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降り立った世界はハードモード
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いきなり知らない場所で目覚めて、自分は思った以上に混乱していたらしい。よくよく考えてみれば、ここが教会ならば神父なり牧師なりこの場所で働いている人がいる、もし今不在でも働いている人のための事務所がどこかにあるはず。そこに行けば連絡手段も確保できる。宗教関係で働いている人はきっとあからさまに怪しい今の自分の状況を聞いても助けてくれるに違いない、よしっそうと決まれば、と勝手なイメージに希望を持ち直し立ち上がってまた驚いてしまった。涼貴が寝ていたのは円形の建物の中央にある円柱形の台の上、しかも優に2mを超えている。
「俺今までこの高さに気付かずにいたの…バカじゃん。」
苦笑いを漏らしながらも軽く準備運動を始める。普通の人ならばこの高さを見ただけで尻込みしてしまうかもしれないが涼貴はいわゆるスタントマンである。高校時代、先輩に誘われて始めたパルクールが思いの外楽しくてはまり込み、結局仕事も同じように体を使うものに決めたのが5年前。そこからコツコツと経験と人脈を築き上げてようやくスタントとアクションで生活できるようになってきたところだった。そんな涼貴にかかれば高い台から飛び降りるなんて朝飯前だ。よっという掛け声とともにジャンプすると無駄に一回転も入れつつきれいに受け身を取って着地を決める。この一瞬宙に浮いている感覚が何とも言えない満足感をもたらすのも涼貴がアクションが好きな理由の一つであったりもする。少し体を動かしたからか、いくらか頭もすっきりとした気がした。
地面に降り立ってもう一度あたりを見回すと、この建物は思ったよりも狭いことが分かった。狭い、というよりは縦に長いといった方が正しいだろうか。ドーム状の天井はかなり高いが実際の建物の床は直径5メートル程で、あるものといったらさっきまでいた円柱の台と一番奥に小さな祭壇、周りを取り囲むように配置してある燭台くらい。白亜の壁一面の装飾に気を取られていたけど、思ったより質素だな、というのが正直な印象だった。しかしこのシンプルさが逆に壁画を神秘的に際立たせており、涼貴は自然と扉の右横の絵へと吸い寄せられていった。どうやらここを始まりとして壁をぐるりと一周物語が描かれているらしい。
――深い青の中心に立つ老年の男。深いしわが刻まれた顔を豊かな白髭で覆い、同じくしわだらけの手の中には青を一掬い溜めている。老人の傍らに降り立った金髪の青年が見守る中、青は形を大小の人間や動物たちへと次々に変化させる。そうして形作られた生物たちはそれぞれに贈り物を与えられ、老人と青年の前に跪いていく。最後に生み出された人に似た生物だけは青年に抱え上げられ、跪く列に加わらなかった――
絵は老人が青の海に沈んで青年だけが残ったところで終わっていた。なるほど、きっとこれは世界の成り立ちを描いた壁画だったわけか。言葉がないので完璧には理解できなかったが要するにこの絵の老人が神様で隣のきれいなのが天使なのだろう。そしていろいろな種族を創り出して、最後に出てきた人間が天使のお気に入り。なぜ最後に神がいなくなったのか、地球上にいないと思われる生物が描かれているのかなど疑問も多々あるが、人が考えた神話なんて得てしてそんなもんだと一人納得する。涼貴が聞いたことのある話にも巨人やら悪魔やらが当たり前のように出てきていたし。ところどころ絵が新しいのにも気が付いたが古い建物を修繕しているのなら不思議もないだろう。それよりも、神話の内容が涼貴の知っている有名どころの宗教のどれとも一致しないことの方が気になる。
「俺も詳しいわけじゃないけどこんな神話きいたことないよな。俺が知らないだけならいいんだけど。」
自分の知識がないだけなのか、やばい宗教団体だったらどうしようとか思うのは映画の観過ぎかなと思いつつ、気を取り直して外に出ようとしたところで扉の向こうに人の気配を感じた。
「俺今までこの高さに気付かずにいたの…バカじゃん。」
苦笑いを漏らしながらも軽く準備運動を始める。普通の人ならばこの高さを見ただけで尻込みしてしまうかもしれないが涼貴はいわゆるスタントマンである。高校時代、先輩に誘われて始めたパルクールが思いの外楽しくてはまり込み、結局仕事も同じように体を使うものに決めたのが5年前。そこからコツコツと経験と人脈を築き上げてようやくスタントとアクションで生活できるようになってきたところだった。そんな涼貴にかかれば高い台から飛び降りるなんて朝飯前だ。よっという掛け声とともにジャンプすると無駄に一回転も入れつつきれいに受け身を取って着地を決める。この一瞬宙に浮いている感覚が何とも言えない満足感をもたらすのも涼貴がアクションが好きな理由の一つであったりもする。少し体を動かしたからか、いくらか頭もすっきりとした気がした。
地面に降り立ってもう一度あたりを見回すと、この建物は思ったよりも狭いことが分かった。狭い、というよりは縦に長いといった方が正しいだろうか。ドーム状の天井はかなり高いが実際の建物の床は直径5メートル程で、あるものといったらさっきまでいた円柱の台と一番奥に小さな祭壇、周りを取り囲むように配置してある燭台くらい。白亜の壁一面の装飾に気を取られていたけど、思ったより質素だな、というのが正直な印象だった。しかしこのシンプルさが逆に壁画を神秘的に際立たせており、涼貴は自然と扉の右横の絵へと吸い寄せられていった。どうやらここを始まりとして壁をぐるりと一周物語が描かれているらしい。
――深い青の中心に立つ老年の男。深いしわが刻まれた顔を豊かな白髭で覆い、同じくしわだらけの手の中には青を一掬い溜めている。老人の傍らに降り立った金髪の青年が見守る中、青は形を大小の人間や動物たちへと次々に変化させる。そうして形作られた生物たちはそれぞれに贈り物を与えられ、老人と青年の前に跪いていく。最後に生み出された人に似た生物だけは青年に抱え上げられ、跪く列に加わらなかった――
絵は老人が青の海に沈んで青年だけが残ったところで終わっていた。なるほど、きっとこれは世界の成り立ちを描いた壁画だったわけか。言葉がないので完璧には理解できなかったが要するにこの絵の老人が神様で隣のきれいなのが天使なのだろう。そしていろいろな種族を創り出して、最後に出てきた人間が天使のお気に入り。なぜ最後に神がいなくなったのか、地球上にいないと思われる生物が描かれているのかなど疑問も多々あるが、人が考えた神話なんて得てしてそんなもんだと一人納得する。涼貴が聞いたことのある話にも巨人やら悪魔やらが当たり前のように出てきていたし。ところどころ絵が新しいのにも気が付いたが古い建物を修繕しているのなら不思議もないだろう。それよりも、神話の内容が涼貴の知っている有名どころの宗教のどれとも一致しないことの方が気になる。
「俺も詳しいわけじゃないけどこんな神話きいたことないよな。俺が知らないだけならいいんだけど。」
自分の知識がないだけなのか、やばい宗教団体だったらどうしようとか思うのは映画の観過ぎかなと思いつつ、気を取り直して外に出ようとしたところで扉の向こうに人の気配を感じた。
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