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15歳 その7
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「エミィ、もしかしてリチャードと何かあった?」
家に帰って顔を合わせるなり、フィル兄様からそんな言葉をかけられた。
あまりに鋭いその一言に心臓がドキリと跳ねる。
確かに何かはあった。リチャード様とマリアの仲が進展していた。そんな事に私の心は乱されている。
まさかそんな動揺を一瞬で見抜かれるなんて思ってもいなかった。
「ええ。リチャード様から指輪をいただきましたわ」
そんなに顔に出やすいだろうかと悩みながらも、心配性の兄に事実を伝えるわけにもいかない。
誤魔化すように別の話題を出して返事する。
「そう、それは良かったね」
「はい。とっても嬉しかったです」
そうだ。何も今日が最悪の日だったわけではない。
プレゼントしていただいたお揃いの指輪はちゃんとここにある。そうやって嬉しかったこともあったのだ。
そんな思いで笑顔を作って告げると、フィル兄様はどこか困ったように笑った。
「エミィ」
ふわりと抱き締められて、ぽんぽんと頭を撫でられる。その声も手つきもどこまでも優しい。
「何かあればいつでも頼ってくれていいんだよ」
「ありがとうございます。フィル兄様」
リチャード様とマリアの仲については決して言う事はできないけれど、それでもフィル兄様が私の味方でいてくれるということが嬉しかった。
たとえ私が婚約解消されたとしても、フィル兄様はこうして傍に居てくれるだろう。
それだけで、どこまでも心強いように思えた。
「今日の夕食はエミィの好物みたいだよ。さあ、着替えておいで」
私がこれ以上話をするつもりがないことに気が付いたのだろう。フィル兄様はさっと話を切り替えてくれる。
本当は何かがあったことに気が付いているのだろうけれど、それを無理に聞き出そうとはせずに見守ってくれる。
そんなさりげない優しさが今の私にはジワリと染みた。
「駄目だなぁ……」
部屋に戻り一人きりになると思わずため息が零れた。
些細な事で直ぐに動揺してしまうせいで、リチャード様にもフィル兄様にも心配をかけてしまった。そんな自分が情けなくて嫌になる。
リチャード様とマリアが恋仲になるのならばその時はそっと身を引く。
その思いだけはずっと持ち続けているのに、未だに二人が仲良くなることに嫉妬してしまうのが辞められない。
このところ、みっともない自分に気付かされてばかりだ。
どうして、うまく笑えないんだろう。どうして、悲しくなるんだろう。どうして、嫉妬してしまうんだろう。
ままならない現実に、沢山のどうしてが積み重なっていく。
リチャード様のこともマリアのことも大切に思ってる。
その気持ちは間違いないはずなのに、どうしたって上手くいかない。
二人の仲がこれ以上進展しなければいいのになんて、身勝手なことすら願ってしまう。
そうすれば私はリチャード様の婚約者として二人の隣で笑っていられる。
ああ、駄目だ。また思考が良くないほうに傾いている。
たとえそれが少しの間だけでも、婚約者になれたことを喜ぼうと決めていたはずなのに。
そうしてぎゅっと握りしめた手に固い感触があった。
リチャード様から贈ってもらったお揃いの指輪。その存在にそっと勇気づけられる。
そうだ。私は婚約者としてとても大切にして貰っている。
だからこそ、私もリチャード様のことを大切にしたい。その気持ちに間違いはないはずだ。
そうやって自分に言い聞かせるように息を吐いた。
家に帰って顔を合わせるなり、フィル兄様からそんな言葉をかけられた。
あまりに鋭いその一言に心臓がドキリと跳ねる。
確かに何かはあった。リチャード様とマリアの仲が進展していた。そんな事に私の心は乱されている。
まさかそんな動揺を一瞬で見抜かれるなんて思ってもいなかった。
「ええ。リチャード様から指輪をいただきましたわ」
そんなに顔に出やすいだろうかと悩みながらも、心配性の兄に事実を伝えるわけにもいかない。
誤魔化すように別の話題を出して返事する。
「そう、それは良かったね」
「はい。とっても嬉しかったです」
そうだ。何も今日が最悪の日だったわけではない。
プレゼントしていただいたお揃いの指輪はちゃんとここにある。そうやって嬉しかったこともあったのだ。
そんな思いで笑顔を作って告げると、フィル兄様はどこか困ったように笑った。
「エミィ」
ふわりと抱き締められて、ぽんぽんと頭を撫でられる。その声も手つきもどこまでも優しい。
「何かあればいつでも頼ってくれていいんだよ」
「ありがとうございます。フィル兄様」
リチャード様とマリアの仲については決して言う事はできないけれど、それでもフィル兄様が私の味方でいてくれるということが嬉しかった。
たとえ私が婚約解消されたとしても、フィル兄様はこうして傍に居てくれるだろう。
それだけで、どこまでも心強いように思えた。
「今日の夕食はエミィの好物みたいだよ。さあ、着替えておいで」
私がこれ以上話をするつもりがないことに気が付いたのだろう。フィル兄様はさっと話を切り替えてくれる。
本当は何かがあったことに気が付いているのだろうけれど、それを無理に聞き出そうとはせずに見守ってくれる。
そんなさりげない優しさが今の私にはジワリと染みた。
「駄目だなぁ……」
部屋に戻り一人きりになると思わずため息が零れた。
些細な事で直ぐに動揺してしまうせいで、リチャード様にもフィル兄様にも心配をかけてしまった。そんな自分が情けなくて嫌になる。
リチャード様とマリアが恋仲になるのならばその時はそっと身を引く。
その思いだけはずっと持ち続けているのに、未だに二人が仲良くなることに嫉妬してしまうのが辞められない。
このところ、みっともない自分に気付かされてばかりだ。
どうして、うまく笑えないんだろう。どうして、悲しくなるんだろう。どうして、嫉妬してしまうんだろう。
ままならない現実に、沢山のどうしてが積み重なっていく。
リチャード様のこともマリアのことも大切に思ってる。
その気持ちは間違いないはずなのに、どうしたって上手くいかない。
二人の仲がこれ以上進展しなければいいのになんて、身勝手なことすら願ってしまう。
そうすれば私はリチャード様の婚約者として二人の隣で笑っていられる。
ああ、駄目だ。また思考が良くないほうに傾いている。
たとえそれが少しの間だけでも、婚約者になれたことを喜ぼうと決めていたはずなのに。
そうしてぎゅっと握りしめた手に固い感触があった。
リチャード様から贈ってもらったお揃いの指輪。その存在にそっと勇気づけられる。
そうだ。私は婚約者としてとても大切にして貰っている。
だからこそ、私もリチャード様のことを大切にしたい。その気持ちに間違いはないはずだ。
そうやって自分に言い聞かせるように息を吐いた。
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