悪役神子は徹底抗戦の構え

MiiKo

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アマデウス侯爵領

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さて、涼貴の首が容赦なく落とされた同日夜、アマデウス領の東端から闇夜に紛れて移動する人影3つと獣1匹。処刑台に立っていたのはエルフに伝わる秘儀によって涼貴の魔力を浸透させた人形であり、本物の涼貴はこうして無事に逃げ出すことに成功していた。人もほとんど立ち入らない深い森である故に国境の砦も見張りはおらず特に問題なくユスタリア王国から抜け出した涼貴一行は荒れた大地を南東に突き進み、エルフたちが隠れ住む森へと足を進める。


時同じくして、アマデウス領を訪れていた王族と神子、そして各大臣はコンラッド達の歓待を受けていた。アマデウス領の豊かな食材と物資をふんだんに使用した料理の数々は王宮のそれと何ら遜色はない程の豪華さである。

ーにしても豪胆な奴らだ。顔色一つ変えずにあの男の悪口を言うか。

主催者として大臣たちの話に相槌を打つコンラッド達を見ながら王は一人ごちる。不安がなくなった途端饒舌になる小物たちが口にする侮蔑に溢れた話題にも顔色一つ変えることなく対応する姿は腹の内を見せない貴族そのものだ。

それとも、生きているからこそとれる態度か。先ほど自分の影から受けた報告によると、東端の森より南へと下った人影があったそうだ。きっと十中八九あの男と手引する者であろう。アマデウス家は国を裏切り、あの男を逃がすことに決めたようだ。不正を嫌い常に公正明大であるアマデウスの男たちが自らの名に懸けて誓った言葉を破るのか。面白い。今ここで影からの報告をつまびらかにし、アマデウス家を王家を裏切った反逆者だと断じることは容易いだろう。そもそも王は自分の力をもってして、昼間首を切られた男が涼貴でないことなど見抜いていた。コンラッド達も頭は切れる。自分の目が欺けるとは思っていなかっただろうが、なぜこのような賭けに出たのか。死ぬつもりでいたのか。だとすれば殺す前に聞き出さねばならない情報がいくつかある。

ーまずは昼間の男について。確かにあれからは同じ魔力が漂ってきていたが、確実に本人ではない。どのような術を使ったのかは知らんが身代わりを立てたに違いない。

この国には伝わっていない技術だ。どこから協力者を呼び入れたのか。王が考え込んでいると、また監視を続けさせていた影から情報が舞い込む。

ーほぉ、エルフが力を貸したか。

思わず隠し切れない程左頬があがってしまってすぐ通常の微笑でかき消した。どうやらもう既に酔いが回っている諸侯は気が付いていないようだ。エルフが関わっているのなら身代わりの件も納得がいく。あの一族は魔力操作に長けて人間には習得さえできない秘儀を多数持っていると聞く。

ーしかし、争いを恐れて姿を現さなかった奴らが死の神の肩を持つか。遂に表舞台に出てきたと思えば愚かな選択をしおって。我々に宣戦布告をしたのと同じだと気付かない程間抜けではあるまいが。だがいい機会だ。これまで居場所すら定かでなかったエルフ共を一網打尽に出来る。

忠実な影へそのまま尾行を続けるように指示を出した王は自分には誰も指図できないのをいいことに饗宴に交じることなく思考を続ける。

ーアマデウス共は早々に力を削いで無力化しようと考えていたが気が変わった。奴らの誓いが信用できんのは今日で分かったがそれでも多くの国民の目に触れた処刑を嘘だと断じるのはまだ時期尚早だろう。今回でまた株があがった侯爵家をすぐに陥れると後始末が厄介だ。それに、まだ使い道がある。あの男がこいつらを大事に思っている限り、いい切り札として手元に置いておいてやろう。

これから起こりうる物事に対しての対応を思案している王の耳に神子の声が入ってくる。

「ですが、本当に良かったのでしょうか。僕は、いくならんでも殺してしまうなんて…」

どうやら大臣共があまりに口さがなく罵るせいで、神子はどうしてかあの男を可哀そうに思ったようである。一度自分も泣かされ、裏切られたと罵ったこともあるのを忘れたというのだろうか。それとも同じ世界からの人間というだけで未だに親近感を感じているのか。どちらにしても純粋というか単純というか、下の息子に手綱を握らせてはいるが、この神子の奔放な思考回路に彼も戸惑っているのはよく知っていた。

神子様がご心配されることでは!あれが正しかったのです、初めて処刑をご覧になって気が動転しておられるのでは…口々に神子を宥めようとする大臣たちの背後からよく通る声が響く。

「神子様、神子様の慈悲深いお心には敬服するばかりです。
しかし、考えてもみてください。奴は主神様に敵対する邪神を広めようとしたばかりか、王都に瘴気を呼び寄せて多くの民の住まいと暮らしを奪った男です。神殿での教育のかい空しく、主神様の慈悲にすがることもせずにあげく王族の皆様に危害を加えようとした。そのような者が今後改心して真っ当に生きることが出来るでしょうか?あのまま生かしておけば今度はどのような被害を巻き起こすか分かったものではありません。
処刑は確かにこの国を思ってのことですが、同時に奴をこれ以上罪を犯す前に止めてやるといった意味でも必要であったと思いますよ。」

これはこれは、騎士団長殿ではないか。つい先日は男を守ろうと必死になっていた彼が自らの手で首を落とし、その処刑の正しさを神子に説くというのは大臣共にとっても興味深いものであったらしい。

「そなた、以前はあやつを庇っておったではないか。」
「はい、お恥ずかしいことです。術で魅入られているなど気付きもせず醜態をさらしました。」
「はっはっは、騎士団長が魅入られるほどにあいつはヨカッタのか。」
「閣下、そのようなことは…。私もまだまだ鍛錬が足りませんでした。」

清廉潔白な騎士団長の醜聞はこれから尾ひれを多分につけてしばらくの間社交界を賑わせるだろう。ゆったりと椅子に腰かけながらその様子を眺めているとコンラッドが近づいてきた。

「陛下、陛下には多大なるご迷惑をおかけしましたこと、心より謝罪いたします。」

深々と頭を下げる侯爵に語り掛ける。

「よい。アマデウス候よ。今日のことでそなたらの忠誠に揺るぎがないことはしかと皆の心に焼き付いたであろう。私もそなた達のような優秀な臣下を失わずに済んだことまことに嬉しく思う。これからもユスタリア王国のために励め。」

わざと一番気にしているであろう話題を振ってやる。私は騙せぬと知りながらことを起こしたのだ。この場で全て暴かれて死ぬ覚悟でいたのに、何事もなかったかのように振る舞う王を見てどうするか。
周りでゴマをすってくる有象無象は無視して侯爵を観察するが、流石貴族界の重鎮といったところか、一片もぼろを出すことなく感謝と変わらぬ忠誠を口にして下がっていった。食えない男だ。今は家督を息子に譲ったとはいえ健在なうちは王家とて迂闊に手を出せば逆に足元を掬われるだろう。権謀術策が苦手と言われるアマデウス家において稀に見る知略家だ。国政に復帰してくるであろう彼にも以前に増した監視をつけねばならない。



だが、まずはエルフだ。ユスタリア王国を甘く見るとどのような目に合うのか、引き籠って世間を忘れたお年寄り共に思い知らせてやろう。
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