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渡る世間に鬼はなし
魔力操作と焼きたてマフィン
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「魔力と言うものは人の体を循環しているエネルギーのようなものだ。これを放出箇所を定めて外に出すことが魔力放出、魔力を操る第一歩となる。」
俺の部屋の中、エルヴィスが人体図を前に説明しているが俺の頭にはどうも入ってこない。座学は嫌いなんだ…俺は習うより慣れよ派の人間なのに。一応日本で大学まで行きはしたがどうやって講義を乗り越えていたのか覚えていない。乗り越えられていなかったかもしれない。
「~~~、であるからして、ここを…おい、涼貴。聞いているか?」
「んあ?ごめん、もう一回お願いします。」
「…はぁ。一旦休憩しよう。」
その合図で、マーサさんが焼きたてのマフィンを持ってきてくれる。マーサさんは羊の獣人でクリーム色のふわふわの毛が豊かなおばあさんだ。エルヴィスの子どもの頃も知っているらしい。俺を自分の孫のように可愛がっていつも手作りのお菓子を食べさせてくれる。
「なぁエルヴィス、とりあえずやってみるっていうのはダメ?俺多分やりながら学んだ方が早いと思う。」
「出来なくはないが暴走するといけないしな。重要なポイントだけ教えておこう。」
「おお!ありがとう。そっちの方が嬉しい。」
魔力は有限。放出箇所は左の掌に決め、そもそもエルヴィスの指示があるまでは魔力を外に出さないようにと言い含められてやっと俺は自分の魔力を探るところからスタートした。人によって魔力の質も十人十色らしい。体中を巡るエネルギーだと言っていたから目を閉じて全身に感覚を張り巡らせる。丹田に力を込めて呼吸を続けると暖かな何かが動くのを僅かに感じた。これか?指の先に感じた温度を辿ると心臓の裏に中心があり、そこから少しずつ漏れているのを見つける。更に集中し、その溜まりから自分の左手にまで熱を引いてくる。
「エルヴィス、見つけた。」
「ああ、そのようだな。では、まずは掌に収まるほど出して留めてみろ。」
「わかった。」
掌にあるチャックを少し下げるようなイメージで。溢れ出た水よりもとろみのあるそれを両手で受け止める。
「うむ、上手いぞ。それがお前の魔力だ。どんな感じがする?」
「なんかじんわり温かくてふわっと重い。」
「見えるか?目で見るのではなく感覚を形にしてみろ。」
「えぇそれどうやるんだ…ちょっと待ってな」
エルヴィスに言われた通り、そこにある何かを捉えようとしてみる。見えないものを見るってなんだ。目を開いていたらどうしても視覚に頼ってしまうから閉じてしまう。試行錯誤してやっとイメージを掴んだ。この温かな塊にもし形があるのならそれは穏やかに揺蕩いながら淡く白く輝いているだろう。閉じていた目を開けると自分の掌の中に魔力が浮かんでいるのが見えた。何だか意識のあるスライムのように思えて、これが俺の手にすり寄ったりしたら可愛いだろうなと思い浮かべるとそれに呼応したように魔力が動く。
「もう魔力が動かせるのか!」
「え!これ俺が動かしてる?ってかエルヴィスも見えてるの?」
「魔力はただのエネルギーの塊だ。自ら動くことはない。本人が見ている姿とは異なるが、君も魔力に慣れていけば他人のそれも見ることは出来るぞ。」
「ふふ、そっか。なんか魔力って得体がしれないと思ってたけど実際は可愛いな。」
自分の魔力をペットのように周りを飛び回らせながら答える。こういう使い魔的な?憧れてたんだよね。
「素質は十分だな。言っておくが一般的な人は出した魔力を対象に注ぐので精一杯だ。形を変えたり、まして自在に動かすなんて出来ない。」
「そうなのか。じゃあ俺は意外と出来るやつなんだな。」
「私から言わせれば意外ではないがな。鍛錬を積めば私も軽く超えるだろう。」
