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アマデウス侯爵領
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昨日からほぼ休みなく泣いていた俺はもう限界で、目は腫れるし喉は痛いし頭も何だかぼーっとしている。一度顔を洗っておいで、と言われて洗面所へ行き冷たい水をばしゃばしゃ顔にかけ、やっといくらかマシな顔に戻ったかなと鏡で確認した。少し頬のこけた顔だが、現金なもので、昨日までに比べて顔色が良くなっている。ダメ押しでもう一度水を被ったら、濡らしたタオル片手に部屋にいる勲美さんのところに戻る。あれだけベタベタしていたのにまだ一時も離れていたくなくて、会えなかった間の勲美さん不足を解消したくて、扉をばッと開けて彼の胸に飛び込もうとしたら、部屋にお客さんがいた。
「あれ、エルヴィス!オットーとニブも!!」
俺の小屋に人が入ることはないし、色々と大変なエルヴィス達はこの森に近づくことさえ難しかったはずなのに今日はどうしたんだろう?それでも久しぶりに会えた親しい人たちが嬉しくてニコニコ挨拶をすると少し気まずげに視線を逸らされる。オットーとニブなんて顔を真っ赤にして尻尾は垂れて不安げに揺れている。この反応は…?
「…えっと、3人はいつここに…?」
「ん゛んっ…あ~まあ、勲美殿のこともあるしな、話し合うのは早い方が良いかと思って今朝…」
「お、俺達は別に、涼貴様と勲美様が…お、想いあっておられると存じておりますのでっ!」
ぴしっ姿勢を正したオットーの追撃で俺は撃沈する。き、聞かれた。何を、ってかナニをどこまで聞いたんだ。顔は火のように熱くてもう3人をまともに見れない。うぁぁと声を上げながら両手で顔を覆ってうずくまる俺に勲美さんが毛布を掛けた。
「涼貴はまず服を着ろ。今上裸だって分かってるか?」
…え???バッと下を向けば確かに何も着ていない。体中に散らばる大量のキスマークが見放題になっていた。へなへなとへたり込む俺を膝の上に抱きかかえて大笑いする勲美さんを睨みつける。そもそもあなたが原因です。
「はっはっは、ごめんごめん。」
「俺、こんなの、もうみんなの顔見れない。」
「涼貴、大丈夫だ、久しく会えていなかったのだ。ちょっと動揺しただけだ、すまん。」
「お願いだから何も言わないでぇ…」
気を取り直したらしいエルヴィスが手をパンっと打って床の上にどっかりと座り込む。この小屋には椅子が1つしかないから仕方ない。護衛ズはドアの前に立った。
「さあ改めて本題に入ろう。俺たちは森の巡回という体でこちらに来た。あまり時間をかけては怪しまれる。」
「そうだよね、勲美さんについて?」
「ああ、昨日のことは瘴気が溜まりすぎたための現象だと報告をしたが、いつ王が勲美殿の存在を知るとも限らん。また、涼貴にはもう知っているが我々が君を引き取った際、時期を見て君を処刑するということを条件に挙げている。今はまだ瘴気で近寄れないと言っていればいいが王国民の感情が煽られているため、我々もそれほど長く先延ばしは出来んだろう。
そこでだ、諸々が発覚する前に2人を秘密裏に逃すことに決めた。」
「そ、そんなことをして、俺の処刑はどうするんだ?ばれたらアマデウス家が反逆者として窮地に陥ってしまうじゃないか!」
「そこは心配ない。お前の身代わりを立てる予定だ。王は分からんが他の奴らはどうとでもなる。
それよりも、ここを出た後での2人の行先だが、どこか場所の案はあるか?残念だが涼貴が邪神の使いとして全土に広まっている以上、平野部に広がる人間の国へは入ることが出来ないだろう。どれも皆、ユスタリア王国の属国と化しているからな。身の安全を保障できん。また勲美殿は黒目黒髪である故、かなり目立ってしまうだろう。」
「黒目黒髪はこちらには少ないのか?」
「神子しか持たない色と言われている。この世界生まれの者の中にも濃い色を持つ者は多いが、純粋な黒はいない。」
そんな風に普通に話を進める2人を思わず止めに入ってしまう。
「待って、先に進まないで。俺、まだ身代わりのこと賛成していないからね。」
「だが涼貴、それが最も穏便に済ませる道だ。」
「分かってる。だけど俺のせいで人が死ぬのは…。」
「君がそれを嫌がるのは重々承知しているが、我々とて君を生かすためには手段を選んでおれん。こらえてくれ。」
それでも自分の代わりに誰かが死んで、俺はのうのうと生き延びるのか。認めたくなくて渋る俺の頭を勲美さんが一撫でして、身代わりは最終手段とし、他の方法も探そうと言ってくれた。
