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10歳 その10
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王城で傷の手当てを受け続けて約1ヶ月。流石王城の侍医なだけはある。日々の手当てに加え抜糸やその後のケアも万全で、傷はだいぶ目立たなくなっていた。
前髪さえ下ろしてしまえばパッと見では傷があることはわからない位まで回復したところで、やっと帰宅許可が下りた。
傷が残る事は諦めていたとはいえ、あまり大げさな傷が残らなかったことに思わずほっとする。このくらいなら結婚市場から極端にはじき出されるという事にはならないだろう。
婚約解消後に自分が行き遅れない事も勿論そうだけれど、婚約解消に対してリチャード様にあまり気を使わないでほしいと思っている身からすると、尚更良かったという思いが強い。
「リチャード様、この度は大変お世話になりました」
「ああ、エミィ。さみしくなるね」
そんな台詞と共にそっと抱きしめられる。
ここ1ヶ月繰り返されてきたスキンシップ。いつまでたっても慣れることはなく、リチャード様の腕の中で思わず固まってしまう。
「リチャードさま……あの」
「エミィはいつまでたっても慣れてくれないね」
くすりと笑いながらそんな事を言われるが、私の反応はもはや条件反射に近い。推しに抱きしめられると思うとドキドキは止まらないし、普通にはしていられない。
「今までのように会えなくなるから、別れを惜しませておくれ」
腕に込められた力は強くなって、こめかみにそっと唇を押し当てながらささやかれる。
私は顔を真っ赤にしながら、ますますカチコチに固まってしまった。
「そういえば、近々お茶会を開こうと思うんだ」
「お茶会ですか?」
帰り際、不意に言われたそんな言葉。王子が主催するお茶会なんてめったにあるものではないから何事かと思ってしまう。
「私とエミィの婚約発表の場が必要だろう。傷が癒えるのを待っていたから、遅くなってしまって申し訳ないけど」
続いて言われた言葉にハッとして、当事者のくせに全く気付かなかった自分の残念さ具合に恥ずかしくなる。
仮にも一国の王子が婚約するのだ。当たり前だけど発表の場があってしかるべきだ。
「婚約発表……ですか」
それでも、リチャード様との婚約を発表するなんてどこか実感が薄い自分がいる。どうしても仮初の婚約者という意識が抜けてくれないのだ。
「あまり乗り気ではないかな?」
そんな私の様子に気付いたのかリチャード様が心配そうにこちらを見てくる。
「そんなことはないんですけど……実感がなくて」
「相変わらず私の婚約者は控えめだね。もっとわがままを言ってもいいんだよ、エミィ。お茶会が嫌ならそう言ってくれれば何とかするさ」
「いえ、嫌だなんて思ってません!」
食い気味に言葉が出た。いくら実感が湧いていないとはいえ、そのお茶会を開催しない事がどれだけ問題なのかわからない訳ではない。
「それなら良いけれど。エミィが嫌な事を無理にしたくはないからね」
リチャード様はそんな言葉ををさらりと言ってのけるが、実際問題として第二王子が婚約発表をしないという事は大問題でしかない訳で。その発言が本気かどうかはおいておくにしても、リチャード様は私に甘すぎる。
うっかりすると勘違いが加速しそうになるのでやめてほしい。なんて、言えるわけもないけれど。
「大丈夫です。本当に実感がないだけですから……」
「そうか。でも、それはそれで少し悲しいな。この婚約を喜んでるのは私だけという事かな?」
どこか寂しそうな顔でこちらを見てくるリチャード様に罪悪感がつのる。
「そんなことはないですっ。でも……私なんかでいいのかなって」
「エミィがいいんだよ」
笑顔で言いながら、ふわりと抱き締められた。
「他の誰かなんて考えられない」
流石リチャード様。ともするとキザになりそうなことをサラリとやってのける上に、それがお似合いだからびっくりする。
