悪役神子は徹底抗戦の構え

MiiKo

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アマデウス侯爵領

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気配もなく小屋に侵入してきた女性。

長身のすらりとした体躯にプラチナブロンドの長髪を編み込んで後ろに流している。その体にまとっているのはシンプルな白いシャツとズボン。太ももまで覆う革のブーツには唐草模様のような緻密な模様が浮かんでいる。肩にかかるマントは一見深緑だが、光に当たると様々に色を変える、涼貴の知らない素材で出来ているようだ。

その後ろからぬっ隣に現れたのは、彼女の肩ぐらいの背丈がある大きくて黒い獣。四つ足にクマのような顔をしているがその爪と牙は鋭く、額にはねじ曲がった角が1本生えている。後ろ足で立てば優に4メートルはいくだろうその巨体で襲い掛かられれば人間などひとたまりもないだろう。

「っな…魔獣だと?!」

すぐさま剣を抜いたエルヴィスと護衛2人に部屋の隅へと押しやられる。あれは魔獣というのか。自分と勲美さんに防御の盾をかぶせて3人を窺う。相手の出方を窺ってピリピリと対峙している彼らの顔は真剣そのものだ。と、その時獣が大きな口を開いた。中に光る無数の牙に思わず涼貴も身をすくめる。

「だっはっは!俺が魔獣?全く、これだからこちらに来るのは好かんのだ。」

獣から聞こえるゴロゴロとした声に呆気にとられた3人が構えていた剣を下ろす。

「…話せるのか?」
「ふんっ失礼な奴らだ。俺をそこらを駆ける動物等と一緒だと思いおって。」
「西の、あまり怒るな。人間にはそなたらのことが伝わっていないなど分かっておったことではないか。」

ぐるる…と牙を見せて唸る獣を女性がそう宥める。そして、3人に向き直って言う。

「しかし、この者達はまだ賢いな。そなたが話せば剣を下した。時折来る馬鹿で愚かな奴らよりは話が通じそうだ。」

手の甲を口に当ててクスクスと笑う姿は優雅だがその細められた目は厳しく目の前の男達を見つめている。ふふ、と笑い終えてその目は次に涼貴を見つけた。

「そなたが死の神より遣わされた者だな?」

目の前に立った女性に顎をくいっと持ち上げられ品定めするように見られると居心地が悪い。ふむ、と呟きながら後ろに立つ勲美にも同じように触れる。

「まこと、死の神が久方ぶりに帰って来たと言うのは真実であったか。しかも、創造神様までお出ましとは、いやはや…。」

ぶつぶつと呟いてようやく解放された涼貴は、ぐりんぐりん回されて痛む首をさすりながらやっと女性に話しかける。

「貴方達は一体誰なんです?説明できると仰っていましたが?」
「ああ!いきなり剣を向けられたもので、うっかり自己紹介を忘れてしまった。」

またクスクスと笑いながら女性は優雅に腰を折る。

「お初にお目にかかる、神使殿よ。わしはサフィエレイア・ヤラヌーエ・クリスナン。ご覧の通りエルフで、自国では賢者と呼ばれておる。」
「俺の種族は決まった名前を持たん。エルフからは“西の“と呼ばれている。」
「あ、俺は涼貴と言います。こちらは勲美さんです…。」

突然の出来事に未だに突っ立っている俺達に向かって、まあまずは座って話そうではないか、と悠然と座る彼女に促されてようやく全員が腰を下ろした。

「まずどこから話そうか。」
「先程は剣を向けてしまい申し訳ない。しかし、私には後ろの方がどうしても魔獣に思えてしまうのだ。失礼だがまずは少し説明願いたい。」
「そなたは、アマデウス家の者だな。構わん。そなたらは人間にしては話が分かると有名だ。西の、説明してくれ。」
「はぁ…そもそも魔獣とは人間が勝手に付けた名だ。我々は古くよりこの地に住み、獣たちを守護しながら生きていた種族の末裔。侵入者に容赦せんために恐れられておるが人間共が馬鹿な真似をしなければこちらとてわざわざ関わらん。」
「地方の人家を襲うゆえ討伐隊が組まれていたと思っていたが、、」
「まあ中には瘴気にやられてただの獣に成り果てる者もおるわ。」
「なるほど、そうであったか。西の方、誤解してしまい申し訳なかった。」
「…話の通じる人間は初めてだな。面白い、ではもう一つ。そこの獣人と我々は祖を同じくしておるぞ。」
「「「「っえええ!!!」」」」
「ふふ、やはり知らなんだか。まあそれについてはおいおい説明するとして、今は瘴気について話そうか。」

