうのも。



五年前、絶対に捕まえてやると意気込んでた俺は、あの頃とは違って観賞する事に楽しさを見出した。

姫さんが居るだけでアリエーラは生き生きとした目をする。表情は分かりずらいが都度揺れるのを俺は知ってる。まあ、それは俺だけじゃないけどな。

俺と同じ、離れてアリエーラと姫さんを見てるセオルには、まだ番を共有するとに抵抗はあると同時に結構罪悪感がある。

アイツは男娼時代の避妊紋のせいで子が残せない。それなのに甲斐甲斐しくアリエーラの世話を焼き体調管理に勤しむ。アリエーラは世話を妬かれるのを嫌うが、知っているからか何も言わない。

平気な顔して尽くすセオルの心は俺には分からないが、俺なら、きっと惨めさに泣くだろうな。俺には腹の子が俺の子だって救いがあるがアイツにはそれが無いんだから。






王城の舞踏会では部屋に閉じこもってた姫さんだとは思えないくらい堂々としていた。まあ、カイルとジンが盾になっているから安心してんだとは思うが。俺とアリエーラ、セオルは少し離れて付き、周囲へ警戒をした。


姫さんの娘のアステリアってのはこれまた例に漏れず変人だ。普段ドレスは着ないで男のような服ばかりを着る。黒髪黒目は確かに姫さんそっくりだが、顔自体はカイルに瓜二つだ。巷じゃブラックダイアだとか言われてるが、初めて見た時は黒髪のカイルにゾワッと寒気がした。

そして今日の装いも男装だ。そのブレない所は流石と思う。

そんな男装の娘に誘われて、姫さんは楽しそうにダンスを踊る。カイルとジンは先に一度踊っているからか、すんなりと許可を出す。その後は続けてクリムと踊り、アリエーラはそんな姫さんを切なそうに見てた。







「白銀の騎士様ではありませんか」


人間の貴族の女だろうか、夫なのか、男を三人連れた黄色いドレスの女がアリエーラに声をかけてきた。

人間の女、特に貴族の女が自分から知り合いでもない他人に声をかけることはしない。周りの男は何も言わはいって事は知り合いか?

アリエーラは女を一瞥してから連れている男を見た。


「ラッカ子爵家のアーニャでございます。こちらは私の夫たち」


「ご要件は」


ラッカラッカラッカラッカ……ああ。財政は危ういが娘の魔力がそこそこ高く身売りのように金持ちの夫を迎えたって少し前に噂になってたか。見た目はいいが借金だらけでまともな縁談が来なかったとか、確かに連れてる男は皆んなちょっと脂肪が着いた残念な男たちだ。


『大丈夫かな。貴族相手じゃ無下にしにくい』

『出来ないとは言わないんだな』

『するのが分かってるからね。見てアリエーラの目、凄く迷惑そう』

『目的は姫さんか、その夫か』




「騎士様の事はよく存じております。お可哀想に、王妃様付きでしたのに……わたくしの夫は高位貴族に伝がありますの。王妃様に取りなすことが出来るかと」


女はアリエーラの冷たい視線を気にすることも無くそっとアリエーラの手を取り甲を撫でた。


「騎士様のお力になりたくて」



『アリエーラ、一発ぶん殴るか』

『いい』


アリエーラに近づく奴は多い。特に人間は、当たり前の様に利用しようとする。


「結構だ」


パンっ、とアリエーラがその手を払うと女は驚き目を丸くした。



「グレン、汚れた」

「ああ、捨てとくよ」


てか、燃やしとく。二度と使わないだろうからな。


するりと手袋を外し、俺は手を出してそれを受け取る。でもって汚ねえ汚物を間接的にでも触った俺は処理が終わるまでアリエーラに触れない。


クソ、ラッカ子爵令嬢、覚えたからな。


アリエーラは女を無視して踊り終えた姫さんの元へ向かった。


「なっ、何よ! たかが獣人の癖にっ」


おうおう、すごい顔だな? 人からこんな風に拒否されたことも無かったのか?


俺とセオルは女達と姫さん達の間に立ち壁になる。







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