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女になんて戻りたくない! 2
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女になれと言われたこの日の夕方頃、なんとか執事としての仕事をメイド服で終わらせたアナベル。
これでようやくメイド服から解放されると思った矢先、何故かアナベルは椅子に座って、ロザリアと一緒に庭でお茶会に参加していた。
「…あ、あのさ…ロザリア…。な、なんで私もお茶会に参加する必要あるの?お茶会めちゃくちゃ苦手なんだけど…」
「そんなの知ってるわ、アナベル。あと、アナベルになった途端に敬語が取れるの、なんだか近くにいるみたいで嬉しいわ!しかも、口調も久しぶりね!」
「…はぁ…。でもさ、今お茶会を開く必要ある?私もう、仕事終わりでクタクタなんだけど…」
「ええ、それも知ってるわ。だから貴女の好きなレモンムースケーキとカモミールティーを用意したのよ。もちろんお茶会でのマナーは気にしなくていいわ。いつも通りお行儀良く、そして美味しく食べて飲んでくれたら嬉しいわ」
「ろ、ロザリアァ…!ありがどうっ!めっちゃくちゃ元気出た!令嬢のマナーを無視していいなんて、なんていいお嬢様なんだぁ!…ズッ…でも、私も一応令嬢ではあるんだから、綺麗に食べる事を心掛けるよ!」
「ふふ。お願いね、アナベル」
聖母のように慈愛に満ちたロザリアの眼差しに涙が出そうになったが、アナベルは気を取り直してフォークを取り、皿に乗った小さなケーキを大きく切り分けてから、ゆっくりと口に運んだ。
その途端、レモンの甘酸っぱさとムースの滑らかさ、そしてクリームチーズの後味が口の中に広がり、アナベルは嬉しさのあまり満面の笑みを浮かべた。
「んん~!おいっしい!やっぱり仕事終わりにはチーズケーキが格別だなぁ…。最近は色々ありすぎて、忙しくて食べれてなかったけど、やっぱり最高の美味しさだね!うん!ロザリア、ありがとう!」
「あら、いえいえ。とんでもないわ。でも、アンディとしての貴女も、最近働きすぎだったじゃない?だから、今までの慰労も兼ねて、このお茶会を開いたの。そして、ここで楽しんで貰えたら、とても嬉しいわ!」
「くうぅ~!やっぱりロザリアは淑女の鑑だよ!いいなぁ…。本当にすごいや」
綺麗な所作で紅茶のカップを持ちながら、優しく笑うロザリアが眩しくて、アナベルは無意識に目を細めた。
ここでふと、ロザリアの亡き母親であるエンブレスト伯爵夫人は、マナーに厳しい方だったなという事を思い出す。
あの時は、マナーが出来ていないと、ロザリアと一緒によく怒鳴られていたものだった。
けれど、マナーが上手くいくと優しく抱きしめてくれたり、ある程度完璧になってくると好きな食べ物を食卓に出してくれたりと、とにかく飴と鞭がすごい人だったのだ。
エンブレスト伯爵夫人は、今はもう亡くなってはいるけれど、もしまだ生きていて、この姿のアナベルを見たらどう思うのだろうか。
きっと、執事のアンディの姿であれば沢山褒めてくれると思うが、アナベルの場合は怒鳴られるかもしれない。
とりあえず、アナベルは姿勢を正して椅子に座り直し、今度はケーキを小さく切り取って口に運ぶ。
その様子を見て、ロザリアは数回瞬きをしたあと、アナベルにこう問いかけた。
「あら?アナベル、さっきの所作、今までより一番美しかったわ。何か心境の変化でもあったかしら?」
「…あー。まぁ少しだけ、エンブレスト伯爵夫人だったアレクシアおば様を、思い出しちゃってだけで…。女に戻るのは、他の令嬢に引け目を感じちゃって嫌だけど、ダブルデート当日までだったら許容出来るし。だったら、天国にいるアレクシアおば様を少しでも喜ばせたいと思うじゃん?…まぁ、口調は敬語だったらいけるけど、貴族女性特有の言い回しは無理だから…このままで行くけど…」
「…アナベル…。ええ、ええ!きっと天国のお母様は、そんな貴女を誇りに思ってると思うわ!だって、食事のマナーは完璧なんだもの!きっと沢山褒めてくれるわ!」
アナベルの心境の変化に、ロザリアは目を潤ませて、出てきた涙を指で拭う。
