魔王降臨!勇者を討伐に行ってきます!

韋駄天

文字の大きさ
33 / 44

魔王の俊剣

しおりを挟む
クレイが圧倒的な殺気で百足を弄んでいた頃。
魔王は森林中を徘徊し獲物を探し回っていた。

「何でこんなに魔物がいないんだよ!ここもう何百回も見たと思うんだが!ていうかこの岩既視感満載じゃねぇか!なのに魔物のまの字すら出てくる気配ないってどうよ!?」

そう。
ウオマは現在絶賛不作の狩りの最中だった。
絶叫しても状況が進展する訳でもないのにとにかく悲鳴を上げたいだけの魔王を見る者はいない。
何せ、この森の魔物は全て食べ尽くされているからである。

この一帯の主は大百足という魔物である。
野生の魔物達がどうなったのかというと、実はウオマが元凶だったりする。
魔王は元々、霊魂魔法以外が使えないという体質ではあるが、魔力量は魔族、いや、全生物の中でも随一である。
張り合えるのはせいぜい魔神ぐらいであろう。
そんな魔力の超常的に莫大な塊のような物を魔王は普段抑えて隠しているが、魔物は魔力の本質を見極める。
敵の魔力を見通しても、その中では知能が低い、もしくはただ単に勝てると自負している魔物が大半なのだが、件の百足はこれらの中でも特に知能が高い部類であった。
それ故に、魔王の常軌を逸する魔力を感知すると、狂乱した。
あり得ない程の強者がこちらへ向かってきている。
それだけで大百足を森中の魔物を喰らい尽くす程狂わせるには十分だった。
そして、怪物の驀進は止まらず、遂に魔力の権化とも言える謎の相手よりも遥かに弱そうな人族のクレイの元へ向かったのである。
魔物の本能としては正しい判断だが、自分より格上の生物相手に襲いかかるだけでは足りない事を考えるべきだった、と百足を諭そうとしても意味はないだろうが。
そんな魔王にとって知らない所で森林の王者と自分の部下が戦闘中というのは、知る由も無い事である。

一方、ウオマの対戦相手のアランはというと、

ーーー迷子になっていた。自覚ありで。

魔王ウオマさんはほぼ無自覚で森の中を彷徨っているが、アランは見るからに迷子になっていた。
勿論、その事実を客観的に認識してしまった所為で更に不安になりながら。

「やっべぇどうしましょ」

迷った。
確かにそういう状況ではあるが、それに加えてアランの移動は俊剣ヴィテェスの能力をフル活用した方法だった。
故に、目で追えないような速度で兎に角森を縦横無尽に動きまくった。
結果、方向感覚が狂い、その上開始地点からどのぐらい離れたかすら分からない。
この森林はこの街の北部、即ち大陸中央部、その少し東寄りの一帯を覆い尽くす大森林なのである。
こんな所で後先考えずに走り回ったら、そりゃあ迷子にもなる。
しかし、そんな事も気付かないのが魔王の加護!
更に!
魔物の気配が一切ないのです!
なんということでしょう!
周囲を探っても、生命反応が小生物以外に自分しかない!
一大事!

「いやホントにやっべぇどうしましょ」

しかしアランの動揺はそのまま!

「ん~この剣でとりま片っ端から進むか?旅に出る時の為の方角わかるコツみたいなの前に教わった気がするが・・・・・・覚えてねぇ。詰んだ」

そう。
元聖騎士団長アランさん!
講習は大の嫌いだったのである!
基本的に脳筋!
自分でもそう自負していた通り、頭を使うのはそんなに好きじゃなかった!
副団長が常に胃が痛い等と愚痴ってたが、もしかしたら責任押し付けすぎたかもしれない。

「と、そんな事してる場合じゃねぇ!元の場所へ戻らねぇと!しかしどうするか・・・・・・」

ーーー数分後。

「・・・・・・」

ーーーまた更に数分後。

「・・・・・・」

ーーーいい加減動け!と全人類が思ってもおかしくない数分後。

「・・・・・・」

アランは未だに沈黙していた。
勿論、思考はまだ続いている・・・・・・筈。

そんな森羅万象が呆れ死ぬ頃。
突如アランのいる空間にアランの物ではない声が響いた。

「汝。何時までこの茶番を続行するつもりだ」
「ほべ!?」

思わず奇怪な返答をしてしまったアランが混乱する。

「ど、どこどこのだれだれ様でしょうか?」
「・・・・・・ハァ」

アランがみっともない質問をすると、声があからさまな溜息をつく。

「汝の手中なのに認識すらされないとは・・・・・・汝が哀れだ」
「なんか意味すら分からん初対面すらしたことない人に哀れまれた!しかも俺の手中って・・・・・・俺は別に誰も支配なんざしてねぇんだが」

アランが「俺明らかに『私は貴方に支配されている』的な事をぬかす姿も見つからない異常者とは無関係な一般人ですよね?」な感じの視線を虚空へと向ける。
そんな心情のアランに、思わぬ答えが出た。

「物理的に汝の手中であろうが!全く、最近の人間は情けない・・・・・・」

と、アランの手の中、そこに握られている魔剣から声が発せられたのであった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...