「それよりも、ここを出た後のことでだが、俺に1つ行きたいところがある。」
「ほう、勲美殿に。」
「ああ、こちらに来るまでにいくらか世界の歴史を学んだが、どうやら死の神の語る歴史とこの国に伝わる歴史は相当違う。歴史は往々にして都合よく変わるものだが、もしこちらで主神と呼ばれている神の影響で史実がねじ曲がったのなら、その影響下にないところなら正しいものが伝わっているのではないかと思ってな。
そこでだ、エルフかドワーフか、このどちらかのいるところに向かいたい。」
うむぅと顎に手を当ててエルヴィスが唸る。そういえば、半透明の人たちが、人の国とはもう交流していないと言っていたか。
「確かに、一理ある。しかし、問題は彼らがどこに住まうのか情報がないということだ。
実は、私たちの計画では君たちを獣人たちの集落へと隠すつもりでいた。オットーとニブの生まれた村なら比較的安全にかつ人目につかずに移動できるからな。獣人たちは独自の文化を築いておる。もしかしたらエルフとドワーフについても彼らの方が詳しく知っておるかもしれん。」
エルヴィスに呼ばれてオットーが口を開く。
「我々の集落はここから荒野を越えて獣人の足で2週間ほど南に下ったところにあります。行くまでの道のりはいささか厳しいかもしれませんがそれ故人間はほとんど足を踏み入れませんので、他よりは安全かと。ニブと私がお供しますので安全は保障いたします。」
「2人共ついてきてくれるの?」
「アマデウス家の名前では君たちを守れんからな、彼ら2人は護衛の任を解いてただの獣人として付き添う。自分たちから志願してきたぞ。」
そこまでして俺を支えてくれるのか。勲美さんの膝から立ち上がり、こちらに笑顔を向けて礼をする2人に駆け寄ってありがとうときつくハグする。
「それは心強い。決行はいつにする予定だ?」
「脱出経路や旅支度を整えなくてはならん。監視の目をかいくぐるのは我々に任せてもらうとして、一番時間がかかるのはやはり勲美殿の準備だろうな。
勲美殿が魔力を自在に操れるようになり次第すぐにでも、と考えている。貴殿もかなりの魔力量のようだからな。涼貴と同じくらいの速さで習得できるだろう。期間でいうと1か月、といったところか。私がつきっきりで教えられればもう少し早いのだが如何せん行動が制限されていてな。」
「そうか、出来るだけ早く済むように努力しよう。よろしく頼む。」
「うむ、後は涼貴の瘴気の問題を、と思っていたのだが、今日は一切森に瘴気がないな。どうしてだ?」
言われてみれば昨日あの不思議な転移陣を発見した時には瘴気が一切なかった。俺にも一切の心当たりがなくて、肩をすくめる。
「そのことについてはわしが説明できるだろう。」
凛とした声が響いて、ひとりでに開いたドアの向こうに大きな女性のたおやかな姿が浮かび上がった。
「あれ、エルヴィス!オットーとニブも!!」
俺の小屋に人が入ることはないし、色々と大変なエルヴィス達はこの森に近づくことさえ難しかったはずなのに今日はどうしたんだろう?それでも久しぶりに会えた親しい人たちが嬉しくてニコニコ挨拶をすると少し気まずげに視線を逸らされる。オットーとニブなんて顔を真っ赤にして尻尾は垂れて不安げに揺れている。この反応は…?
「…えっと、3人はいつここに…?」
「ん゛んっ…あ~まあ、勲美殿のこともあるしな、話し合うのは早い方が良いかと思って今朝…」
「お、俺達は別に、涼貴様と勲美様が…お、想いあっておられると存じておりますのでっ!」
ぴしっ姿勢を正したオットーの追撃で俺は撃沈する。き、聞かれた。何を、ってかナニをどこまで聞いたんだ。顔は火のように熱くてもう3人をまともに見れない。うぁぁと声を上げながら両手で顔を覆ってうずくまる俺に勲美さんが毛布を掛けた。
「涼貴はまず服を着ろ。今上裸だって分かってるか?」
…え???バッと下を向けば確かに何も着ていない。体中に散らばる大量のキスマークが見放題になっていた。へなへなとへたり込む俺を膝の上に抱きかかえて大笑いする勲美さんを睨みつける。そもそもあなたが原因です。
「はっはっは、ごめんごめん。」
「俺、こんなの、もうみんなの顔見れない。」
「涼貴、大丈夫だ、久しく会えていなかったのだ。ちょっと動揺しただけだ、すまん。」
「お願いだから何も言わないでぇ…」
気を取り直したらしいエルヴィスが手をパンっと打って床の上にどっかりと座り込む。この小屋には椅子が1つしかないから仕方ない。護衛ズはドアの前に立った。
「さあ改めて本題に入ろう。俺たちは森の巡回という体でこちらに来た。あまり時間をかけては怪しまれる。」
「そうだよね、勲美さんについて?」