そんな彼女に、アナベルは嬉しそうにハハッと笑ってから、ケーキをゆっくり食べ続けたのであった。
これでようやくメイド服から解放されると思った矢先、何故かアナベルは椅子に座って、ロザリアと一緒に庭でお茶会に参加していた。
「…あ、あのさ…ロザリア…。な、なんで私もお茶会に参加する必要あるの?お茶会めちゃくちゃ苦手なんだけど…」
「そんなの知ってるわ、アナベル。あと、アナベルになった途端に敬語が取れるの、なんだか近くにいるみたいで嬉しいわ!しかも、口調も久しぶりね!」
「…はぁ…。でもさ、今お茶会を開く必要ある?私もう、仕事終わりでクタクタなんだけど…」
「ええ、それも知ってるわ。だから貴女の好きなレモンムースケーキとカモミールティーを用意したのよ。もちろんお茶会でのマナーは気にしなくていいわ。いつも通りお行儀良く、そして美味しく食べて飲んでくれたら嬉しいわ」
「ろ、ロザリアァ…!ありがどうっ!めっちゃくちゃ元気出た!令嬢のマナーを無視していいなんて、なんていいお嬢様なんだぁ!…ズッ…でも、私も一応令嬢ではあるんだから、綺麗に食べる事を心掛けるよ!」
「ふふ。お願いね、アナベル」
聖母のように慈愛に満ちたロザリアの眼差しに涙が出そうになったが、アナベルは気を取り直してフォークを取り、皿に乗った小さなケーキを大きく切り分けてから、ゆっくりと口に運んだ。
その途端、レモンの甘酸っぱさとムースの滑らかさ、そしてクリームチーズの後味が口の中に広がり、アナベルは嬉しさのあまり満面の笑みを浮かべた。
「んん~!おいっしい!やっぱり仕事終わりにはチーズケーキが格別だなぁ…。最近は色々ありすぎて、忙しくて食べれてなかったけど、やっぱり最高の美味しさだね!うん!ロザリア、ありがとう!」
「あら、いえいえ。とんでもないわ。でも、アンディとしての貴女も、最近働きすぎだったじゃない?だから、今までの慰労も兼ねて、このお茶会を開いたの。そして、ここで楽しんで貰えたら、とても嬉しいわ!」
「くうぅ~!やっぱりロザリアは淑女の鑑だよ!いいなぁ…。本当にすごいや」
綺麗な所作で紅茶のカップを持ちながら、優しく笑うロザリアが眩しくて、アナベルは無意識に目を細めた。
ここでふと、ロザリアの亡き母親であるエンブレスト伯爵夫人は、マナーに厳しい方だったなという事を思い出す。
あの時は、マナーが出来ていないと、ロザリアと一緒によく怒鳴られていたものだった。
けれど、マナーが上手くいくと優しく抱きしめてくれたり、ある程度完璧になってくると好きな食べ物を食卓に出してくれたりと、とにかく飴と鞭がすごい人だったのだ。
エンブレスト伯爵夫人は、今はもう亡くなってはいるけれど、もしまだ生きていて、この姿のアナベルを見たらどう思うのだろうか。
きっと、執事のアンディの姿であれば沢山褒めてくれると思うが、アナベルの場合は怒鳴られるかもしれない。
とりあえず、アナベルは姿勢を正して椅子に座り直し、今度はケーキを小さく切り取って口に運ぶ。
その様子を見て、ロザリアは数回瞬きをしたあと、アナベルにこう問いかけた。
「あら?アナベル、さっきの所作、今までより一番美しかったわ。何か心境の変化でもあったかしら?」
「…あー。まぁ少しだけ、エンブレスト伯爵夫人だったアレクシアおば様を、思い出しちゃってだけで…。女に戻るのは、他の令嬢に引け目を感じちゃって嫌だけど、ダブルデート当日までだったら許容出来るし。だったら、天国にいるアレクシアおば様を少しでも喜ばせたいと思うじゃん?…まぁ、口調は敬語だったらいけるけど、貴族女性特有の言い回しは無理だから…このままで行くけど…」
「…アナベル…。ええ、ええ!きっと天国のお母様は、そんな貴女を誇りに思ってると思うわ!だって、食事のマナーは完璧なんだもの!きっと沢山褒めてくれるわ!」
アナベルの心境の変化に、ロザリアは目を潤ませて、出てきた涙を指で拭う。
そんな彼女に、アナベルは嬉しそうにハハッと笑ってから、ケーキをゆっくり食べ続けたのであった。
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