「やっと異世界主人公っぽいじゃん。」
「ん?なんだ?」
俺にもこの国で秀でた部分があった。努力さえすれば報われそうなものが。嬉しくて、エルヴィスにもっと教えて欲しいとねだる。
「今日はここまでだ。いくら涼貴が素質充分だと言っても一度に大量の魔力を使うのは得策ではない。少しずつ慣らしていこう。」
「ん-確かに普段使わない部分を使ったからか頭が疲れた。」
「そうだろう。体にある魔力の感覚を忘れずにいれば段々集中せずとも任意で魔力を引き出せるようになる。それまでは疲れるだろうが練習あるのみだ。」
「うっす。ありがとうございました。」
ペコっとお辞儀するとエルヴィスも頭を下げ返してくれる。
「「すずたかさま~~!!」」
脱力した俺にぶつかって両方から抱き締める巨大な毛玉たち。俺の護衛の獣人さん、オットーとニブだ。2人とも狼犬っぽい。いや、種族的には狼なんだろうけど行動がどうしても犬。黙っていれば威圧感があるのに。2Mは優にありそうな巨体を立派な灰色の毛皮で覆っているがその尻尾がブンブン振り回されている。
「涼貴様はやっぱ凄いです。こんな短時間で魔力を自在に動かせるなんて。」
「優秀な兵でも1週間はかかりますよ。」
「俺たちより強くなっても護衛いらないとか言わないでくださいね。」
「俺たちも精進するので!」
放っておけば顔中舐め回されそうなのをどうにか阻止しながら2人のモフモフに埋もれる。幸せな苦しさだ…。俺が幸せそうにしているからかエルヴィスも2人を引き離したりしない。それに小言を言いながらポーターさんがお茶を用意してくれた。
「涼貴様、お疲れさまでした。流石のコントロールでしたよ。ほら、2人ともそろそろ涼貴様を解放してさしあげなさい。」
遠慮するみんなを呼び止めて、マーサさんが追加で焼いてくれたマフィンを一緒に頬張る。1か月の間で癒された俺の心はようやくこの平和な時間を楽しむことが出来るようになった。護衛ズに強請られて思いつく限りの歌を歌い、一緒に踊り、時に怒られながらも笑いあって過ごす日々は楽しい。
勲美さん、俺まだ大丈夫だから、頑張って早く会える道を見つけるから。傷跡が残ってしまった指に口づけしながら俺は眠りについた。
俺の部屋の中、エルヴィスが人体図を前に説明しているが俺の頭にはどうも入ってこない。座学は嫌いなんだ…俺は習うより慣れよ派の人間なのに。一応日本で大学まで行きはしたがどうやって講義を乗り越えていたのか覚えていない。乗り越えられていなかったかもしれない。
「~~~、であるからして、ここを…おい、涼貴。聞いているか?」
「んあ?ごめん、もう一回お願いします。」
「…はぁ。一旦休憩しよう。」
その合図で、マーサさんが焼きたてのマフィンを持ってきてくれる。マーサさんは羊の獣人でクリーム色のふわふわの毛が豊かなおばあさんだ。エルヴィスの子どもの頃も知っているらしい。俺を自分の孫のように可愛がっていつも手作りのお菓子を食べさせてくれる。
「なぁエルヴィス、とりあえずやってみるっていうのはダメ?俺多分やりながら学んだ方が早いと思う。」
「出来なくはないが暴走するといけないしな。重要なポイントだけ教えておこう。」
「おお!ありがとう。そっちの方が嬉しい。」
魔力は有限。放出箇所は左の掌に決め、そもそもエルヴィスの指示があるまでは魔力を外に出さないようにと言い含められてやっと俺は自分の魔力を探るところからスタートした。人によって魔力の質も十人十色らしい。体中を巡るエネルギーだと言っていたから目を閉じて全身に感覚を張り巡らせる。丹田に力を込めて呼吸を続けると暖かな何かが動くのを僅かに感じた。これか?指の先に感じた温度を辿ると心臓の裏に中心があり、そこから少しずつ漏れているのを見つける。更に集中し、その溜まりから自分の左手にまで熱を引いてくる。
「エルヴィス、見つけた。」
「ああ、そのようだな。では、まずは掌に収まるほど出して留めてみろ。」
「わかった。」
掌にあるチャックを少し下げるようなイメージで。溢れ出た水よりもとろみのあるそれを両手で受け止める。
「うむ、上手いぞ。それがお前の魔力だ。どんな感じがする?」
「なんかじんわり温かくてふわっと重い。」
「見えるか?目で見るのではなく感覚を形にしてみろ。」
「えぇそれどうやるんだ…ちょっと待ってな」
エルヴィスに言われた通り、そこにある何かを捉えようとしてみる。見えないものを見るってなんだ。目を開いていたらどうしても視覚に頼ってしまうから閉じてしまう。試行錯誤してやっとイメージを掴んだ。この温かな塊にもし形があるのならそれは穏やかに揺蕩いながら淡く白く輝いているだろう。閉じていた目を開けると自分の掌の中に魔力が浮かんでいるのが見えた。何だか意識のあるスライムのように思えて、これが俺の手にすり寄ったりしたら可愛いだろうなと思い浮かべるとそれに呼応したように魔力が動く。
「もう魔力が動かせるのか!」
「え!これ俺が動かしてる?ってかエルヴィスも見えてるの?」
「魔力はただのエネルギーの塊だ。自ら動くことはない。本人が見ている姿とは異なるが、君も魔力に慣れていけば他人のそれも見ることは出来るぞ。」
「ふふ、そっか。なんか魔力って得体がしれないと思ってたけど実際は可愛いな。」
自分の魔力をペットのように周りを飛び回らせながら答える。こういう使い魔的な?憧れてたんだよね。
「素質は十分だな。言っておくが一般的な人は出した魔力を対象に注ぐので精一杯だ。形を変えたり、まして自在に動かすなんて出来ない。」
「そうなのか。じゃあ俺は意外と出来るやつなんだな。」
「私から言わせれば意外ではないがな。鍛錬を積めば私も軽く超えるだろう。」
「やっと異世界主人公っぽいじゃん。」
「ん?なんだ?」
俺にもこの国で秀でた部分があった。努力さえすれば報われそうなものが。嬉しくて、エルヴィスにもっと教えて欲しいとねだる。
「今日はここまでだ。いくら涼貴が素質充分だと言っても一度に大量の魔力を使うのは得策ではない。少しずつ慣らしていこう。」
「ん-確かに普段使わない部分を使ったからか頭が疲れた。」
「そうだろう。体にある魔力の感覚を忘れずにいれば段々集中せずとも任意で魔力を引き出せるようになる。それまでは疲れるだろうが練習あるのみだ。」
「うっす。ありがとうございました。」
ペコっとお辞儀するとエルヴィスも頭を下げ返してくれる。
「「すずたかさま~~!!」」
脱力した俺にぶつかって両方から抱き締める巨大な毛玉たち。俺の護衛の獣人さん、オットーとニブだ。2人とも狼犬っぽい。いや、種族的には狼なんだろうけど行動がどうしても犬。黙っていれば威圧感があるのに。2Mは優にありそうな巨体を立派な灰色の毛皮で覆っているがその尻尾がブンブン振り回されている。
「涼貴様はやっぱ凄いです。こんな短時間で魔力を自在に動かせるなんて。」
「優秀な兵でも1週間はかかりますよ。」
「俺たちより強くなっても護衛いらないとか言わないでくださいね。」
「俺たちも精進するので!」
放っておけば顔中舐め回されそうなのをどうにか阻止しながら2人のモフモフに埋もれる。幸せな苦しさだ…。俺が幸せそうにしているからかエルヴィスも2人を引き離したりしない。それに小言を言いながらポーターさんがお茶を用意してくれた。
「涼貴様、お疲れさまでした。流石のコントロールでしたよ。ほら、2人ともそろそろ涼貴様を解放してさしあげなさい。」
遠慮するみんなを呼び止めて、マーサさんが追加で焼いてくれたマフィンを一緒に頬張る。1か月の間で癒された俺の心はようやくこの平和な時間を楽しむことが出来るようになった。護衛ズに強請られて思いつく限りの歌を歌い、一緒に踊り、時に怒られながらも笑いあって過ごす日々は楽しい。
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