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魔王の俊剣
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クレイが圧倒的な殺気で百足を弄んでいた頃。
魔王は森林中を徘徊し獲物を探し回っていた。
「何でこんなに魔物がいないんだよ!ここもう何百回も見たと思うんだが!ていうかこの岩既視感満載じゃねぇか!なのに魔物のまの字すら出てくる気配ないってどうよ!?」
そう。
ウオマは現在絶賛不作の狩りの最中だった。
絶叫しても状況が進展する訳でもないのにとにかく悲鳴を上げたいだけの魔王を見る者はいない。
何せ、この森の魔物は全て食べ尽くされているからである。
この一帯の主は大百足という魔物である。
野生の魔物達がどうなったのかというと、実はウオマが元凶だったりする。
魔王は元々、霊魂魔法以外が使えないという体質ではあるが、魔力量は魔族、いや、全生物の中でも随一である。
張り合えるのはせいぜい魔神ぐらいであろう。
そんな魔力の超常的に莫大な塊のような物を魔王は普段抑えて隠しているが、魔物は魔力の本質を見極める。
敵の魔力を見通しても、その中では知能が低い、もしくはただ単に勝てると自負している魔物が大半なのだが、件の百足はこれらの中でも特に知能が高い部類であった。
それ故に、魔王の常軌を逸する魔力を感知すると、狂乱した。
あり得ない程の強者がこちらへ向かってきている。
それだけで大百足を森中の魔物を喰らい尽くす程狂わせるには十分だった。
そして、怪物の驀進は止まらず、遂に魔力の権化とも言える謎の相手よりも遥かに弱そうな人族のクレイの元へ向かったのである。
魔物の本能としては正しい判断だが、自分より格上の生物相手に襲いかかるだけでは足りない事を考えるべきだった、と百足を諭そうとしても意味はないだろうが。
そんな魔王にとって知らない所で森林の王者と自分の部下が戦闘中というのは、知る由も無い事である。
一方、ウオマの対戦相手のアランはというと、
ーーー迷子になっていた。自覚ありで。
魔王ウオマさんはほぼ無自覚で森の中を彷徨っているが、アランは見るからに迷子になっていた。
勿論、その事実を客観的に認識してしまった所為で更に不安になりながら。
「やっべぇどうしましょ」
迷った。
確かにそういう状況ではあるが、それに加えてアランの移動は俊剣ヴィテェスの能力をフル活用した方法だった。
故に、目で追えないような速度で兎に角森を縦横無尽に動きまくった。
結果、方向感覚が狂い、その上開始地点からどのぐらい離れたかすら分からない。
この森林はこの街の北部、即ち大陸中央部、その少し東寄りの一帯を覆い尽くす大森林なのである。
こんな所で後先考えずに走り回ったら、そりゃあ迷子にもなる。
しかし、そんな事も気付かないのが魔王の加護!
更に!
魔物の気配が一切ないのです!
なんということでしょう!
周囲を探っても、生命反応が小生物以外に自分しかない!
一大事!
「いやホントにやっべぇどうしましょ」
しかしアランの動揺はそのまま!
「ん~この剣でとりま片っ端から進むか?旅に出る時の為の方角わかるコツみたいなの前に教わった気がするが・・・・・・覚えてねぇ。詰んだ」
そう。
元聖騎士団長アランさん!
講習は大の嫌いだったのである!
基本的に脳筋!
自分でもそう自負していた通り、頭を使うのはそんなに好きじゃなかった!
副団長が常に胃が痛い等と愚痴ってたが、もしかしたら責任押し付けすぎたかもしれない。
「と、そんな事してる場合じゃねぇ!元の場所へ戻らねぇと!しかしどうするか・・・・・・」
ーーー数分後。
「・・・・・・」
ーーーまた更に数分後。
「・・・・・・」
ーーーいい加減動け!と全人類が思ってもおかしくない数分後。
「・・・・・・」
アランは未だに沈黙していた。
勿論、思考はまだ続いている・・・・・・筈。
そんな森羅万象が呆れ死ぬ頃。
突如アランのいる空間にアランの物ではない声が響いた。
「汝。何時までこの茶番を続行するつもりだ」
「ほべ!?」
思わず奇怪な返答をしてしまったアランが混乱する。
「ど、どこどこのだれだれ様でしょうか?」
「・・・・・・ハァ」
アランがみっともない質問をすると、声があからさまな溜息をつく。
「汝の手中なのに認識すらされないとは・・・・・・汝が哀れだ」
「なんか意味すら分からん初対面すらしたことない人に哀れまれた!しかも俺の手中って・・・・・・俺は別に誰も支配なんざしてねぇんだが」
アランが「俺明らかに『私は貴方に支配されている』的な事をぬかす姿も見つからない異常者とは無関係な一般人ですよね?」な感じの視線を虚空へと向ける。
そんな心情のアランに、思わぬ答えが出た。
「物理的に汝の手中であろうが!全く、最近の人間は情けない・・・・・・」