あ、そうだった。衝撃の連続で最初に聞きたかったことを忘れてしまっていた。居住まいを正す面々を見やってサフィエレイアさんは続ける。

「端的に言うと、現在神使殿に瘴気が寄ってこんのは後ろの伴侶殿が創造神様より力を賜っているからだ。」
「創造神…?」
「あ思い出した、あのじいさんか。」
「ブハハ、創造神を爺さん呼ばわりとは!」
「え、あの、創造神って誰ですか?」
「創造神様はこの世界の始まりにおられた方。死の神も生の神もその方によって創り出された。」

そういえば、こちらに来た時に聞いた神話に出て来ていたおじいさんが、創造神と呼ばれていたか。

「生の神?」
「あぁ、人間は主神様と呼んでおったか。この世界を守護していることに違いはないが、創造神様よりは格下だ。」

常識が次々に覆ったエルヴィス達が隣で頭を抱え込んでいるのが見える。

「それで、勲美さんが力を賜っているというのは?」
「伴侶殿、こちらに移る時に何か託されませんでしたかな?」
「そういえば…必要になると言ってこれをつけられた。」

勲美さんが見せてくれたのは両肩甲骨に浮かぶ2つの記号。

「やはり。それらは創造神の眷属となったことを示す。その強さゆえ、瘴気が怖れて近寄ることが出来んのだろう。」
「俺1人の時はバンバン来たくせに」
「神使殿もそうだが伴侶殿も神によってこの世界に降ろされた存在。そしてそれぞれには役割が存在する。神使殿は瘴気を導くことが役目である故、仕方あるまい。」
「じゃあ、勲美さんといると、俺は役割を全うできないの?」
「それは、わしにはなんとも言えんが…。」
「ああ、自分が実際に世界に干渉するにはまだ時間がいるがもう瘴気はほとんど残っていないからそこまで心配しなくて良いと言っていたぞ。」
「誰が?」
「死の神。」

それをさっさと言ってください!!怒る俺に苦笑いを浮かべて謝る勲美さん。他に何言われたのか包み隠さずここで吐け、と凄むとしょうがないなと口を開く。

「俺がエルフかドワーフに会いたいと言ったのもそのためなんだが、死の神が地上に降り立つ準備を俺と涼貴に整えて欲しいらしい。」
「準備?」
「要するに信者を増やすってことだ。別に信者と言ってもここの宗教みたいなんじゃなくて、存在を認識して受け入れるって感じらしいがな。」
「それだけでいいの?」
「うん、どうも世界に干渉するには地上の生物の信仰心も関係するらしい。死の神は地上から消えて久しいから、まずは存在を知らしめるところから始めないといけない、とか。」
「それでなんでエルフとドワーフ?」
「主神様信仰の人間に受け入れるなんて無理だろう?」

ふむふむ、と聞いていたサフィエレイアさんの顔が凍りつく。

「それは…。そうか、地上に…。ますますお二方には我が国に来て頂かねばなりませんね。この世界に過去何が起こったのか、きちんとお教えします。」

笑みを消した真面目な顔を俺も緊張して見返す。今まで静かに聞いていたエルヴィスが口を挟む。

「出来ればこの2人も連れて行っては貰えぬだろうか。貴方方といれば安全なのは分かるが、私達も涼貴達を支援したいのだ。」
「もちろんだ。アマデウスの武勇は閉じたエルフの国にも届く。そなた達の頼みならば涼貴を逃がす作戦にも手を貸そう。」
「恩にきる。」

話し合いの末、俺と勲美さんの魔力操作はサフィエレイアさんが見ることになった。計画の実行は変わらず1か月後。エルヴィス達はその間に王家と神殿から派遣されている見張りを上手く誤魔化す方法と俺達の旅装束を準備してくれる。

あと1か月。あと1か月でやっと俺は閉じ込められた狭い空間から外へと飛び立つことができる。
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