しかし、このだだ甘な言動はどうだろうか。
見なくてもわかる。私の顔は真っ赤に染まってるに違いない。私の推しは、どれだけ私を翻弄すれば気が済むんだ。
前髪さえ下ろしてしまえばパッと見では傷があることはわからない位まで回復したところで、やっと帰宅許可が下りた。
傷が残る事は諦めていたとはいえ、あまり大げさな傷が残らなかったことに思わずほっとする。このくらいなら結婚市場から極端にはじき出されるという事にはならないだろう。
婚約解消後に自分が行き遅れない事も勿論そうだけれど、婚約解消に対してリチャード様にあまり気を使わないでほしいと思っている身からすると、尚更良かったという思いが強い。
「リチャード様、この度は大変お世話になりました」
「ああ、エミィ。さみしくなるね」
そんな台詞と共にそっと抱きしめられる。
ここ1ヶ月繰り返されてきたスキンシップ。いつまでたっても慣れることはなく、リチャード様の腕の中で思わず固まってしまう。
「リチャードさま……あの」
「エミィはいつまでたっても慣れてくれないね」
くすりと笑いながらそんな事を言われるが、私の反応はもはや条件反射に近い。推しに抱きしめられると思うとドキドキは止まらないし、普通にはしていられない。
「今までのように会えなくなるから、別れを惜しませておくれ」
腕に込められた力は強くなって、こめかみにそっと唇を押し当てながらささやかれる。
私は顔を真っ赤にしながら、ますますカチコチに固まってしまった。
「そういえば、近々お茶会を開こうと思うんだ」
「お茶会ですか?」
帰り際、不意に言われたそんな言葉。王子が主催するお茶会なんてめったにあるものではないから何事かと思ってしまう。
「私とエミィの婚約発表の場が必要だろう。傷が癒えるのを待っていたから、遅くなってしまって申し訳ないけど」
続いて言われた言葉にハッとして、当事者のくせに全く気付かなかった自分の残念さ具合に恥ずかしくなる。
仮にも一国の王子が婚約するのだ。当たり前だけど発表の場があってしかるべきだ。
「婚約発表……ですか」
それでも、リチャード様との婚約を発表するなんてどこか実感が薄い自分がいる。どうしても仮初の婚約者という意識が抜けてくれないのだ。
「あまり乗り気ではないかな?」
そんな私の様子に気付いたのかリチャード様が心配そうにこちらを見てくる。
「そんなことはないんですけど……実感がなくて」
「相変わらず私の婚約者は控えめだね。もっとわがままを言ってもいいんだよ、エミィ。お茶会が嫌ならそう言ってくれれば何とかするさ」
「いえ、嫌だなんて思ってません!」
食い気味に言葉が出た。いくら実感が湧いていないとはいえ、そのお茶会を開催しない事がどれだけ問題なのかわからない訳ではない。
「それなら良いけれど。エミィが嫌な事を無理にしたくはないからね」
リチャード様はそんな言葉ををさらりと言ってのけるが、実際問題として第二王子が婚約発表をしないという事は大問題でしかない訳で。その発言が本気かどうかはおいておくにしても、リチャード様は私に甘すぎる。
うっかりすると勘違いが加速しそうになるのでやめてほしい。なんて、言えるわけもないけれど。
「大丈夫です。本当に実感がないだけですから……」
「そうか。でも、それはそれで少し悲しいな。この婚約を喜んでるのは私だけという事かな?」
どこか寂しそうな顔でこちらを見てくるリチャード様に罪悪感がつのる。
「そんなことはないですっ。でも……私なんかでいいのかなって」
「エミィがいいんだよ」
笑顔で言いながら、ふわりと抱き締められた。
「他の誰かなんて考えられない」
流石リチャード様。ともするとキザになりそうなことをサラリとやってのける上に、それがお似合いだからびっくりする。
しかし、このだだ甘な言動はどうだろうか。
見なくてもわかる。私の顔は真っ赤に染まってるに違いない。私の推しは、どれだけ私を翻弄すれば気が済むんだ。
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