8 / 8
第8話 何が変わったんだろう
しおりを挟む
「ゆーしー、私の鞄知らないー?」
「玄関に置いてあったから持ってきた」
「おー、さんきぅ」
学校終わり。
リビングに入ってきた結衣は、ソファから立ち上がろうとした優志にリモコンを渡す。
「これ取ろうとしたんでしょ?」
「ん」
「お礼言ったらあげる」
「Thank you」
「お、アメリカ人だ」
リモコンを受け取り、テレビをつけると、教育番組のキャラクターが「おすわりできるかなー?」と赤ちゃんを挑発している。
「私はおすわりできるよ」
「張り合うな」
ソファに座る結衣。
隣に座る優志と結衣の間には、少しだけ隙間がある。
「ご飯、今日は私が作ろうか」
「何か作りたいなら」
「作ったことないからカルパッチョ作りたい。失敗するかもしれないけど!」
「失敗するなら俺が作る」
「なんで!? いいじゃんイタリアンはパスタだけじゃないって証明しようよ!」
「それはピザが証明してくれてる」
呆れながらも「……まあいいけど」と、最終的には折れる。
結衣が来てから一週間が経った。
結衣の家のトラブルはあったものの、未だに生活では問題は起こっていない。
食器洗いやゴミ捨て等の家事は特に当番もなく気づいた方がやり、料理は作りたい方が作りたい物を作っている。
元々全部やっていた優志の仕事は綺麗に半分になった。
元々やるつもりだったわけだから、どっちがやるやらないという不満も起こりようがない。
きっとそれは、結衣も同じなのだろう。
認めたくないものの、手本のような同棲生活だなと優志は思っていた。
「今日も平和だねぇ」
「……なんだその熟年夫婦みたいな会話」
「熟年夫婦って……恥ずかしいこと言うなぁゆーしは!」
「……なんだそのテンション」
ただ、不満はないものの、不思議なことは少しだけあった。
結衣の様子がおかしいのだ。
「いやただ平和だなってさぁ……思うじゃん!」
「会話に困った時に言うやつだろ、それ」
「私は会話に困ることないもーん」
「あっそ」
元々、結衣はテンションの高い生き物だ。
しかし、最近はさらに落ち着きがない。
結衣がおかしい時、優志は大抵の感情が読める。
長い期間一緒にいるから、自然とあの時と一緒だと気づいてしまう。
「ゆーしは冷たいなぁ……それじゃモテない……あっ」
「今更失礼なこと言ったみたいな反応すんな」
「ごめんごめん」
ただ、今回の結衣の行動は過去のデータベースと一致しなかった。
大きな問題を抱えているわけじゃないことはわかるのだが。
「……というか、何か良いことでもあったのか」
「え、なんで?」
「落ち着きがない」
「私って元々落ち着きあったっけ」
「ないけど」
そう言われるといつも通りのようにも思えてくる。
観察するように全身くまなく見てみてもおかしなところはない。
それでも、不意に目があった瞬間立ち上がってどこかへ行こうとする結衣は、やはり落ち着きがない気がした。
「トイレ行ってくる!」
「いい加減宣言するのやめろ」
「いやいや、報告しないと優志が困るんだから」
「困るまで我慢しない」
なんで男女でこんな話しないといけないんだ、と思いながらも、こういう会話はむしろいつも通りな気がしてくる。
「……生活は普通にできてんだけどな」
他人の家に居続けると人はテンションがおかしくなるんだろうか。
結衣を観察しながら、優志はそんなことを考えていた。
◇◆◇◆◇
「ふぃ~」
トイレに行くと言った後、気が変わった結衣は洗面所で一息ついていた。
リビングさえ使えれば困らない結衣に自分の部屋はない。
着替える時は洗面所で着替えて、洗濯も自分でする。
「……落ち着きがない」
一旦制服を脱ぐ手を止めて、呟く。
最近、自分でもおかしいな、と思うことがあった。
優志の近くにいると――何故か、ふざけたくなるのだ。
ふざけるというか、空気を壊したくなる。
優志がメッセージで母親と話してくれた日から、そういう節がある。
理由はわからない。
理由なんて考える前に自分の体がふざけてる。
もしかすると、何かを誤魔化したいのかもしれない。
結衣には空気が重い時こそ空気を変えたくなる癖があった。
「……重くなかったような?」
ただ、ここ最近は別に何もなかった。
優志の言うように、熟年夫婦のような落ち着いた生活をしていた。
なんでだ? 何を誤魔化している? 何を――
「――あ、いたのか。悪い」
「……へ?」
ガラッと洗面所の扉が開いた後、すぐにその扉はしまった。
数秒遅れてから、何が起こったのか気づく。
「……――あー! ラッキースケベマンした!? 今ぁ!」
「あぁ? いや、まだ何も脱いでなかっただろ……」
「でも着替え覗いたんじゃない!? ねぇ! ラッキースケベマンだ!」
「いやだから着替える前だったろ……」
「ラッキースケベマン!」
「誰なんだよその楽天カードマンみたいな奴」
「悪かった悪かった」と言って、扉の向こうの声は遠ざかっていく。
鏡に映る自分を見ると、着替える前だった結衣は確かにまだ何も脱いでいない。
