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降り立った世界はハードモード
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睡眠の終わりは思ったよりも早く来た。
「おい、起きろ。」
「んん゛?」
何か棒のようなもので突かれる痛みで眠りから覚醒する。なんだ?と眉間に皺を寄せながら目を開けてみれば、涼貴が繋がれている壁の向かいの壁の真ん中がぽっかりと空き、そこから槍を手にした兵士が二人入ってきていた。ドアはそこだったかと記憶しつつも、そこから燦燦と差し込む光は暗闇に慣れた涼貴の目にきつく、しばしばとする目をかばって思わず顔をそむけてしまった。それが兵たちには反抗的な態度に写ったらしい。
「貴様、まだそんな態度がとれるか!」
肩をガンッと突かれた後に槍の穂先を喉元に当てて顎を上げられればもう顔を動かすことは出来ず、眩しさに顔をしかめながらも涼貴は正面のドアに顔を向けた。
「そうだ、その場に跪いていろ。」
偉そうな物言いにカチンとくるが睨むだけにとどめておく。ここで反抗してもろくなことにならない。不自由な体でノロノロと地面に両ひざをつく涼貴の上から嘲るような笑い声が聞こえるが気にしたら負けだと自分に言い聞かせる。そうこうしているうちに目の前がふと暗くなった。不審に思って目線を上げると目に入ってきたのは黒光りする靴、スッとしたパンツの上には繊細な刺繍と銀の飾りボタンが映える黒のベスト、そしてこちらも意匠の凝った深紅のロングコート。胸にはいくつもメダルがついている。胸元から見えるフリルのシャツがいかにも貴族ですという格好をダメ押ししているようだ。それらの衣装の上についている顔も別格だ。長い栗色の髪を後ろで一括りにし、太く意志の強そうな眉と短く刈り揃えられた髭に覆われた顎が男らしい。華美な服の上からでもわかるがっしりとした体も相まって、まさに男も惚れる男という感じである。
「君のその態度は何とかならんのか。私とて常に近くにはおれんのだぞ。」
モデルがいいとこんなコスプレみたいな格好でも様になるもんだな、とぼんやり見上げていた男にいきなり話しかけられ、戸惑う。こんなイケメン、一度会ったら忘れそうにもないが。
男はそんな涼貴を見透かしたように口角を上げると更に言う。
「おや、君と私は礼拝堂で以来の仲だろう?」
「あ゛!その声は確か団長殿…」
「思い出したか。その通り、私はエルヴィス・バロン・アマデウス、ここユスタリア王国にて王国騎士団の団長を務めている。」
「ユスタリア…王国、騎士団…」
まあ混乱するだろうな、と言いながら男が手を振ると脇に控えていた兵士が退出し、部屋には二人だけが残された。この男、人がいなくなった途端服が汚れるのも気にせず床にどっかり座り込んだ。こんなとこ見られたら俺がまた睨まれてしまうと涼貴が案じている中、男は話を進める。
「その格好でいるのは辛いだろうがまだ枷を外す許可は得ていない。なので解放しろというようなものは聞けないが、それ以外の疑問には出来る限り答えよう。」
「俺のことを一切信用しなかった人間の言うことを信用しろって?」
「それは申し訳なかったと思っている。なんせあの礼拝堂に侵入者が現れるなどあってはならんことだったからな。こちらもかなり気が立っていたのだ。だが、今は私を信用してくれとしか言えん。」
「わかった。どうせここで意地を張っても辛いのは俺だしな。とりあえず水をくれないか、喉はカラカラだし口の中がまだ血の味がする。」
男が外に指示を出すとすぐさまコップ一杯の水が持ってこられた。水を持ってきた兵は座り込む自分の上司を見て案の定一瞬ぎょっとした。その後コップを受け取った涼貴がありがとうと礼を言うと、見たこともないような顔で睨みつけながら出て行った。お礼を言ってこれなら俺はそのうち視線に殺されるかもしれない、ため息をつきながらも水を飲むとかなりすっきりと生き返る。
「まずは軽く事実確認をさせてくれ。あんた、えっと…」
「エルヴィスと呼んでくれればいい」
「エルヴィスか、おれは涼貴だ。で、エルヴィスがさっき言ったのが本当なら俺は今、日本でも地球でもない世界にいるということなんだな?」
「そうだな、少なくとも君は今日本にはいない。ここはユスタリア王国で、この世界はシュノー・サナ〈蒼の淵〉と呼ばれている。どういった理屈で君がこちらに来たのかは分からんが。」
「なるほど。因みに聞くが、俺と同じ時に同じようにこちらに来た人間はいたか?」
「いや、私の知る限り君だけだな。何か心当たりでもあるのか?」
「んーいいんだ。こっちの話。それより、俺みたいに現れる人間は多くないのか。」
「他の世界より人をこちらに呼び寄せることがないことはないが、全て神殿の管理の下行われる。こちらが関わらずにやってくる人間は君が初めてだな。」
エルヴィスが言う内容が真実なら、少なくとも勲美さんはこちらには来ていないのだろう。どこにも飛ばされずに無事日本にいてくれたらいい。そしたら俺がそこまで帰っていける。
「神殿が指揮して呼び寄せる、か。もしかして、神子って呼ばれていたり?」
「なんで分かる。そうだ、百年に一度、世界に広まった瘴気を浄化するために光の神子をこちらにお呼びする。現在の神子様は3年前にこちらに来られた。」
「黒髪黒目の日本人?純粋でかわいらしい感じの?」
「君、本当に何も知らないんだろうな?全て今君の言ったとおりだよ。」
