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雨の降る夜、君を呼ぶ声
しおりを挟む大雨に打たれながら、懸命に目を開け家に向かって走っていた。靴にまとわりついた多量の水分が運ぶ足を重たく感じさせた。公園からマイの家はそれほど離れてはいないけれど、僕の家からはえらい遠いところにあるので、ほぼ全身濡れてしまった。
梅雨明けの天気は変わりやすいというけれど、それにしてもこんなタイミングで降らなくてもいいのに、と走りながら思った。マイとの会話を遮るように降り出した雨は弱まる気配がなかったので、傘なんて持ってなかった僕とマイはそれぞれ自宅に退散するしかなかった。あの直前にマイが僕に尋ねたあの質問はいったいどういう意味だったのだろう。また来週会った時に聞いてみよう。できればだけど。
――ガチャ
「ただいま!お母さんバスタオル持って来て!」
家に飛び込むなりすぐにでも風呂場に駆け込みたかったが、以前それをして母親から大目玉を食らったので今回はグッとこらえた。
「雨すごかったね~。あ、もう俊平!びしょ濡れじゃないの!また洗濯機まわさないといけないじゃない!もう!」
結局怒られる運命だったのか。母親とはなんと理不尽なのだろうか。
「だって、今日天気予報でもなんも言ってなかったべ」
「そうね、分かったから早くお風呂入りなさい」
「・・・行ぐっす」
即時撤退を決め、すごすごと風呂場に立ち去ることにした。温かいシャワーでも浴びないと風邪をひいてしまうかもしれない。
「あっ!ちゃんと拭いた?廊下にしずくが垂れてるよ!」
背後から鋭い指摘が飛んできた。僕の靴に丸めた新聞紙を突っ込みながらも監視の目はきっちり行き届いているようだ。「わりわり」と軽く謝罪し、逃げようと小走りになる。
「俊平!」
「今度はなんだべ・・・」
うんざりとしつつ振り返って反応を伺った。まだ何かそそうがあったのか。
「俊平が朝出た後すぐ、小雪ちゃんから電話があったよ」
「小雪?」
「俊平はいないよって伝えたら悲しそうに電話切ってたよ。後でかけてあげなよ」
意外な名前に少し驚いた。昔はしょっちゅう電話のやり取りをしていたが、最近はめっきりそんなこともなかった。一体何の電話だったんだろう。ユキの意図を想像しながら熱いシャワーを浴びる。芯まで冷え切った体に染み渡るシャワーの温度で生き返る思いがした。
すっかり体も温まり、ほっと安心すると急に眠気に襲われた。ただでさえ公園から家までの距離を走っただけでなく、雨の中をずぶぬれになったんだから仕方ないよね。そう自分に言い聞かせて、ベッドに飛び込む。ふかふかの布団の感触に睡魔が同調して、もう寝ること以外の選択肢は僕に残されていなかった。
「あ・・・ユキに・・・電話・・・」
眠りの世界に落ちる直前、先ほどの母親との会話を思い出した。いったい、ユキは何の用事で僕に電話してきたのだろうか。それにしても僕が出かけた直後にかけてくるなんて、昔からのタイミングの悪さは健在だな。変わらないユキのどんくささに頬が少し緩んでしまう。ユキのことを考え始めた頃、意識がゆるやかに遠のいていくのを感じた。
――あの時だって・・・
夢現の中で思い浮かんでいたのは、潟分校でも昔の思い出だった。ユキの呼ぶ声が聞こえる。待ってくれ、今助けてやるから・・・
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