なのに鏡には、目で見てわかるほどに顔全体を赤くする自分がいる。
「……こんなんだっけ」
昔は同じ場所で着替えたりしてたのに。
何が変わったんだろう。
考えながら、結衣はずっと鏡の自分と一緒に首を傾げていた。
「玄関に置いてあったから持ってきた」
「おー、さんきぅ」
学校終わり。
リビングに入ってきた結衣は、ソファから立ち上がろうとした優志にリモコンを渡す。
「これ取ろうとしたんでしょ?」
「ん」
「お礼言ったらあげる」
「Thank you」
「お、アメリカ人だ」
リモコンを受け取り、テレビをつけると、教育番組のキャラクターが「おすわりできるかなー?」と赤ちゃんを挑発している。
「私はおすわりできるよ」
「張り合うな」
ソファに座る結衣。
隣に座る優志と結衣の間には、少しだけ隙間がある。
「ご飯、今日は私が作ろうか」
「何か作りたいなら」
「作ったことないからカルパッチョ作りたい。失敗するかもしれないけど!」
「失敗するなら俺が作る」
「なんで!? いいじゃんイタリアンはパスタだけじゃないって証明しようよ!」
「それはピザが証明してくれてる」
呆れながらも「……まあいいけど」と、最終的には折れる。
結衣が来てから一週間が経った。
結衣の家のトラブルはあったものの、未だに生活では問題は起こっていない。
食器洗いやゴミ捨て等の家事は特に当番もなく気づいた方がやり、料理は作りたい方が作りたい物を作っている。
元々全部やっていた優志の仕事は綺麗に半分になった。
元々やるつもりだったわけだから、どっちがやるやらないという不満も起こりようがない。
きっとそれは、結衣も同じなのだろう。
認めたくないものの、手本のような同棲生活だなと優志は思っていた。
「今日も平和だねぇ」
「……なんだその熟年夫婦みたいな会話」
「熟年夫婦って……恥ずかしいこと言うなぁゆーしは!」
「……なんだそのテンション」
ただ、不満はないものの、不思議なことは少しだけあった。
結衣の様子がおかしいのだ。
「いやただ平和だなってさぁ……思うじゃん!」
「会話に困った時に言うやつだろ、それ」
「私は会話に困ることないもーん」
「あっそ」
元々、結衣はテンションの高い生き物だ。
しかし、最近はさらに落ち着きがない。
結衣がおかしい時、優志は大抵の感情が読める。
長い期間一緒にいるから、自然とあの時と一緒だと気づいてしまう。
「ゆーしは冷たいなぁ……それじゃモテない……あっ」
「今更失礼なこと言ったみたいな反応すんな」
「ごめんごめん」
ただ、今回の結衣の行動は過去のデータベースと一致しなかった。
大きな問題を抱えているわけじゃないことはわかるのだが。
「……というか、何か良いことでもあったのか」
「え、なんで?」
「落ち着きがない」
「私って元々落ち着きあったっけ」
「ないけど」
そう言われるといつも通りのようにも思えてくる。
観察するように全身くまなく見てみてもおかしなところはない。
それでも、不意に目があった瞬間立ち上がってどこかへ行こうとする結衣は、やはり落ち着きがない気がした。
「トイレ行ってくる!」
「いい加減宣言するのやめろ」
「いやいや、報告しないと優志が困るんだから」
「困るまで我慢しない」
なんで男女でこんな話しないといけないんだ、と思いながらも、こういう会話はむしろいつも通りな気がしてくる。
「……生活は普通にできてんだけどな」
他人の家に居続けると人はテンションがおかしくなるんだろうか。
結衣を観察しながら、優志はそんなことを考えていた。
◇◆◇◆◇
「ふぃ~」
トイレに行くと言った後、気が変わった結衣は洗面所で一息ついていた。
リビングさえ使えれば困らない結衣に自分の部屋はない。
着替える時は洗面所で着替えて、洗濯も自分でする。
「……落ち着きがない」
一旦制服を脱ぐ手を止めて、呟く。
最近、自分でもおかしいな、と思うことがあった。
優志の近くにいると――何故か、ふざけたくなるのだ。
ふざけるというか、空気を壊したくなる。
優志がメッセージで母親と話してくれた日から、そういう節がある。
理由はわからない。
理由なんて考える前に自分の体がふざけてる。
もしかすると、何かを誤魔化したいのかもしれない。
結衣には空気が重い時こそ空気を変えたくなる癖があった。
「……重くなかったような?」
ただ、ここ最近は別に何もなかった。
優志の言うように、熟年夫婦のような落ち着いた生活をしていた。
なんでだ? 何を誤魔化している? 何を――
「――あ、いたのか。悪い」
「……へ?」
ガラッと洗面所の扉が開いた後、すぐにその扉はしまった。
数秒遅れてから、何が起こったのか気づく。
「……――あー! ラッキースケベマンした!? 今ぁ!」
「あぁ? いや、まだ何も脱いでなかっただろ……」
「でも着替え覗いたんじゃない!? ねぇ! ラッキースケベマンだ!」
「いやだから着替える前だったろ……」
「ラッキースケベマン!」
「誰なんだよその楽天カードマンみたいな奴」
「悪かった悪かった」と言って、扉の向こうの声は遠ざかっていく。