すごくセオリー通りじゃないか!ということは俺はおまけ・邪魔者ポジションになるというわけか。邪険にされるのも納得だ。そこはセオリー無視しておいてほしかったな。
「おい、起きろ。」
「んん゛?」
何か棒のようなもので突かれる痛みで眠りから覚醒する。なんだ?と眉間に皺を寄せながら目を開けてみれば、涼貴が繋がれている壁の向かいの壁の真ん中がぽっかりと空き、そこから槍を手にした兵士が二人入ってきていた。ドアはそこだったかと記憶しつつも、そこから燦燦と差し込む光は暗闇に慣れた涼貴の目にきつく、しばしばとする目をかばって思わず顔をそむけてしまった。それが兵たちには反抗的な態度に写ったらしい。
「貴様、まだそんな態度がとれるか!」
肩をガンッと突かれた後に槍の穂先を喉元に当てて顎を上げられればもう顔を動かすことは出来ず、眩しさに顔をしかめながらも涼貴は正面のドアに顔を向けた。
「そうだ、その場に跪いていろ。」
偉そうな物言いにカチンとくるが睨むだけにとどめておく。ここで反抗してもろくなことにならない。不自由な体でノロノロと地面に両ひざをつく涼貴の上から嘲るような笑い声が聞こえるが気にしたら負けだと自分に言い聞かせる。そうこうしているうちに目の前がふと暗くなった。不審に思って目線を上げると目に入ってきたのは黒光りする靴、スッとしたパンツの上には繊細な刺繍と銀の飾りボタンが映える黒のベスト、そしてこちらも意匠の凝った深紅のロングコート。胸にはいくつもメダルがついている。胸元から見えるフリルのシャツがいかにも貴族ですという格好をダメ押ししているようだ。それらの衣装の上についている顔も別格だ。長い栗色の髪を後ろで一括りにし、太く意志の強そうな眉と短く刈り揃えられた髭に覆われた顎が男らしい。華美な服の上からでもわかるがっしりとした体も相まって、まさに男も惚れる男という感じである。
「君のその態度は何とかならんのか。私とて常に近くにはおれんのだぞ。」
モデルがいいとこんなコスプレみたいな格好でも様になるもんだな、とぼんやり見上げていた男にいきなり話しかけられ、戸惑う。こんなイケメン、一度会ったら忘れそうにもないが。
男はそんな涼貴を見透かしたように口角を上げると更に言う。
「おや、君と私は礼拝堂で以来の仲だろう?」
「あ゛!その声は確か団長殿…」
「思い出したか。その通り、私はエルヴィス・バロン・アマデウス、ここユスタリア王国にて王国騎士団の団長を務めている。」
「ユスタリア…王国、騎士団…」
まあ混乱するだろうな、と言いながら男が手を振ると脇に控えていた兵士が退出し、部屋には二人だけが残された。この男、人がいなくなった途端服が汚れるのも気にせず床にどっかり座り込んだ。こんなとこ見られたら俺がまた睨まれてしまうと涼貴が案じている中、男は話を進める。
「その格好でいるのは辛いだろうがまだ枷を外す許可は得ていない。なので解放しろというようなものは聞けないが、それ以外の疑問には出来る限り答えよう。」
「俺のことを一切信用しなかった人間の言うことを信用しろって?」
「それは申し訳なかったと思っている。なんせあの礼拝堂に侵入者が現れるなどあってはならんことだったからな。こちらもかなり気が立っていたのだ。だが、今は私を信用してくれとしか言えん。」
「わかった。どうせここで意地を張っても辛いのは俺だしな。とりあえず水をくれないか、喉はカラカラだし口の中がまだ血の味がする。」
男が外に指示を出すとすぐさまコップ一杯の水が持ってこられた。水を持ってきた兵は座り込む自分の上司を見て案の定一瞬ぎょっとした。その後コップを受け取った涼貴がありがとうと礼を言うと、見たこともないような顔で睨みつけながら出て行った。お礼を言ってこれなら俺はそのうち視線に殺されるかもしれない、ため息をつきながらも水を飲むとかなりすっきりと生き返る。
「まずは軽く事実確認をさせてくれ。あんた、えっと…」
「エルヴィスと呼んでくれればいい」
「エルヴィスか、おれは涼貴だ。で、エルヴィスがさっき言ったのが本当なら俺は今、日本でも地球でもない世界にいるということなんだな?」
「そうだな、少なくとも君は今日本にはいない。ここはユスタリア王国で、この世界はシュノー・サナ〈蒼の淵〉と呼ばれている。どういった理屈で君がこちらに来たのかは分からんが。」
「なるほど。因みに聞くが、俺と同じ時に同じようにこちらに来た人間はいたか?」
「いや、私の知る限り君だけだな。何か心当たりでもあるのか?」
「んーいいんだ。こっちの話。それより、俺みたいに現れる人間は多くないのか。」
「他の世界より人をこちらに呼び寄せることがないことはないが、全て神殿の管理の下行われる。こちらが関わらずにやってくる人間は君が初めてだな。」
エルヴィスが言う内容が真実なら、少なくとも勲美さんはこちらには来ていないのだろう。どこにも飛ばされずに無事日本にいてくれたらいい。そしたら俺がそこまで帰っていける。
「神殿が指揮して呼び寄せる、か。もしかして、神子って呼ばれていたり?」
「なんで分かる。そうだ、百年に一度、世界に広まった瘴気を浄化するために光の神子をこちらにお呼びする。現在の神子様は3年前にこちらに来られた。」
「黒髪黒目の日本人?純粋でかわいらしい感じの?」
「君、本当に何も知らないんだろうな?全て今君の言ったとおりだよ。」
すごくセオリー通りじゃないか!ということは俺はおまけ・邪魔者ポジションになるというわけか。邪険にされるのも納得だ。そこはセオリー無視しておいてほしかったな。
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