「ああ、昨日のことは瘴気が溜まりすぎたための現象だと報告をしたが、いつ王が勲美殿の存在を知るとも限らん。また、涼貴にはもう知っているが我々が君を引き取った際、時期を見て君を処刑するということを条件に挙げている。今はまだ瘴気で近寄れないと言っていればいいが王国民の感情が煽られているため、我々もそれほど長く先延ばしは出来んだろう。
そこでだ、諸々が発覚する前に2人を秘密裏に逃すことに決めた。」
「そ、そんなことをして、俺の処刑はどうするんだ?ばれたらアマデウス家が反逆者として窮地に陥ってしまうじゃないか!」
「そこは心配ない。お前の身代わりを立てる予定だ。王は分からんが他の奴らはどうとでもなる。
それよりも、ここを出た後での2人の行先だが、どこか場所の案はあるか?残念だが涼貴が邪神の使いとして全土に広まっている以上、平野部に広がる人間の国へは入ることが出来ないだろう。どれも皆、ユスタリア王国の属国と化しているからな。身の安全を保障できん。また勲美殿は黒目黒髪である故、かなり目立ってしまうだろう。」
「黒目黒髪はこちらには少ないのか?」
「神子しか持たない色と言われている。この世界生まれの者の中にも濃い色を持つ者は多いが、純粋な黒はいない。」
そんな風に普通に話を進める2人を思わず止めに入ってしまう。
「待って、先に進まないで。俺、まだ身代わりのこと賛成していないからね。」
「だが涼貴、それが最も穏便に済ませる道だ。」
「分かってる。だけど俺のせいで人が死ぬのは…。」
「君がそれを嫌がるのは重々承知しているが、我々とて君を生かすためには手段を選んでおれん。こらえてくれ。」
それでも自分の代わりに誰かが死んで、俺はのうのうと生き延びるのか。認めたくなくて渋る俺の頭を勲美さんが一撫でして、身代わりは最終手段とし、他の方法も探そうと言ってくれた。
「それよりも、ここを出た後のことでだが、俺に1つ行きたいところがある。」
「ほう、勲美殿に。」
「ああ、こちらに来るまでにいくらか世界の歴史を学んだが、どうやら死の神の語る歴史とこの国に伝わる歴史は相当違う。歴史は往々にして都合よく変わるものだが、もしこちらで主神と呼ばれている神の影響で史実がねじ曲がったのなら、その影響下にないところなら正しいものが伝わっているのではないかと思ってな。
そこでだ、エルフかドワーフか、このどちらかのいるところに向かいたい。」
うむぅと顎に手を当ててエルヴィスが唸る。そういえば、半透明の人たちが、人の国とはもう交流していないと言っていたか。
「確かに、一理ある。しかし、問題は彼らがどこに住まうのか情報がないということだ。
実は、私たちの計画では君たちを獣人たちの集落へと隠すつもりでいた。オットーとニブの生まれた村なら比較的安全にかつ人目につかずに移動できるからな。獣人たちは独自の文化を築いておる。もしかしたらエルフとドワーフについても彼らの方が詳しく知っておるかもしれん。」
エルヴィスに呼ばれてオットーが口を開く。
「我々の集落はここから荒野を越えて獣人の足で2週間ほど南に下ったところにあります。行くまでの道のりはいささか厳しいかもしれませんがそれ故人間はほとんど足を踏み入れませんので、他よりは安全かと。ニブと私がお供しますので安全は保障いたします。」
「2人共ついてきてくれるの?」
「アマデウス家の名前では君たちを守れんからな、彼ら2人は護衛の任を解いてただの獣人として付き添う。自分たちから志願してきたぞ。」
そこまでして俺を支えてくれるのか。勲美さんの膝から立ち上がり、こちらに笑顔を向けて礼をする2人に駆け寄ってありがとうときつくハグする。
「それは心強い。決行はいつにする予定だ?」
「脱出経路や旅支度を整えなくてはならん。監視の目をかいくぐるのは我々に任せてもらうとして、一番時間がかかるのはやはり勲美殿の準備だろうな。
勲美殿が魔力を自在に操れるようになり次第すぐにでも、と考えている。貴殿もかなりの魔力量のようだからな。涼貴と同じくらいの速さで習得できるだろう。期間でいうと1か月、といったところか。私がつきっきりで教えられればもう少し早いのだが如何せん行動が制限されていてな。」
「そうか、出来るだけ早く済むように努力しよう。よろしく頼む。」
「うむ、後は涼貴の瘴気の問題を、と思っていたのだが、今日は一切森に瘴気がないな。どうしてだ?」
言われてみれば昨日あの不思議な転移陣を発見した時には瘴気が一切なかった。俺にも一切の心当たりがなくて、肩をすくめる。
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