と、アランの手の中、そこに握られている魔剣から声が発せられたのであった。
魔王は森林中を徘徊し獲物を探し回っていた。
「何でこんなに魔物がいないんだよ!ここもう何百回も見たと思うんだが!ていうかこの岩既視感満載じゃねぇか!なのに魔物のまの字すら出てくる気配ないってどうよ!?」
そう。
ウオマは現在絶賛不作の狩りの最中だった。
絶叫しても状況が進展する訳でもないのにとにかく悲鳴を上げたいだけの魔王を見る者はいない。
何せ、この森の魔物は全て食べ尽くされているからである。
この一帯の主は大百足という魔物である。
野生の魔物達がどうなったのかというと、実はウオマが元凶だったりする。
魔王は元々、霊魂魔法以外が使えないという体質ではあるが、魔力量は魔族、いや、全生物の中でも随一である。
張り合えるのはせいぜい魔神ぐらいであろう。
そんな魔力の超常的に莫大な塊のような物を魔王は普段抑えて隠しているが、魔物は魔力の本質を見極める。
敵の魔力を見通しても、その中では知能が低い、もしくはただ単に勝てると自負している魔物が大半なのだが、件の百足はこれらの中でも特に知能が高い部類であった。
それ故に、魔王の常軌を逸する魔力を感知すると、狂乱した。
あり得ない程の強者がこちらへ向かってきている。
それだけで大百足を森中の魔物を喰らい尽くす程狂わせるには十分だった。
そして、怪物の驀進は止まらず、遂に魔力の権化とも言える謎の相手よりも遥かに弱そうな人族のクレイの元へ向かったのである。
魔物の本能としては正しい判断だが、自分より格上の生物相手に襲いかかるだけでは足りない事を考えるべきだった、と百足を諭そうとしても意味はないだろうが。
そんな魔王にとって知らない所で森林の王者と自分の部下が戦闘中というのは、知る由も無い事である。
一方、ウオマの対戦相手のアランはというと、
ーーー迷子になっていた。自覚ありで。
魔王ウオマさんはほぼ無自覚で森の中を彷徨っているが、アランは見るからに迷子になっていた。
勿論、その事実を客観的に認識してしまった所為で更に不安になりながら。
「やっべぇどうしましょ」
迷った。
確かにそういう状況ではあるが、それに加えてアランの移動は俊剣ヴィテェスの能力をフル活用した方法だった。
故に、目で追えないような速度で兎に角森を縦横無尽に動きまくった。
結果、方向感覚が狂い、その上開始地点からどのぐらい離れたかすら分からない。
この森林はこの街の北部、即ち大陸中央部、その少し東寄りの一帯を覆い尽くす大森林なのである。
こんな所で後先考えずに走り回ったら、そりゃあ迷子にもなる。
しかし、そんな事も気付かないのが魔王の加護!
更に!
魔物の気配が一切ないのです!
なんということでしょう!
周囲を探っても、生命反応が小生物以外に自分しかない!
一大事!
「いやホントにやっべぇどうしましょ」
しかしアランの動揺はそのまま!
「ん~この剣でとりま片っ端から進むか?旅に出る時の為の方角わかるコツみたいなの前に教わった気がするが・・・・・・覚えてねぇ。詰んだ」
そう。
元聖騎士団長アランさん!
講習は大の嫌いだったのである!
基本的に脳筋!
自分でもそう自負していた通り、頭を使うのはそんなに好きじゃなかった!
副団長が常に胃が痛い等と愚痴ってたが、もしかしたら責任押し付けすぎたかもしれない。
「と、そんな事してる場合じゃねぇ!元の場所へ戻らねぇと!しかしどうするか・・・・・・」
ーーー数分後。
「・・・・・・」
ーーーまた更に数分後。
「・・・・・・」
ーーーいい加減動け!と全人類が思ってもおかしくない数分後。
「・・・・・・」
アランは未だに沈黙していた。
勿論、思考はまだ続いている・・・・・・筈。
そんな森羅万象が呆れ死ぬ頃。
突如アランのいる空間にアランの物ではない声が響いた。
「汝。何時までこの茶番を続行するつもりだ」
「ほべ!?」
思わず奇怪な返答をしてしまったアランが混乱する。
「ど、どこどこのだれだれ様でしょうか?」
「・・・・・・ハァ」
アランがみっともない質問をすると、声があからさまな溜息をつく。
「汝の手中なのに認識すらされないとは・・・・・・汝が哀れだ」
「なんか意味すら分からん初対面すらしたことない人に哀れまれた!しかも俺の手中って・・・・・・俺は別に誰も支配なんざしてねぇんだが」
アランが「俺明らかに『私は貴方に支配されている』的な事をぬかす姿も見つからない異常者とは無関係な一般人ですよね?」な感じの視線を虚空へと向ける。
そんな心情のアランに、思わぬ答えが出た。
「物理的に汝の手中であろうが!全く、最近の人間は情けない・・・・・・」
と、アランの手の中、そこに握られている魔剣から声が発せられたのであった。
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