恋愛なんて全く興味ない俺と幼馴染が同じ家で暮らしたら 〜お互いを知り尽くした幼馴染との快適生活〜

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第1話 一緒に住もうと思ってるから

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「ゆーしー、あれ作ろうよあれ、なんだっけ。ボサノバみたいなやつ」
「ビビンバな」
「それそれ」

 優志の答えに結衣が「よくわかったね~」と感心する。
 その間、優志はずっとスマホに目を向けていた。

「で?」
「は」
「ビビンバは?」
「ボサノバでも聞いとけよ」
「ゆーしも食べたいくせに~」
「めんど」

 こういう時の結衣は面倒くさい。
 という意味の発言だったが、結衣は「(作るのが)めんど」だと捉えたらしく、

「仕方ないなぁ。どうしてもって言うなら食べに行くでもいいよ。その場合ゆーしのお支払いになるけど」
「行かない」
「いいじゃんたまにはさぁ。韓国料理はキムチだけじゃないって証明しようよ」

 よほど食べたいのか駄々をこねる結衣。
 何としても今日の夕飯はビビンバにしたいらしい。

 しかし優志はそれに応えるつもりはなかった。
 というか、応える必要がなかった。

「そもそも」
「ん?」
「なんで結衣がうちで飯食う前提でいんだよ」

 理由は、優志と結衣はただの幼馴染だからだ。


 ◇◆◇◆◇


「おじゃまー」
「邪魔」
「しまーす」

 広い家の中。
 優志はぽつんとソファに寝転がるっていた。

 そのリビングに当然のように入ってくる結衣。

 この時間、優志の家の鍵は基本開いている。
 理由は、いちいち開けに行くのが面倒だから。

「クラス一緒じゃん」
「そだな」
「運命じゃん」
「そだな」

 学年が変わったことがそんなに嬉しいのか、結衣のテンションが高い。
 その言葉を聞き流していると、うつ伏せの優志に気配が近づいてくる。

「――うグフッ」
「まーた違うゲーム始めてるじゃん」
「下りろ馬鹿……」

 背中に乗ってきた結衣を払うために腕を動かすと、どこか柔らかいところに当たって結衣が退く。
 どこを触ったかは興味がなかった。

「テレビテレビー、BSまだつかない?」
「アンテナ直さないと映んないだろ」
「直してよ」
「自分で直せ」
「誰の家だと思ってんの?」
「俺の家だから帰れ」

 なんだかんだ言いつつ、テレビが見始める結衣。見られれば何でもいいらしい。

 当時は高級だった大画面のテレビからはニュースの音声が流れ始める。

「明日暑いなー」
「…………」

 落ち着いた優志は再びスマホに目を向ける。

 リビングに男女が二人。
 それでもリラックスできるのは、優志と結衣が黙っていても気を遣うことものない間柄だから。

「ぶんことクラス分かれちゃった」
「……誰だそいつ」
「ブンコだって」
「俺の知り合いじゃないだろ」
「うん」
「どんな奴だよ」
「ミヤちゃんが飼ってた猫」
「知るかよ」

 クラス関係ないだろ、と呟く優志。
 こういう時の結衣はボケたわけじゃなく頭が空っぽなだけだということを優志は知っている。

 一方のスマホゲーをしながら喋る優志も、特に何も考えていなかったりする。
 ただ相手の言葉に反応しているだけだ。

「今日、飯食うんだろ」
「生きるために食べるね」
「今日は何も作らないからな」
「カップ麺盗むからいいもんね」

 そうして当然のように結衣が家で夕飯を食べることにも、優志は何も思わない。
 金払えよとはちょっと思う。

 ただ、お互いの家の事情を知っているから、追い出したりはしない。


「うまー醤油ラーメンうまー」
「ふー……ふー……」
「一生これでいいかも」
「じゃあうちで食う時はずっとカップ麺な」
「十日に一回好きな物作ってくれるならいいよ」
「自分で作れ」

 午後七時頃。
 二人はリビングでカップ麺をすすっていた。

 いつもなら自炊するものの、今日は働くのが面倒くさい日だった。

「こういうふうに一緒にご飯食べてるとさあ」
「ん」
「あー……トイレ行きたくなってくるよねぇ……」
「誰も止めねーから行け」
「ついてきてくれてもいいんだよ?」

 面倒くさくなって無視をする。
 結衣は何も言わずにトイレに向かった。

「……今日はやけにテンションたけぇな」

 高校二年生になったのがそんなに嬉しかったんだろうか。
 あいつの場合クラス替えは嫌がりそうなのに、と自然と結衣の思考が頭に浮かんだ。

 それから、一足先に食事を終えた優志は後片付けのため立ち上がった。
 すると部屋の隅に、結衣が持ってきたであろう大きな鞄があるのが目に入る。

「何持ってきたんだよ……」

 家で出たゴミの押し付けか。

 後で問いただすか、と考えつつ、優志は台所に立ってゴミを片付ける。

 この家では料理も片付けもゴミ捨ても、家事全てが優志の仕事だ。


 優志と結衣には小さい頃から特殊な付き合いがあった。

 二人の家が近かった。だけではなく、二人とも片親。そして小学生の頃から家で一人にされることが多いという共通点があった。

 ……それだけなら良かったのだが、二人の親には、給食費滞納、三者面談拒否をするなど自分勝手な人間という共通点まであり。
 近所の『二大クズ親』という不名誉な形での有名人でもあった。

 当然、他の人間には過剰に気を遣われる中で育ち、小学生の頃に二人はなるべくして仲良くなった。

 その中で、どちらかというと貧乏な家で育った結衣は、家は大きかった優志の家によく遊びに来るようになり。
 高校生になった今も、それは変わっていなかった。

 小学生から高校生になるまで「付き合ってんの?」と聞かれた数は数え切れない。
 ただ、そういう事情があるから、優志には結衣が異性という感覚はなかった。

 さすがに、成長した結衣が綺麗ではないとは思わないものの。


「へー……食器って納豆食べたのから洗った方がいいらしいよ」
「知ってる」
「ちゃんとやってる?」
「納豆食わないだろうち」

 夕食も食べ終え、時刻は九時頃。
 リビングで二人一緒に雑学系のバラエティを見て時間を潰したことを後悔しつつ、優志は自分の部屋に戻ろうとする。

「ん、寝るの?」
「小学生か。部屋戻るだけだ」
「ふーん」
「ってか……」

 いつもなら、このくらいの時間になれば結衣は帰る。
 だから、優志は急かす意味で立ち上がった。

 なのに、まだ居座る気らしい結衣はソファでだらしなく寝っ転がっている。
 腹が見えそうだ。

「結衣、今日いつ帰んだよ……」
「……え? あ、今日はね――」
「あとずっと気になってたけど、この荷物なんだ」

 夕飯の頃に見た結衣の大荷物を指して言う。

 結衣の返事を聞く前に、気になった優志は近づいて触ってみる。

 ゴミでも詰まってるんだろうという予想は外れ、中に布でも詰まっていそうな感触がする。
 首を傾げながら、鞄のファスナーに手をかける。

「これ、俺の家に置いてくつもりじゃ――」
「それは――私の、全財産」
「……は?」

 驚いた拍子にファスナーが開く。
 開いた鞄の中を見ると、大量の服が詰まった一番上に下着らしき物が見えた。慌てて閉じる。

「なんだ……全財産って」

 全財産はさすがに冗談……だとして。
 この家に下着まで持ってくる理由はなんだ、と頭が混乱する。

 しかし、振り返ると結衣は冗談の顔はしていなかった。

「えっと……今日から、私――一緒に住もうと思ってるから。……よろしく」
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