悪役神子は徹底抗戦の構え

MiiKo

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渡る世間に鬼はなし

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平和な日々はしばらく続いた。

魔力操作練習も俺の集中力と子どもの頃鍛えた想像力でエルヴィスが驚くほど速く上達した。初めに習得したのは魔力を鎧のように纏う技。付加する属性によっては物理も他者の魔力も跳ね返せる。万が一のことがあった時、ちゃんと身を守れるようにと考えられた結果だ。自分も動きながら魔力を一定に保つのはかなり難しいらしいが、アクションで体がどんな状態でも常に冷静に分析出来る癖がついている俺にはそこまででもなかった。後は少しずつ出せる魔力の最大値をあげて体を慣らすだけ。

アマデウス家には王家と神殿からの様々な圧力がかかり、一部の国民から反発の声が上がっているらしい。俺には詳しく知らされなかったが、コンラッドさんとエリオットさんが中心となって反対勢力をねじ伏せたとポーターさんが教えてくれた。思っていた通りだ。やはり俺の味方であるという事実は彼らの立場を危ういものにしている。それでも彼らはそれを覚悟の上だから、俺もこの現状を覚悟をもって受け入れる。

3か月ほどたった頃、いつものように眠りについた俺は気付けば真っ白な部屋に立っていた。寝巻ではなく真っ黒い一枚の布をトーガのように掛けただけの頼りない状態だ。

「どこだここ…夢、か?」

辺りをキョロキョロしていると、ブンっと空気が振動してどこからか男の声が聞こえてきた。

--初めまして、橘涼貴。やっとあなたと話すことが出来る。私はあなたをシュノー・サナに遣わせたもの、万物の死を司る神だ。

遣わせる…神…ってことはこの声の主が俺をこの世界に連れてきた張本人か!

「おい!姿を見せろよ。俺をこんな目に合わせておいて謝罪の一つもないのか!」

--あぁ、申し訳ないが今の私の力は不十分でね、あなたに声を届けることしか出来ない。あなたが何か話しているのは見えているけれど内容は聞こえないんだ。

「そんな都合のいいこと言いやがって。力が何だ!ふざけんなよ。」

--怒るのも無理はない。あなたを降ろす場所を間違ったせいでしばらく加護のない状態で放置してしまったのは私の落ち度だ。しかしもう大丈夫。あなたは完全に私の庇護下にいるから相手方は容易に傷つけられないよ。

あまりに的が外れた話し開いた口が塞がらない。加護とかどうでもいいんだ。間違ったってなんだ。今までの全てはお前のせいか。俺の痛みも周囲の苦しみもお前のミスのせいで起こったってか。

--そう睨まないで欲しい。ああ!先に言っておかねば。あなたの恋人、菖蒲勲美は日本で元気にしているよ。
--と、言うことで、さっさと本題に入ってしまおう。この空間が保てる時間も限られているしね。

勲美さんは、無事。よかった。この情報を持ってきたことだけは評価してやってもいい。怒りと喜びと安堵が同時にやってきたせいで固まった俺を無視して自称神は話を進める。

--私は邪神と呼ばれているようだが、実際は違う。元は現在の主神と共に死の神として死者を導く役割を担っていたのだ。理由は長いので割愛するが力を失ってしまってね、今は神力を回復させている。
--だが、あなたも知っている通りその世界の生死のバランスは狂ってしまった。私が死者を導けないせいで彷徨った魂が負の感情を取り込んで瘴気となり、生きている者を苦しめている。私が降り立てれば解決も容易いのだがあいにくそこまで力を回復できていない。そこで、だ。私の加護を与えたあなたにその役割を担ってもらいたい。

「いや、一方的すぎないか…。急にそんなこと言われてはい、そうですかで受け入れる奴がどこにいる。」

--納得出来ないという顔だね。仕方もないか。だがあなたは私の加護をもってその世界にいる以上、必ず瘴気に埋もれた死者の魂を導かねばならないのだよ。それはひいては瘴気を無くすことに繋がるし、悪い話ではないだろう?

この上からの物言いが的確に俺のイラつきを高めてくる。

「瘴気なら神子がいるだろう。み・こ。なんでわざわざ俺が必要になるんだ。というより主神とやらがいる世界にお前は必要か?力を無くしたって、追い出されたの間違いじゃないのか?」

--もう一度言うがあなたの声はこちらには届かない。
--神子と言ったか?あれは奴による応急処置でしかない。神子による浄化は彷徨った魂を消滅させることで瘴気を取り除く。しかし本来世界の魂は肉体を離れればまた長い時を経て新たな肉へと移る。生まれ変わる、といったところか。それを消滅させていけばいくら新たに魂が生み出されようとも、世界にある肉体の数と一致しなくなる。肉体の数が魂を大幅に上回ればどうなると思う?新たな命が芽生えなくなるんだよ。魂のない体はただの肉の塊でしかないからね。多分人族もそろそろ衰退の色が見えているはずだ。

輪廻転生的な話なのだろうか。そして、このまま放っておくと新たな命が生まれなくて世界が滅んでいくと。部屋をうろうろ歩きながらそんな世界を想像してみる。

「それは大変な話だけどだから何だっていうんだ。そもそも俺はこの世界に生まれたわけでもないんだぞ。俺は世界を救いたいんじゃない、日本に帰りたいんだ。」

--涼貴、私の加護を与えたあなたの魔力を媒介にすれば彷徨える魂たちが本来の場所へ還ることが出来る。それにね、神子が浄化を本格的に開始した今、消滅したくない魂は唯一の救いであるあなたを求めて押し寄せてくると思うよ。だからね、あなたはどうしても私の使いとして死者の魂を世話しなくてはいけないんだ。

「聞いてないぞ、押し寄せるってなんだよ!!!それって瘴気が押し寄せるってことだよな?!瘴気って取り込まれたらおかしくなるって聞いたけど、そんなのが世界中から来るのか!」

--重大さは理解してもらえただろうか。私も出来る限り早くそちらに行けるよう努力しよう。それまでの間、死者の管理を頼む。やり方は魂を目の前にすれば自ずと見えるはずだ。

「簡単に頼んでんじゃねーよ!!おい!お゛い!!!」

俺の必死の叫び空しく、神からの返答はなかった。一体何だったんだ、というか一連の話に1ミリも納得できていないのに加護があるってだけでやらざるを得ないのか。ふざけんなよ、やっと平和な生活が過ごせてこれから頑張っていこうと思ってたのに。

ベッドの上に飛び起きた俺はそのままエルヴィスが滞在している部屋まで走る。納得も覚悟もしていないが、このことはコンラッドさん達にも聞いてもらわないといけない。瘴気が押し寄せるなら王都はやばいし、働いてくれている人たちに被害を及ぼすわけにいかない。辿り着いた部屋のドアをドンドンと殴ると数秒して飛び起きたエルヴィスが出てきた。

「どうしたんだ涼貴。1人じゃないか!何があった!?」
「大事な話だ。コンラッドさん達も呼んでくれ、今すぐに。」
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