悪役神子は徹底抗戦の構え

MiiKo

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渡る世間に鬼はなし

閑話 父上はパパと呼ばれたい

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末の息子エルヴィスは幼いころから曲がったことを嫌う熱血漢ではあったが同時に忠誠心に篤く、騎士団長になってからは盲目的に国を守ることに命を捧げているきらいがあった。その彼が全てを裏切ってまでも助けたい青年がいるという。息子が謹慎を言い渡されたことにも驚いたが、それよりもこの堅物をここまで変えてしまうその男に興味が湧いた。謹慎の理由などどうでもいい。どうせあの王が裏で手を回したのだろう。自分とて真実か虚偽かを見抜く力くらいある。故に青年を我らの手中に収めることは同時に王家と神殿の闇を暴くチャンスとなり得るのではないかと考え、エルヴィスに全面的に協力を申し出た。

ただの心を折られた囚人に見えた青年が刑場で見せたものは面白かった。あの傲慢不遜な振る舞いをする教皇共が慌てふためく様は実に滑稽だったし、若い第1王子の顔が引きつる様はこれからも笑い種として語り継いでやろう。しかし、あれは実際は魔力暴走ではないだろう。本来魔力暴走は周囲を全て巻き込み無差別に傷つける。だが、彼のそれは確実に壇上の王侯貴族どもだけを狙っていた。それが邪神の加護によるものなのか彼の無意識下の制御なのかまだ定かではないが、そのおかげで我々が身柄を引き受ける正当な口実が出来たのでよくやったと褒めてやりたい。

初めはただ切り札としか見ていなかった青年は、一度話してみると人を惹きつける魅力を持っていた。ユーフィオの過剰摂取にも耐える強靭な精神力と何度打ちのめされても前を向こうとするひたむきさに私もすぐに彼を気に入った。気に入ったから我が手元に置いておきたい。

ようやく落ち着き、最近は息子に魔力操作の手ほどきを受けている青年のところへ向かう。ちょうど午後のお茶をしていたので混ざってみた。

「涼貴よ。魔力操作は出来るようになってきたかな?」
「あ!コンラッドさん。はい、エルヴィスに教えてもらって少しずつ進んでいると思います。」
「涼貴は集中力が素晴らしいのでかなり精密な魔法まで使えそうです、父上。」
「それは素晴らしい。」

ポーターの入れた紅茶とマーサのマフィン。彼は侍従たちにも大変可愛がられているらしい。

「時に涼貴、エルヴィスとはかなり親しいようだな。」
「はい。エルヴィスだけは僕も心から信頼できるので。」
「そうか、これがそなたにとって心の拠り所となっているのならなによりだ。」
「コンラッドさんと他のアマデウスの人たちもですよ。すごく助けてもらっています。」

私の孫ほどの年なのに、なんと素直でいい子だ…

「なあ私の子どもになる気はないか?」
「え、はいっ?子ども…ですか?」
「何をおっしゃっているんです父上…」
「いやあ、このエルヴィスは家を継がんからとこの歳まで独り身だし、お互いにそれほど信じ合っておるのならいっそ結婚してしまえば良いのではないかと思ってな。そうすれば私の義息子ともなるし。」
「い、いえ、僕は」
「父上!涼貴にはもう恋人がおります!私も涼貴をそのようには見ておりません!!」

ふむ、いい案だと思っていたのだがな。

「そうか。想い人がおる者に強制は出来んな。残念だったなエルヴィス。」
「父上…違うと何度も言っているでしょう。」
「え、エルヴィス??」
「違うぞ涼貴。君はどちらかというと年の離れた弟か息子だ。」
「それはそれで微妙だなあ。」
「しかしだな、涼貴。私の子どもになれというのは本気だぞ。」

エルヴィスが呆れたようにこちらを見る。どうせその場の思い付きだとでも言いたそうだ。

「父上、それは養子に迎え入れる、ということでしょうか。」
「うむ。まあいずれは正式にそうしたい。今は得策ではないだろうな。」
「コンラッドさん、本気でおっしゃっていますか?」
「当たり前だ。今でもこちらの世界での父だと思ってくれて良いのだぞ。」

そう告げると涼貴が泣き出した。神殿での一件でも泣かなかったのにどうしたのかと問えば、嬉し泣きだそうだ。今まで父親という存在がいなかったために胸がいっぱいになったらしい。それを聞けば私の父性も溢れ出る。涙が止まる気配のない涼貴を胸に抱き寄せて背をさすってやった。

「そなたはもう私の子ども、アマデウス家の一員だ。いつでも父と頼りなさい。」
「ぅう…はいッ、ありがとうございます。」

鼻をすすり上げる音も次第に止んで、ようやく顔を上げて見せてくれた。泣いてしまったと照れて恥ずかしそうなこの一番下の息子を存分に甘やかしてやりたい。

「さあ、晴れて家族だ。涼貴、私をパパと呼んでみなさい。」
「ぶふっぅッ」
「汚いなエルヴィス。さ、涼貴?」
「え、ぱ…パ?父上ではなくてですか?」
「父上と呼ぶ可愛げのないのは2人で十分だ。そなたからはパパと呼ばれたい。ダメか?」
「いえ、ぁ…パ、パ。」
「もう一度。」
「ッパパ!…あ゛~恥ずかしいです。許してください。」

うむ、実に良い響きだ。耳に優しく届く。素直にパパと呼んでくる涼貴を満面の笑みで眺めていると後ろから深いため息が聞こえてきた。

「はぁ、父上。涼貴を困らせるのもいい加減になさってください。エルヴィスも。父上から涼貴を守れ。」
「しかし、エリオット。涼貴が家族の一員となったのだ。喜ぶのも仕方ないだろう。」
「家族、ですか?」
「我らの末の弟となりました、兄上。」
「それはそれは、アマデウス家へようこそ、涼貴。我らが常に君の傍にいることを忘れずにな。」
「はい、エリオットさん。ありがとうございます。」
「ふふ、涼貴、もう家族なのだから私のことはエリオット兄さまと…」
「兄上まで!!」

2人の兄に挟まれて大笑いする涼貴を眺めながら、この平和がいつまでも続けばと願ってしまう。パパとして、子を守るためにしなければならない仕事はまだ山ほど残っていた。
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