〖完結〗「お前は俺の最高の番(つがい)だ」「番(つがい)?私の番は別にいる」

ゆか

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湧き上がる温かい気持ち(アリエーラ)

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「私とも踊って頂けますでしょうか」


「ええ、勿論よ」


私が手を差し出すと迷うこと無く手を取ってくれた。絹の手袋越しの体温がじんわりと私の手を温め、あの女のせいで荒れていた心に染みてくる。

カイルやジンは何も言わず、私は許しが出たと取った。


凛子様の手を取り中央へ。

女同士で踊る事に特に抵抗はない。元々は凛子様の練習用に覚えたものだが、凛子様の子、アステリアも男装で参加し手を取るのだから私が男性の役をこなせば凛子様と踊れるのだと気がついた。

そしてホールからは様々なものが見える。


カイル、ジンは張り付いた笑顔でこちらを見ている。恐らくグレンかセオルから念話で報告を聞いているのだろう。クリムの姿は無く、警戒しながら情報収集と言ったところか。


あの女は夫二人に挟まれ何かを話している。一人、足りない。

いくら耳が良くても雑音が多すぎて聞き取れない。せめて口元を隠す扇が無ければ読めるが。


「アリエーラ、手袋どうしたの?」

「汚してしまって」

「外すってことは相当汚れたのね。浄化でもダメだった?」

「はい。執拗い汚れでしたので」

「じゃあ今度新しいのを作るわね」

「私に、ですか」

「沢山持ってる? 要らなかった?」

「いえ、予備はありますが頂けたら嬉しいです」

「手袋はあまり縫わないから少し時間掛かるかもしれないけど、じゃあ今度サイズを測らせてね」

「ありがとうございます」


凛子様手縫いの手袋。嬉しい、嬉し過ぎる。

こうして触れていても以前のように劣情が湧き上がることは無い。これはきっとグレン達が定期的に私の高まりを解消してくれているからだろう。その肉欲がなくなった分なのか、凛子様に対して今までよりもずっと柔らかな温かい気持ちが湧き上がるようになった。

今はただ純粋に求める気持ちと共に在れる喜びを感じている。とても不思議な感じだ。

そして彼らに対して気持ちを返せないことへ申し訳なくも思う。


「明日市へ行くの楽しみだわ。サルターンの辛いお料理とは違うものが出るの」

「お好きな腸詰め肉があるといいですね」

「揚げ菓子もあるかしら? 昨年みたいに曲芸師が来るといいんだけど」

「ええ、きっと来ますよ」

「明日が楽しみ」

「はい」


この方は派手な場所は好きじゃない。この舞踏会もサルターン王家からの招待でなければ来ることは無かった。

だが、その招待のおかげで着飾った美しい姿を見る事が出来た。


私とのダンスを終える頃には凛子様の脚は限界だった様で少しだけ引きずるようだった。


「申し訳ありません、連続で踊られたのに私まで我儘を言って」

「大丈夫、日ごろの運動不足が祟っただけたがら。それにアリエーラのわがままは可愛いから好きよ」

「え」

「ハグして欲しいとか、私のご飯が食べたいとか、アリエーラのわがままはいつも可愛くって好き。でも、そうね。私もわがまま返ししようかな?」

「わがまま返し、ですか?」

「暫くお屋敷に引きこもりたいんだけど、いい?」

「はい、勿論です」


とは言ったものの、何時もの生活と何が違うのか?


「リン、そろそろ帰ろうか」

「早くない?失礼にならないかしら」


凛子様をカイルの元へ送ると、ジンがサッと抱き寄せるようにさらってゆく。


「アステリアにも話はしてあるからね。あとは上手くやってくれるよ」

「そう? なら良かった」


カイルに視線で合図され、私たちは従う。

会場を抜けようとする私達を先程の女が見ていた。じっと前を歩く凛子様方のを見つめ、私と目が合うとにっこりと笑顔を向ける。その目に何とも言いようのない気持ちの悪さを感じた。





翌朝、昨夜の疲れはどこに行ったのか、何時も寝起きのあまり良くない凛子様はいつもより早く目が覚めた。

私がお側に上がった時には既に起きていて鼻歌でも出そうな程にご機嫌がいい。

朝食を取り髪と瞳の色を変えて、町娘の様な簡素なドレスに着替える。

年に一度の花祭り、凛子様はこの日を毎年心待ちにしている。あまり屋敷から出ることの無い凛子様は元々種族的に祭りが好きなんだと言う。


「ジン、そろそろ行ける?」

「ああ、行こうか」


ジンも随分前から今日の祭りを楽しみにしていた。何せ凛子様が自分から行きたいと強請ることが殆ど無いから。


期待に目を輝かせる凛子様を、凛子様と同じ焦げ茶色に色を変えたジンが 抱き寄せ口付けをする。


私も、以前はそれが欲しかった。もちろん今でも羨ましいし欲しいと思うけれど……



念の為にとジンが凛子様へ特殊な結界を施す。薄く伸ばされた魔力の膜は体全体を覆い張り付きその肌に馴染んでゆく。

万が一物理的な攻撃を加えられても、衝撃はあるが最低限守られる。結界術の応用であるが結界とは違う。

ついでだと、私にも特殊結界を施してくれた。

私に危険はないだろうが、その心遣いを少しだけ嬉しく思った。



普段お出かけに同行する者は決まってルーイだが、今日はルーイだけではなくグレンとセオルも伴う。グレンは護衛の一人として、セオルは食べ歩きを目的とする凛子様の万が一の薬として。







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