鏡に映る自分を見ると、着替える前だった結衣は確かにまだ何も脱いでいない。
なのに鏡には、目で見てわかるほどに顔全体を赤くする自分がいる。
「……こんなんだっけ」
昔は同じ場所で着替えたりしてたのに。
何が変わったんだろう。
考えながら、結衣はずっと鏡の自分と一緒に首を傾げていた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
普段高校生ゲーム実況者として活動している俺だが、最近仲良くなりつつあるVTuberが3人とも幼馴染だった件について。
水鳥川倫理
青春
主人公、目黒碧(めぐろあお)は、学校では始業時間になっても現れない遅刻常習犯でありながら、テストでは常に学年トップの高得点を叩き出す「何とも言えないクズ」として教師たちから扱いにくい存在とされている。しかし、彼には誰にも明かせない二つの大きな秘密があった。
一つ目の秘密は、碧が顔を隠し、声を変えて活動する登録者数158万人を誇るカリスマゲーム実況者「椎崎(しいざき)」であること。配信中の彼は、圧倒的なゲームスキルと軽妙なトークでファンを熱狂させ、学校での「クズ」な自分とは真逆の「カリスマ」として存在していた。
二つ目の秘密は、彼が三人の超絶可愛い幼馴染に囲まれて育ったこと。彼らは全員が同じ誕生日で、血の繋がりにも似た特別な絆で結ばれている。
習志野七瀬(ならしのななせ): 陽光のような明るい笑顔が魅力のツンデレ少女。碧には強い独占欲を見せる。
幕張椎名(まくはりしいな): 誰もが息をのむ美貌を持つ生徒会副会長で、完璧な優等生。碧への愛情は深く、重いメンヘラ気質を秘めている。
検見川浜美波(けみがわはまみなみ): クールな外見ながら、碧の前では甘えん坊になるヤンデレ気質の少女。
だが、碧が知らない三重目の秘密として、この三人の幼馴染たちもまた、それぞれが人気VTuberとして活動していたのだ。
七瀬は元気いっぱいのVTuber「神志名鈴香」。
椎名は知的な毒舌VTuber「神楽坂遥」。
美波はクールで真摯なVTuber「雲雀川美桜」。
学校では周囲の視線を気にしながらも、家では遠慮なく甘え、碧の作った料理を囲む四人。彼らは、互いがカリスマ実況者、あるいは人気VTuberという四重の秘密を知らないまま、最も親密で甘い日常を謳歌している。
幼馴染たちは碧の「椎崎」としての姿を尊敬し、美波に至っては碧の声が「椎崎」の声に似ていると感づき始める。この甘くも危険な関係は、一つの些細なきっかけで秘密が交錯した時、一体どのような結末を迎えるのだろうか。
『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない
七星点灯
青春
雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。
彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。
しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。
彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。
久野真一
青春
羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。
そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。
彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―
「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。
幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、
ある意味ラブレターのような代物で―
彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。
全三話構成です。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?
さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。
しかしあっさりと玉砕。
クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。
しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。
そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが……
病み上がりなんで、こんなのです。
プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる