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13歳 その1
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――それから3年の月日が経った。
色々な事はあったけれど大きな事件もなく、概ね平穏無事に過ごしたと思う。
私は13歳になっていて、リチャード様は15歳になった。
そう。15歳になったリチャード様は、今日から学園に入学する。
「これからはエミィとも中々会えなくなるね。寂しいな」
「私も……寂しいです」
リチャード様の腕の中で、赤くなりながらもなんとか言葉を絞り出す。
この3年間、私から王城に出向いたり、リチャード様が私の家に遊びに来たりで、何だかんだで週に一度以上のペースで顔を合わせていた。
けれど、リチャード様が学園に通うようになる以上、そんなに頻繁に会う事はできなくなる。
ちなみにリチャード様は相変わらず甘々で、会った時のスキンシップもこの通り日常茶飯事。流石の私も赤面はするもののいちいち固まることはなくなっていた。
完全に慣れたとは言えない反応だけど、やっぱり推しは推しなのだから、赤面くらいはまあ許してほしい。
「エミィが入学するまではあと2年か。私もそれに合わせて通えればいいのに」
「まぁ、リチャード様ったら」
やっぱり甘すぎるセリフを吐きながら抱きしめる腕の力を強くするリチャード様に、私の顔はますます熱くなっていく。
正直に言おう。こんな態度を取られて、本当にリチャード様は私の事を「妹のような婚約者」として見ているんだろうかと疑った事は一度や二度ではない。
もしかしたら、そこにほんの少しくらいは恋愛感情があるのではないかと考えてしまっても仕方ないと思う。
けれど、リチャード様のこの態度は婚約した時から変わっていない。この三年で態度が変化したならまだしも、馬に蹴られ傷が残ったから婚約するという流れはゲームの設定と同じでしかなかった。
名前の呼び方という一要素はうっかり変えてしまったものの、婚約する際にシナリオから大きく外れるような出来事が有った訳でもないはずだ。
それに、何より……。
「フィル兄様も同じような事を言ってましたわ」
実兄であるフィル兄様にも同じような態度を取られているのだから、これでも妹に対する態度としてはおかしくないのだろうと思い直す。
「フィリップが?」
「私が2年早く学園に通えるようにならないかって」
「それは先を越されてしまったな」
苦笑するリチャード様に、私もくすりと笑いをこぼした。
「じゃあ、行ってくるよ。エミィ」
もう一度抱きしめ直した後、そっと頬にキスを落としてリチャード様が言う。
そこで、ふとリチャード様が目を細めてこちらを見つめてくる。
「ね、エミィ。ここに口付けても?」
向き合う格好でリチャード様は私の頬に手を添えると、指先でゆるりと唇を撫でた。
「え、えっと……それは……」
唇にキスするってこと!?
この3年間、頬や額へのキスは何度もあった。だけど、唇にキスは一度もない。
それは妹への態度としては行き過ぎでは? でも別れを惜しむ婚約者としてなら普通なのか? この場合は何が正しい?
頭の中にクエスチョンマークが飛び交って、うつむいたまま固まってしまう。
「嫌かな? しばらく会えなくなるんだし……エミィとの思い出を増やしておこうと思ったんだけど」
その聞き方はずるい。嫌かどうかなんて聞かれたら答えは一つだ。
「嫌じゃない……です」
「よかった。じゃあほら、目を閉じて」
本当にずるい。私がおろおろしているうちに確定事項として決まってしまった。
だけどそれに反論できるだけの材料があるわけでもなくて、私はカチコチに固まりながらなんとか頷くと、おずおずと目を閉じた。
そっと唇に温かい感触が触れて、ゆっくりと離れていく。
ゆっくり瞼を開けると満面の笑みのリチャード様がそこにいて。
間近にあるリチャード様の顔……思わず唇に視線が引き寄せられる。
その途端に急に実感が湧いてきてさらに顔が熱くなっていく。
どうしよう、キスされた……してしまった。
私、推しとキスしたの? 今!?
ていうか、勿論エイミーはファーストキスだけど、リチャード様もファーストキスじゃないのかこれ?
え、これって大丈夫なやつ? シナリオ崩壊してない? ねぇ?
頭の中は大混乱で思考がうまくまとまらない。
そんな私を落ち着かせるように、ぽんぽんと頭を撫でるリチャード様。
それだけならよかったのにさらりと爆弾を投下していって。
「好きだよエミィ。誰よりもね」
どうして、今、このタイミングでそんな事言うんですか。リチャード様っ!
推しからの愛の告白めいた発言に、私は更なる混乱の渦に叩き込まれるのであった。
色々な事はあったけれど大きな事件もなく、概ね平穏無事に過ごしたと思う。
私は13歳になっていて、リチャード様は15歳になった。
そう。15歳になったリチャード様は、今日から学園に入学する。
「これからはエミィとも中々会えなくなるね。寂しいな」
「私も……寂しいです」
リチャード様の腕の中で、赤くなりながらもなんとか言葉を絞り出す。
この3年間、私から王城に出向いたり、リチャード様が私の家に遊びに来たりで、何だかんだで週に一度以上のペースで顔を合わせていた。
けれど、リチャード様が学園に通うようになる以上、そんなに頻繁に会う事はできなくなる。
ちなみにリチャード様は相変わらず甘々で、会った時のスキンシップもこの通り日常茶飯事。流石の私も赤面はするもののいちいち固まることはなくなっていた。
完全に慣れたとは言えない反応だけど、やっぱり推しは推しなのだから、赤面くらいはまあ許してほしい。
「エミィが入学するまではあと2年か。私もそれに合わせて通えればいいのに」
「まぁ、リチャード様ったら」
やっぱり甘すぎるセリフを吐きながら抱きしめる腕の力を強くするリチャード様に、私の顔はますます熱くなっていく。
正直に言おう。こんな態度を取られて、本当にリチャード様は私の事を「妹のような婚約者」として見ているんだろうかと疑った事は一度や二度ではない。
もしかしたら、そこにほんの少しくらいは恋愛感情があるのではないかと考えてしまっても仕方ないと思う。
けれど、リチャード様のこの態度は婚約した時から変わっていない。この三年で態度が変化したならまだしも、馬に蹴られ傷が残ったから婚約するという流れはゲームの設定と同じでしかなかった。
名前の呼び方という一要素はうっかり変えてしまったものの、婚約する際にシナリオから大きく外れるような出来事が有った訳でもないはずだ。
それに、何より……。
「フィル兄様も同じような事を言ってましたわ」
実兄であるフィル兄様にも同じような態度を取られているのだから、これでも妹に対する態度としてはおかしくないのだろうと思い直す。
「フィリップが?」
「私が2年早く学園に通えるようにならないかって」
「それは先を越されてしまったな」
苦笑するリチャード様に、私もくすりと笑いをこぼした。
「じゃあ、行ってくるよ。エミィ」
もう一度抱きしめ直した後、そっと頬にキスを落としてリチャード様が言う。
そこで、ふとリチャード様が目を細めてこちらを見つめてくる。
「ね、エミィ。ここに口付けても?」
向き合う格好でリチャード様は私の頬に手を添えると、指先でゆるりと唇を撫でた。
「え、えっと……それは……」
唇にキスするってこと!?
この3年間、頬や額へのキスは何度もあった。だけど、唇にキスは一度もない。
それは妹への態度としては行き過ぎでは? でも別れを惜しむ婚約者としてなら普通なのか? この場合は何が正しい?
頭の中にクエスチョンマークが飛び交って、うつむいたまま固まってしまう。
「嫌かな? しばらく会えなくなるんだし……エミィとの思い出を増やしておこうと思ったんだけど」
その聞き方はずるい。嫌かどうかなんて聞かれたら答えは一つだ。
「嫌じゃない……です」
「よかった。じゃあほら、目を閉じて」
本当にずるい。私がおろおろしているうちに確定事項として決まってしまった。
だけどそれに反論できるだけの材料があるわけでもなくて、私はカチコチに固まりながらなんとか頷くと、おずおずと目を閉じた。
そっと唇に温かい感触が触れて、ゆっくりと離れていく。
ゆっくり瞼を開けると満面の笑みのリチャード様がそこにいて。
間近にあるリチャード様の顔……思わず唇に視線が引き寄せられる。
その途端に急に実感が湧いてきてさらに顔が熱くなっていく。
どうしよう、キスされた……してしまった。
私、推しとキスしたの? 今!?
ていうか、勿論エイミーはファーストキスだけど、リチャード様もファーストキスじゃないのかこれ?
え、これって大丈夫なやつ? シナリオ崩壊してない? ねぇ?
頭の中は大混乱で思考がうまくまとまらない。
そんな私を落ち着かせるように、ぽんぽんと頭を撫でるリチャード様。
それだけならよかったのにさらりと爆弾を投下していって。
「好きだよエミィ。誰よりもね」
どうして、今、このタイミングでそんな事言うんですか。リチャード様っ!
推しからの愛の告白めいた発言に、私は更なる混乱の渦に叩き込まれるのであった。
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